刊行された書籍を読者に紹介するために評論する書評。新聞に掲載される書評は、読者、出版社双方から注目されています。朝日新聞に掲載される書評はどのように書かれているのか。文化くらし報道部 読書編集長の鈴木京一に聞きました。
ネット書店では購買傾向に従って「お薦め」を示され、ツイッターで自分と嗜好(しこう)の合う発信者をフォローすれば、必要な本の情報が入ってきます。「自分の好きなもの」の情報はいくらでも入る世の中で、新聞書評の役割があるとすれば、「自分の知らない世界」が自分の隣にあることを知ってもらうことだと思います。
隔週水曜に朝日新聞東京本社で「書評委員会」を開いています。日曜朝刊の4ページある読書面のうち、見開きの読書2・3面に新刊書評(約1,100字が1本、約800字が5本、約400字が2本)を載せていますが、これを書評委員(現在は社内外の22人)が書きます。会議室に並べた100冊程度の本から、花丸(一つ)、◎(二つ)、○(いくつでも)をつけて書評したい本を選びます。
会議の前半は書評権を誰が持つかをマルの強さに従って決めます。後半は前回の委員会で書評権を得た本について、読んでみたらどうだったかを報告してもらいます。花丸をつけても読んでみたらダメだった、ということもありますし、最初に書評権を得た委員が書評しなくても、ほかの委員に書評権が回ることもあります。
このような書評委員会は、本をめぐる思わぬ出会いを生み出す仕組みといえるでしょう。この本はこの筆者に、と編集部が依頼するやり方もありますが、ともすれば専門分野の本はその専門家に、となりがちです。最近では、生物学者の福岡伸一さんが『安部公房とわたし』(山口果林著)を書評する、といった出会いがありました。読者が「自分の知らない世界」を知るきっかけにつながればと思っています。
書評委員会に出す本は、編集部で選びます。私どもは隔週で300~400冊程度の本をいただいています。献本だけでは見落としもあるので、定期的に書店でも本を買い、その上で100冊程度に絞り込みます。読書面は現代日本の知的生産状況というニュースを、本を介して伝える場であると同時に、読者にとっては買い物ガイドでもあります。奥付の発行日から極力2カ月以内に書評を載せる、多様な本を取り上げたいので、ある著者の本を取り上げたら向こう1年はその著者の本の書評を載せるのはできれば避ける、などのルールを設けています。
このほか、読書1面には「ニュースの本棚」と題し、「消費増税」など、その時々のニュースに関連した本を紹介しています。その隣の「売れてる本」は『体脂肪計タニタの社員食堂』など、時代を映すベストセラーやロングセラーの背景を5人の筆者が分析しています。読書4面の「思い出す本 忘れない本」は中川翔子さん、篠山紀信さんら各界の方々に、自分に影響を与えた本について語ってもらっています。このほか、ビジュアル本を紹介する「視線」、「コミック」「ビジネス」欄があります。
日曜日の読書面で掲載する本は「ブック・アサヒ・コム」で毎週水曜に予告していますが、変更もあるのでご了解ください。書評は前記「ブック・アサヒ・コム」や「朝日新聞デジタル」などの電子媒体でも紹介しています。ツイッター「朝日新聞読書面」(@asahi_book)では出版関連ニュースなどを随時つぶやいています。
また、毎週最終週の読書4面は「ブックサーフィン」というヤングアダルト向け紙面になります。毎月最終土曜付の朝刊教育面「子どもの本棚」では児童書を紹介しています。
赤坂真理(作家)▽荒俣宏(作家)▽いとうせいこう(作家・クリエーター)▽内澤旬子(文筆家・イラストレーター)▽小野正嗣(作家・明治学院大学准教授)▽角幡唯介(ノンフィクション作家・探検家)▽萱野稔人(津田塾大学教授・哲学)▽柄谷行人(哲学者)▽川端裕人(作家)▽隈研吾(建築家・東京大学教授)▽佐々木敦(批評家・早稲田大学教授)▽田中優子(法政大学教授・近世比較文化)▽出久根達郎(作家)▽福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)▽保阪正康(ノンフィクション作家)▽三浦しをん(作家)▽水野和夫(日本大学教授・経済学)▽水無田気流(詩人・社会学者)▽横尾忠則(美術家)▽鷲田清一(大谷大学教授・哲学)▽渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)▽原真人(本社編集委員)
朝日新聞社報道局文化くらし報道部 読書編集長
1963年生まれ。東京大学教養学部(科学史・科学哲学)卒。87年入社、最近10年くらいは主に論壇関係の取材記者や編集者。2011年から現職。
書評Q&A
Q 書評にかかる本には値段の制限はありますか?
A 明確な線引きはありませんが、5千円を超えると選書リストに入れるのをためらいます。高額な事典や全集類は読書1面の「情報フォルダー」欄で紹介しています。
Q 校正刷りやゲラで書評委員が読むことはありますか?
A 掲載を急ぎたい本については、校正刷りで読んでもらうこともあります。
Q 書評委員による書評で新書や文庫がほとんどないのはなぜですか?
A 新書は扱う例が増えています。文庫については、単行本刊行時に書評する機会があるので、オリジナル版を除いては外しています。また、書評委員による書評とは別に、文庫・新書のみを扱う欄を設けています。
Q 書評の紙面配置にルールはありますか。
A 見開き紙面で、ジャンルの近いものを近くに集める、といった工夫をすることはあります。800字以上の書評では、できるだけ同じ週に同じ版元の本が複数載らないようにしています。
Q 書評委員の新刊は取り上げないのですか?
A 任期中は取り上げません。月2回顔を合わせるので、この原則を外すと「××さんの本を取り上げたから○○さんの本も…」となってしまうのでは、という懸念ゆえです。このほか、ある本の帯を書いた書評委員はその本の書評をしない、といったルールも設けています。
Q 朝日の書評は出るのが「遅い」ことがあるような気がしますが、なぜですか?
A よくこういうご意見をいただくので、全国紙5紙について、同じ本の書評がいつ載ったかを調べたことがあるのですが、朝日と他紙は互角でした。ご意見は弊紙への注目度の高さと受け止めています。ただ、新聞だけでなく、今はネットなどとの競争もあるので、できるだけ早く載せたいとは考えています。また、話題の新刊は早く載せるなど、メリハリをつけるようにしています。
Q 堅い本が多くて、エンターテインメント小説が少ないのでは?
A 新刊点数に占める割合で見ると「社会科学」が21.6%で最多、その次が「文学」が17.7%となっており(『出版指標年報』)、「堅い本」が多くなるのは出版の実勢を写してはいます。ただ、エンターテインメント小説への関心は高いので、今後、何らかの形で紙面での扱いも増やしたいと思っています。
Q 書評委員はどのように選んでいますか。任期はありますか?
A 文芸だけでなく、社会科学、自然科学など専門を勘案してお願いしています。その際、専門を持ちつつも、幅広い関心をお持ちの方にお願いするようにしています。また、「お茶の間」への知名度のある方にも入ってもらうようにしています。基本的な任期は2年ですが、3年以上お願いすることもあります。年齢は現在は30代~70代です。
Q どうしたら書評に載りやすくなりますか?
A なんとも言えないのですが、いい本、内容に新しさがある本ということになるでしょうか。複数筆者による論文集などは編集の視点が明確でないと、選書リストには入れにくくなります。また、専門性が極めて高い本も、一般読者へ伝える意義が見いだせないと紹介しにくくなります。多くの本の中から「いい本」として見つけられるには、装丁も大事だと思います。