ワンカンパニーにコンテンツを結集 相乗パワーで新時代をリード

 「KADOKAWA」は10月1日、グループ9社と合併し、新しいスタートを切った。同社代表取締役社長の佐藤辰男氏に、今後の戦略などについて話を聞いた。

出版に映像、ゲーム、マーチャンダイジング エンターテインメント企業を指向

佐藤辰男氏 佐藤辰男氏

――新社設立の経緯、目的を聞かせてください。

 根底にあるのは出版業界を取り巻く厳しい状況です。私は「ダウントレンド」と表現していますが、インターネットやデジタルが脅威となり、抜け出せないダウントレンドが続いている。この状況を打破するためには、デジタル化への対応、そして、海外進出が急務です。

 これまでKADOKAWAは、角川書店をはじめ有力な出版社を擁し、ホールディングスという体制のもとに1社1社が健全にコンテンツを創出してきました。グループ内での競争もいい刺激になっていたのは事実ですが、デジタル化や海外進出といった新しい領域に取り組むには各社ごとではなく、ひとつになった体制でコンテンツを結集して打って出るべきだろう。そう判断し、ワンカンパニーとして新たなスタートを切るに至りました。

 しかし、各出版社はそれぞれの名でユーザーに親しまれてきたので、ワンカンパニー後もその名称はブランドとして継続させる「ブランドカンパニー」制度を導入しました。

 新生KADOKAWAでは、主力の出版事業だけでなく、映像やゲーム、マーチャンダイジングまでも包括するエンターテインメント企業を指向しています。企業としては規模が大きくなりますが、事業ポートフォリオを実現できるのが大きなメリットです。

――新しい体制下、どのような取り組みを進めていきますか。

 コンテンツのメディアミックスでの展開をさらに進めていきます。最近では、オンラインシミュレーションゲーム「艦隊これくしょん~艦これ~」の会員が100万人に達するなど大ヒットとなり、その特集を雑誌「コンプティーク」で展開したところ、部数が倍増しました。コミックも売れて、書店の活性化にもつながりました。当社は、ライトノベルや、いわゆるオタク系コミックについては業界でも高いシェアを占めています。ライトノベルをコミック化、アニメ化したり、コミックを小説にしたりといった展開によって、コンテンツに多様なファンがついてくれるのです。

 「角川書店で出版した小説を映画化し、映画のキャンペーンによって小説の売り上げを上げる」という、相乗効果を狙うメディアミックスは私たちが得意としてきたところです。出版社は通常、作品の使用を許諾するところまでしかできませんが、自社に映画やアニメ、ゲーム、マーチャンダイジングといった事業を持つことで、KADOKAWAだけでコンテンツビジネスを成立することができる。これは大きな強みになると自負しています。

――デジタル化への対応は。

 スマホの普及によって「紙ではなく端末で読む」というスタイルが広がることはもはや避けられないものと考え、電子書籍については業界に先駆けて取り組んできました。これまで、アマゾンやアップルといった「海外の巨大な黒船」でなければプラットフォーマーとして成立しない、という見方がありましたが、当社は、得意とするライトノベルとコミックを中心にしたコンテンツ配信事業「BOOK☆WALKER」を展開。他社にも参画してもらうことで、総合書店ではない、特定のジャンルに強い専門書店的なプラットフォームを確立しました。現在は一般文芸やビジネス書までジャンルが広がっています。今後もユーザーニーズをとらえながら、便利で魅力的なラインナップ、サービスを探っていく考えです。

海外視野に「KADOKAWA」に朝日新聞を起点に広告で誕生を「宣言」

2013年10月1日付 朝刊 2013年10月1日付 朝刊

――海外進出の展望は。

 特にアジアでは日本のライトノベルやコミック、アニメーションの人気が高く、すでに香港、台湾、中国本土には進出しています。日本の作品を翻訳するだけでなく、現地に編集部を置き、現地の編集者や作家、クリエーターなどの育成に取り組んでいます。アニメやコミック、声優を育成するためのスクールも開校に向けて準備を進めています。

 海外進出では海賊版が大きな問題となっています。中国本土では特約店制度を採用し、当社の作品の海賊版を扱わないという条件で特約店を広げていったところ、海賊版が減ってきました。「本物のほうが売れる」ということが実証できたのではないかと思います。そういう意味でも、現地に進出し、自らが事業を手掛けることの重要性を改めて感じています。

 今後は、シンガポールや韓国など、アジア全域への進出を視野に入れ、全社売り上げの10%を目指してきます。

――新社誕生を、朝日新聞の全面広告で「宣言」しました。

 新社設立にあたり、CIを実施しました。海外進出を視野に入れ「KADOKAWA」という横文字のロゴを作り、コーポレートカラーも統一。ワンカンパニーとなって目指すべき姿を「新しい物語をつくろう。」というキャッチフレーズで表現しました。これを広く多くの人たちに知ってほしい。その「起点」となるのが、朝日新聞と考えました。

 朝日新聞の読者は本好きな人が多く、当社の購買層と重なるところも多いと見ています。個人的にも朝日の書評欄が好きで、あの欄を参考に本を買う、という人は私も含め多いはず。そこで、朝日新聞でまず「宣言」し、その後、当社発行の雑誌70誌、交通広告、TVスポットで展開しました。

――改めて今後の展望を聞かせてください。

 デジタル化も海外進出といった新しい領域にも、自らが率先し、主体的に動くことで新たな物語を作ることができる。そう考えます。ワンカンパニーとなった強みを最大限に生かし、出版業界の活性化をリードしていきたいと考えています。

佐藤辰男(さとう・たつお)

KADOKAWA 代表取締役社長

1952年静岡県生まれ。76年早稲田大学第一文学部卒、日本トイズサービス入社。86年角川メディア・オフィス取締役。92年メディアワークス代表取締役。99年角川グループホールディングス取締役、キャラアニ代表取締役社長。05年メディアワークス代表取締役会長。同年角川モバイル代表取締役。06年メディアリーヴス代表取締役会長兼社長。07年角川プロダクション代表取締役会長。08年角川グループホールディングス代表取締役社長兼COO。13年KADOKAWA代表取締役社長兼IP事業統括本部長兼海外事業統括本部長。