「アマゾン」を通じたインドの識字率向上のアイデアで栄冠

 フューチャーライオンズの日本初の受賞者は、大学も研究内容もそれぞれ違う混成チーム。初挑戦で見事受賞の栄冠を勝ち取った。

多々良 樹さん 慶應義塾大学 理工学大学院2年
林田智樹さん 早稲田大学 理工学術院1年
二瓶太一さん 慶應義塾大学 法学部政治学科3年
田代このみさん 東京工業大学大学院 社会理工学研究科2年
下 健児さん 慶應義塾大学 法学部政治学科4年

電通のインターンシップで知り合い、意気投合してコンペに挑戦

──簡単な自己紹介をお願いします。

 大学時代は、人と機械の接合面を主とするインターフェースを研究。卒論のテーマは「香りテレビ」でした。大学院ではMR(複合現実:Mixed Reality)について研究しています。電通のインターンシップを経験し、コミュニケーションやクリエイティブの面白さに目覚めました(多々良さん)

 コミュニケーションロボットの研究をしています。映像を制作したり、絵を描いたりするのが好きで、その延長で広告の世界に興味を持つようになりました。(林田さん)

 趣味はウェブのデザインやコーディング。インターンシップを通じてプロのクリエイターや同世代の仲間から多くの刺激を受け、自分もフューチャーライオンズに挑戦したいと思うようになりました。(二瓶さん)

 大学時代は計量経済を研究。卒論のテーマは、「日本商業銀行と投機取引の関係について」。アプリ開発をしている友人のマーケティングを手伝い、難しさに直面。岸勇希さんの『コミュニケーションをデザインするための本』を読んで感動し、教えを求めてインターンシップに応募しました。(田代さん)

(左から)二瓶太一さん、多々良 樹さん、田代このみさん、林田智樹さん ※下 健児さんは欠席

(左から)二瓶太一さん、多々良 樹さん、田代このみさん、林田智樹さん(下 健児さんは欠席)

──フューチャーライオンズに応募した経緯は。

 今年2月にAKQA主宰の「IGNITE」に参加したところ、全く評価されなかったんです。その雪辱を果たすというのが最大のモチベーションでした。田代さんと僕はその時も同じチームで、今回は二瓶君と林田君をメンバーに加えて挑戦しました。(多々良さん)

──受賞した「awaken by amazon」のアイデアは田代さんの発案だったとか。

 世界的なブランドを題材にしたいという思いが当初からありました。そこで、「A」から順に名だたる企業を書き出し、理念などについてメンバーと議論したんです。アイデアを詰めていく過程で常に意識していたのが、「IGNITE」でイナモトさんが語ってくださった言葉でした。「ただのキャンペーンで終わるようなものではなく、持続できることを提案してほしい」「世界中の人が共感できるアイデアがいい」「本当に価値のある、本質的なアイデアを求めている」「実現に向けてクライアントのビジョンをきちんと理解することが大事」。こうした言葉が手がかりとなり、アマゾンのアイデアにつながっていきました。(田代さん)

──メンバー間で意見が割れることはなかったですか。

 実は、林田君が出したもう一つの案もすごくよかったんです。面白いことに、この案を出した林田君が田代さんの案を推し、田代さんが林田君の案を推すという事態になって……。「インドの人たちは本当に本を必要としているのか」「現地での流通は誰が担うのか」といった話も出たのですが、結局はアマゾンの案に落ち着きました。(多々良さん)

 世界を舞台にしたコンペなので、大きなことを掲げたいという気持ちがあって、アマゾンの案を推しました。利己的な行為が自然と利他につながっている仕組みも気に入りました。(二瓶さん)

──エントリー用の動画を制作したのは林田さんだそうですが、工夫した点は。

 ストーリーのわかりやすさが大切だと思っていました。最初に困っているインドの人々を見せてから本不足の現状を説明していくのか、現状を説明してから困っている人々を見せていくのか……。そういう筋立てに神経を使いました。また、メンバーと一緒に過去の受賞作のムービーを見て、効果的な見せ方を研究したりもしました。(林田さん)

──将来はどのような活動をしていきたいと考えていますか。

 人の生き様を変えるようなキャラクターを創り出してみたい。「世の中のためになりたい」「いいことをしたい」と人々に思わせてしまうようなキャラクターを創り出せたらいいなと思います。(多々良さん)

 この5人でカンヌの授賞式に赴いたのですが、現地で第一線のクリエイターや海外の受賞者と交流し視野が開けました。この経験を僕なりに消化して将来の方向性を決めたいと思っています。はっきりしているのは、自分自身がワクワクでき、その気持ちを多くの人と共有できるような仕事をしたいということです。(林田さん)

 カンヌで出会ったクリエイターや学生たちは、「人のため」という以前に、「自分が楽しめるかどうか」という基準を大切にしていると感じました。僕もそうありたい。遠い未来の夢は、お金を介さずに欲しいものが手に入る世の中の実現です。成立させるには善意が必要で、そこに貢献できるのがクリエイティブやコミュニケーションなのではないかと思っています。(二瓶さん)

 無名の素人でも、作ったものが広く知られ、評価された途端、ランキングが一気に上がって世界のすごい人たちとつながれる。今回、そういう体験をさせていただきました。私は広告業界に就職が決まっているのですが、誰でもアイデアを披露し、力があれば世界への道が開ける「ランキングの場」みたいなものを作ってみたいです。(田代さん)