中・長期的にお客様とつながりたい 日々試行錯誤の投稿で82万人のファン

 現在、全日本空輸(ANA)のフェイスブック公式アカウントのファン数は約82万人。全国でも有数のファン数を誇る。もともと航空機ファンが多いだけでなく、同社の各部門の社員が登場するなど投稿コンテンツも工夫されている。このアカウントの運営を担当するプロモーション室マーケットコミュニケーション部 主席部員の川合真樹氏に、同社がソーシャルメディアを始めたきっかけや目的などについて聞いた。

ANAを指名してくれるお客様とのコミュニケーション 各部門から話題を集めオリジナルにこだわる

川合真樹氏 川合真樹氏

――フェイスブックを始めた経緯について教えてください。

 ANAにはANAマイレージクラブという会員組織があります。ご搭乗や買い物でたまるマイルを航空券や電子マネーなどの特典と交換できるマイレージプログラムです。この比較的ご利用の多いお客様を対象としたスキームとは別に、例えば、飛行機に乗る頻度がそれほど多くないが、乗るときは毎回ANAを利用している方とか、年に1回の家族旅行では必ずANAを利用しているといったお客様とも日ごろからつながっていくための手段が必要だと感じていました。2009年ごろから中・長期的にお客様との関係性を強めていく有効的な方法を模索していたのですが、その過程でフェイスブックが日本でも話題になり始め、欧米の多くの企業も利用していることがわかってきました。近いうちに日本の企業も利用するようになるだろうし、私たちが求めるコミュニケーションが可能かもしれないと判断し、11年1月に始めました。ソーシャルメディアで何かしたいと思って始めたのではなく、コミュニケーションの方法を探していた時にフェイスブックに行き着いたという感じです。

――投稿する内容については、どのように決めていますか。

 目的は「中・長期的にお客様とつながっていくためのもの」とはっきりしていたものの、始めた当初はどういう投稿がふさわしいのか、そのためのネタはどうやって決めるのかもわかりませんでした。そこで、まずは毎月1回、編集会議を開き、営業や商品開発、客室担当など各部門の社員にも参加してもらい、それぞれのニュースや話題を集めることから始めました。それをもとに投稿のネタを考え、1カ月のスケジュールを組んでいく。今は、編集会議もメールのやりとりでできるようになりましたが、制作の流れを作るまで1年ほどかかりました。他の企業のフェイスブックアカウントもチェックして参考にしてはいますが、投稿内容についてはオリジナルにこだわっています。

ANA.Japan フェイスブックページ ANA.Japan フェイスブックページ

――フェイスブックに携わるスタッフは何人ですか?

 現在、私を含めて3人。実作業は2人でまわしています。他の業務との兼任です。更新は平日のみで1日1回から2回くらい。コメントについては、クイズやアンケートなどこちらから呼びかけたものや投稿に関する質問には返答する程度です。投稿とは関連のないご意見などが書き込まれる場合に備えて、運営担当者とCS推進室が朝晩2回、モニタリングをして対応しています。おかげさまで、これまで大きなトラブルはありません。コメント欄は、会社の状況が把握できる健康のバローメーターのようなものでもあると思っています。

――82万人以上のファンを獲得しています。

 ファン数を増やすために特別なことは何もしていません。ある時期から突然ファン数が増え始めたので不思議に思っていたら、フェイスブックを運営しているフェイスブックジャパンの利用案内のページで「おすすめの企業ページ」としてユニクロや無印良品と並んでANAも紹介されていることがわかりました。なぜ、そこに名前を連ねることができたのかはわかりませんが、おそらくフェイスブックを始めた時期が他の企業より少しだけ早かったからだと思っています。

――投稿の内容について工夫していることは。

 投稿した記事の「いいね!」と「コメント」「シェア」の数を見ています。ファンが反応しないコンテンツは、自分たちがどんなに良いと思っても「駄目なもの」と判断しています。文章のトーンにも気をつけていて、例えば夕日の写真でも、私たちから「きれいな夕日ですよ」と決めつけるような書き方はしない。あくまでも事実のみを書いて修飾語をつけません。その夕日がどのように見えるかは見た方にお任せすればいいことですから。感想の押しつけはせず、少し距離を置いて書くようにしています。

 そうした独自のルールもこれまでの経験の中で気づいたことです。実際に独りよがりなものやこちらの都合で投稿したものは反応がよくありませんね。とはいえ、これらのルールもあくまで感覚的なものでマニュアル化することは難しい。2年過ぎた今でも「この表現は駄目だったな」と日々反省しながらやっています。

投稿は平均「5,000いいね!」 5万の「いいね!」があった写真も

川合真樹氏 川合真樹氏

――これまで最も反応がよかった投稿は。

 中秋の名月に機影が重なった写真を2年連続でアップしましたが、これには5万弱の「いいね!」がありました。航空写真家のルーク・オザワさんの作品です。通常の投稿でも平均5,000以上の「いいね!」があり、多いものでは1万を越えます。CA(客室乗務員)の訓練や機内食を作っているグループ会社の様子などを投稿することが多いですが、お客様がふだん目にしない部分を見せることで安心感にもつながると考えています。

 機内サービスで提供している音楽やカレンダーの表紙についてのご意見など、実際の業務の参考になるアンケートは、お客様との一体感を得るための工夫でもあります。学生や女性が参加できる「CAが同行するツアー」という旅行企画があったのですが、フェイスブックで参加を呼びかけたらあっという間に完売になりました。

 正直なところ、当初はフェイスブックの活用で売り上げを上げられないかという下心はありました。けれども、航空会社という業種の特性上、例えば今日チケットが安いから飛行機を利用するというようなことは少ないでしょうし、そういう目的ではソーシャルメディアは使いにくいと思います。ANAにとってフェイスブックは、「ファンとの中・長期的なコミュニケーション」というコンセプトが一番合っていることがわかります。

――フェイスブック以外にネット関連で取り組んでいることは。

 フェイスブックを立ち上げたウェブ販売部門は、昨年4月に宣伝部門と統合されました。ANAのウェブサイトは、航空券をいかに便利にスピーディーに購入できるかに特化していて、このサイトを通じて多くの航空券が販売されています。また、ツイッターは運航状況や発着状況を知らせるためにアカウントを運営しています。同じチーム内でも、フェイスブックとは役割が異なるので、それぞれで役割分担をしています。

――最後に、今後の取り組みについて。

 82万人というファンの方々との関係性の強化をより図っていきたい。そのために何をすべきかを探っているところです。最近は、フェイスブックに登録はしたが、アクセスしていないという人も多いと聞きます。それでも「ANAのフェイスブックの情報だけは見ておこう」と思ってもらえるように、何ができるかを追究していきたい。それは日々の投稿の中でできることかもしれないし、もしかしたらオフ会のようなものかもしれません。ファンとの関係を維持し、なおかつ満足度を上げるために、フェイスブックでできることはまだまだあるはず。それを具体的に一つひとつトライしていきたいと考えています。