銀座では、この街でビジネスをする人たち自らが「銀座らしさ」にこだわり、街づくりに携わっている。その街づくりで主導的な役割を担っている銀座街づくり会議の副議長で、文明堂製菓・文明堂銀座店 代表取締役会長の岡本圭祐氏に「街としての銀座」を維持していくことの意義や、最近の銀座の変化について聞いた。
銀座にふさわしい景観とは 再開発を機に発足
――「銀座街づくり会議」ができた背景や経緯を聞かせてください。
銀座は明治以来、日本を代表する商業地として、伝統を重んじながらも常に新しさを発信し、発展してきました。その支えとなったのが「協調」です。1918年に発足した「銀座通連合会」をはじめ、通りごとの会や町会、業種別の会など、銀座の街には多くの組織が存在し、お祭りなどの催事から商店のあり方まで、常に話し合ってきました。個々の商店が銀座の街を愛し、ほかの商店や商人と協力しながら「銀座らしさ」を守り続けてきたのです。
銀座に新しく進出する商店についても、かつては銀座の古手の不動産業者が顔見知り同士で仲介するケースがほとんどで、「銀座ってこういう街ですよ」などと説明しなくても銀座らしさは保たれていました。しかし、時代の流れやグローバル化の動きの中で、商店や企業はもちろん、ファンドや不動産業者といった新しいプレーヤーが銀座の街に参入してくるようになっています。さらに2003年に銀座6丁目の再開発計画が浮上。当初190メートル近い超高層ビルになるという話でした。銀座は「銀ブラ」という言葉にも象徴されるように、人間が歩いて楽しむヒューマンスケールの街。そんな超高層ビルが建ってしまうと、景観が損なわれ、空が見えなくなってしまう。この事例に代表されるように、街づくりに関して先方と折衝する正式な窓口であり、意思を決定する機関が必要になり、04年に「銀座街づくり会議」が発足したのです。
――活動内容を教えてください。
銀座には、1998年に中央区に働きかけ、特別に承認してもらった地域ルールの「銀座ルール」があります。容積率や建物の高さ制限、駐車場などに関する特別ルールです。銀座街づくり会議はこの「銀座ルール」の周知を図りながら、新たな開発計画などの銀座の街づくりに関するあらゆる問題の窓口となっています。
さらに、2006年には銀座にふさわしい景観やデザインの指針となる「銀座デザインルール」を策定し、銀座デザイン協議会を立ち上げ、協議型の街づくりを進めています。銀座デザインルールは、事業者のオリジナリティーやクリエーティビティは重んじながら、周りと調和する内外装、看板、照明の基準を定めたものです。例えば、ある衣料品チェーンは他地域で使っている赤い大きな看板ではなく、白を基調とした内外装に、またあるドラッグストアチェーンは、改装の際に外観を銀座独自のデザインにしていただきました。最近では、音声や香りなどの要素についても策定し、理解をいただくよう働きかけています。
敷地面積100平方メートル以上の新築の建物と、確認申請を必要とする屋外広告には行政への申請が必要ですが、これについても銀座デザイン協議会と事業者の合意書がなければ、中央区は受理しないことになっています。中央区も銀座デザインルールを非常に重要視してくれているのです。ここ数年は、自主的にご相談に来られる件が非常に増えています。デザイン協議会の了承がほしいという相談だけではなく、自社の取り組みを後に続く「銀座らしさ」の参考例にしてほしいというポジティブで協力的な事例が多いのは、非常にありがたく、協議型がいい形で浸透してきたことを感じています。
日本で最も「熱くて厚い街」 お客様がより歩きやすい街に
――「銀座で商売をする」ことには、どのような苦労や喜びがありますか。
銀座で商売をすることに、多くの店や企業がステータスを感じています。うれしいことに、海外ブランド企業も「ステータスと信用を得ることができる街」と評価し、アジアの旗艦店として出店してくれています。でも、そういう街だからこそ、「超一級」でなければ生き残っていけない。それも事実です。私の会社も全国に店舗がありますが、銀座の店が内外装、商品、販売員、そして「おもてなし」まで、すべてにおいて最高のクオリティーを提供するために努力を重ねています。それは銀座だからこその苦労ですが、半面、最高のもの、銀座オンリーの品物を提供していくんだというプライドと心意気をもって商売ができる。それは、最高の喜びでもあります。
――あらためて「銀座の魅力」とは。
この街には、広い通り、おしゃれな通りから気さくな路地まであり、各通りの津々浦々に、高級な店から庶民的な店まで、さらにマニアックな専門店や、まるでギャラリーのように一品ものの工芸品が買える店までがそろっています。それぞれの店が、それぞれの店なりの「日本一」を掲げながら、誇りを持って商いをしている。そして、常に新陳代謝を繰り返しています。私自身、長年銀座で働いていますが、今でも街の中を歩くと知らない店やサービスに出くわし、いつも刺激的です。常に行ってみたい店が後を絶たないのです。どんな方でも楽しめる店が必ずある、間違いなく「日本一熱くて厚い商業集積地」です。
そして、「誰と来ても安心な街」とよく言われます。親や子どもと一緒に来ても、安心で安全で、きれいな街。こうした、銀座ならではの魅力は今後も街づくりを通じて守り続けていきたいですね。
――銀座の街づくりにおける今後の課題、展望などを聞かせてください。
容積率から言えば、まだビルが建つ余裕はあるのですが、入居する新たな店舗が、超一級のテナントだけで埋まるのかは大きな課題です。粗悪な商売や、金太郎あめのように他地域にある店舗と同じような商品・サービスを提供する店が増えると、銀座の価値がなくなってしまうからです。
いわゆる「五つ星ホテル」や高級旅館、住宅など、銀座に足りないものもまだあります。歌舞伎座は新開場しましたが、文化的な施設も少ない。高いビルがないので、丸の内や日本橋のように大手企業の大口のオフィスも銀座にはほとんどありません。超高級住宅を含めて、そうした「ないもの」をいかに誘致していくかを現在、検討しています。
集客に関しては、外国人観光客をいかに増やしてリピーターになってもらうか、地方からの来街者を含めて、「銀座ビギナー」の方にどうやって情報発信をしていくか、が課題です。街中には公式のインフォメーションセンターもまだありません。中央区とコンシェルジュデスクのようなものを設けることについて検討したり、Wi-Fiの実験を進めたりしながら、膨大な情報量を編集し、わかりやすく発信する仕組みを構築していきたいと考えています。
また、臨海部から都心を結ぶ新しい交通システムの構想があります。銀座の街中を通すのか否かは、今後検討してくべき議題です。銀座の魅力である通りや路地の多様性、そして、歩いて楽しめるというメリットを阻害しない形でどう展開していくかを考えていきたいですね。
私たちが考える理想の街づくりは、それぞれの商店や企業が最高の商品やサービスを提供しながら、お互いに力を合わせて共存共栄し、街としての魅力を高めていくことです。最近は若い来街者も増えていますが、様々な層のお客さまに満足し、楽しんでいただける日本一の街を目指していきます。
銀座街づくり会議 副議長/文明堂製菓・文明堂銀座店 代表取締役会長
1954年東京生まれ。76年慶應義塾大学経済学部卒。同年明治乳業(現明治)入社。80年 文明堂銀座店、文明堂製菓入社。95年文明堂製菓代表取締役社長。96年文明堂銀座店代表取締役社長。12年より現職。11年銀座街づくり会議評議会副議長。