「百点満点の銀座」であるために 時代と共に変わり続ける

 銀座で商売をする小売業やサービス業が「『世界の銀座』を目指す」という一つの思いのもとに集まり、活動しているのが「銀座百店会」だ。『銀座百点』という月刊誌を発行していることでも知られる。同会の副理事長であり、ハンドバッグと服飾を扱う「銀座大黒屋」会長の安西章次氏に、同会の活動内容や商圏としての「銀座」について話を聞いた。

「銀座の薫り」を発信する『銀座百点』は700号を発刊

安西章次氏 安西章次氏

――「銀座百店会」発足の経緯を聞かせてください。

 江戸時代の銀貨鋳造所である「銀座」が1800(寛政12)年、日本橋蛎殻町に移り、その跡地に商人が店を構えたことが商店街としての銀座のルーツです。その頃、そこに私どもの大黒屋も出店したのです。創業時は鶏卵・珍味食料品店で、戦後の統制の影響で婦人雑貨店になりました。銀座はその後、時代を経て、東京の、そして日本の中心街として、文化や流行を発信し続けました。第2次世界大戦後も、当時の町会長が資材や建材を用意し、以前の地権者が商売を始められるようにしたため、いち早く復興しました。銀座はこうして「日本一の商店街」として発展してきたのです。

 しかし、高度経済成長の中で、新宿や渋谷といった新しい商業地が台頭してきました。改めて「サービス・信用とも百点の街づくりを」と、銀座で商いをする店が集まり、1954年に結成したのが「銀座百店会」です。

――加盟している会員は。

 現在137の会員で構成されています。加盟するには、銀座で5年以上商売をしていることが条件で、審査をして決めます。また、「銀座での商い」を事業の中心に考えている商店や企業が対象です。エリアは、南北は銀座1丁目から8丁目まで、東西はコリドー街と泰明小学校の付近から、東銀座の歌舞伎座ぐらいまで。ちょうど首都高速に囲まれた地域になります。最近では4月に新開場した歌舞伎座が加盟しました。街づくりの中において「文化的な施設」に重きをおいてきた当会にとって、歌舞伎座の加盟は念願でした。

――月刊誌『銀座百点』の編集・発行も活動の大きな柱ですね。同誌はタウン誌の草分け的な存在で、豪華な執筆陣などでも知られる冊子です。

『銀座百点』2013年6月号の表紙 『銀座百点』2013年6月号の表紙

 百店会発足の翌年1955年に創刊し、今年3月に700号を発刊しました。銀座の薫りをお届けする雑誌として、情報だけでなく、銀座の文化を表現することにポイントを置いて編集しています。「文化」「知識」「質」を大切にしている街ということもあり、銀座に本社があった文藝春秋にご協力いただき、著名な作家や俳優の方々に寄稿していただいています。

  脚本家だった向田邦子さんが初めてエッセーを書いたのも、この冊子です。その後『父の詫び状』として書籍化されました。ほかにも、池波正太郎さんの『銀座日記』、和田誠さんの『銀座ドキドキの日々』など、同誌連載からベストセラーが生まれています。

 冊子は加盟店に500部ずつ配布し、来店者に配ったり、お得意様に送ったりしています。有料購読者もいて、「毎月楽しみにしています」といったお便りが届くなど、長年愛読して下さるファンも少なくないのはとても光栄なことですね。

――長年、銀座で商売し、銀座で働いてきた立場から、「銀座」という街の魅力はどこにあると考えますか。

 銀座通りと晴海通りという大通りはもちろん、中に入った通りにも多くの店があって、どの通りもにぎわっています。専門店も百貨店もあり、飲食店も含め高級なものから庶民的なものまでそろっていて、画廊や映画館、劇場のような文化的な施設もあります。銀座に来れば一日楽しめる・・・・・・。それが魅力です。

 仕事柄、ヨーロッパの街の視察に行きますが、銀座のような街は実はとても珍しい。海外の一流ブランドも銀座に多く出店していますが、そうした高級店もあるけれど、それだけじゃない。それが銀座らしさですし、これからもその「らしさ」を守り続けていきたいですね。

※画像は拡大します。

最近の表紙から(左が700号となった2013年3月号) 最近の表紙から
(左が700号となった2013年3月号)
加盟店の紹介をはじめ、「銀座」がテーマの話題が満載 加盟店の紹介をはじめ、
「銀座」がテーマの話題が満載

新規参入も銀座は歓迎 他店にない、オリジナルを売って生き残る

――銀座で商売をする難しさもありますか。

 やはり社会情勢の影響を受けやすいですね。最近では、2008年のリーマンショックの後は、街全体として売り上げが落ち込みましたし、東日本大震災の後も客足は減りました。国際的な政治問題が起きれば、外国人観光客が激減することもあります。しかし、景気が持ち直せば客足も売り上げも上向きになる。社会情勢は冷静に見つつ、私たちとしては、どんな状況でも「やっぱり銀座に行きたい」と思ってもらえる魅力ある街づくりに取り組んでいくことが重要と考えています。

 そして、銀座で商売をするのに大切なことは、「独自の売り物を持つ」ということです。世界中から一流品が集まる街ですから、私自身も、お客さまに支持される「他にはない独自の商売をする」ことにこだわってきました。バッグを中心にオリジナル商品には力を入れてきました。また、英国ブランド「マーガレット・ハウエル」を1985年から手掛けていますが、日本で最も早く扱っています。

  フランスの商品なら現地に足を運び、どういう方が買っているのかを見て、扱うべきかを判断します。自分の店独自の商売をするという気概やプライドがないと、おそらく銀座という街からは淘汰(とうた)されてしまう。銀座ならではの苦労と言えば苦労ですし、銀座で商いをすることのやりがいでもあると言えるでしょう。

――銀座百店会にとって「これからの銀座」とは。

 最近、「銀座も変わったね」というような声を聞くことがあります。でも、変わらないようなら、銀座はもう終わりです。銀座が日本の中心で先端であり続けてきたのは、時代に合わせて変わってきたからなのです。

 街は生きています。うれしいことに、昔も今も「いつかは銀座に店を持ちたい」と頑張り、進出してくる人たちがいます。銀座は、そういう人たちに間口を開き、歓迎しています。そうした新しいプレーヤーにも銀座という街を理解し、愛してもらい、ますます魅力ある街になっていければ、と願っていますし、そのために私たちも大いに努力したいと考えています。

安西章次(あんざい・しょうじ)

銀座百店会副会長/銀座大黒屋会長

1941年5月30日生まれ。64年慶応義塾法学部政治学科卒。5年間の社会人生活の後、銀座大黒屋に入社。09年から現職。

◆銀座百店会 http://www.hyakuten.or.jp/ 『銀座百点』 B6判 約10万部 毎月1回1日発行