創業90周年で大型企画続々 100周年も視野に果敢に挑戦

 小学館は1922年(大正11)年に、小学生向けの学年別学習雑誌の発行を機に創業。現在は、幅広い領域の雑誌、書籍、コミック、図鑑や百科事典のほか、コミックの映像化など、多岐にわたる出版ビジネスを展開している。今年90周年を迎えた同社の周年に関する戦略と、将来の展望について、同社取締役の佐藤隆哉氏とマーケティング局ゼネラルマネージャーの長谷川一氏に話を聞いた。

児童書から全集まで 幅広いラインアップで周年を盛り上げる

佐藤隆哉氏 佐藤隆哉氏

――現在の出版業界の状況をどう見ていますか。

 出版科学研究所のデータが示す通り、業界全体での売り上げは減少しており、厳しい状況が続いています。そして、当社も例外なくその流れの中にあります。とはいえ、コミックスについては下げ幅が落ち着いてきた感があります。作品の映像化、新しい作家の起用などに積極的に取り組むことで、コミック全体で見ると盛り返ししつつあると見ています。決して楽観できる状況ではありませんが、全社総力を挙げて様々な可能性に取り組んでいるところです。

――そうした中、創業90周年を迎えました。周年記念企画のコンセプトを聞かせてください。

 数年前から、90周年をどうとらえるのかを全社で話し合ってきました。その結果、「『90年』は一つの通過点に過ぎず、読者に喜んでもらえる本を丁寧に作って届けるという姿勢に何ら変わりはない」という考えに至りました。一方で、書店や販売会社が応援してくれる節目の年でもありますので、営業的には「90周年」を前面に出し、「元気のある小学館」というブランドイメージを、読者はもちろん、流通や社員に向けても発信していく方向にしています。

 子どもの本、女性誌、コミック、書籍、そして全集など、幅広い企画を次々と打ち出すことで節目の年を盛り上げたいと考えています。それが少しでも出版業界全体の活性化につながれば、という期待感もありました。

――どのようなプロモーションを展開していますか。

 90周年のロゴマークを作り、新聞広告や当社発行のすべての雑誌に掲載したり、テレビCM、「ドラえもん」や「ポケットモンスター」「名探偵コナン」などの映画でも流したりと、多くの読者や観客の目に触れるようにしました。実は、小学館には特定の社名ロゴがありません。一つ一つの出版物、商品がブランドである、という考えで、あえて作っていないのです。しかし、90周年にあたって「小学館」として、読者とコミュニケーションしたいという思いがあり、シンボル的なものを作るという発想に至りました。

 弊社公式サイト「小学館オンライン」の中では「ウチノヨメ。」(うちの本を読んでください、の意)という特別コンテンツを展開しています。作家、編集者、書店員が、自分の関わっている作品への思いを自らの言葉で語ってもらい、その様子を動画で配信。すでに100本余りがアップされています。作り手、送り手と、読者のコミュニケーションという意味では、新しい試みです。このコンテンツは今後、2次利用、3次利用も検討しています。

 また、今回は「全国の読者、全国の書店」を強く意識しました。今夏、地方を中心に、「本屋さんは楽しい」という、書店と地域のコミュニケーションを進めるようなキャンペーンを展開してきました。その一環で、地方紙にも多くの広告を出稿しました。節目の年ということもあり、より広いエリアのたくさんの読者とコミュニケーションしたいと考えました。

重厚な記念企画も大反響 デジタルも優位性を生かしつつ取り組む

2012年9月4日付 朝刊 2012年9月4日付 朝刊

――図鑑や全集など、いわゆる大型本の反響が大きいと聞いています。

 間違いなく見直されています。そうした大型本の企画・編集は、改めて当社の強みを実感できる分野でもあります。
弊社は90年間、「子ども、親、家庭」に向けた本、そして、「日本、日本人」を伝える本を作る、という出版活動の基本を貫いてきました。今回の周年企画では、全20巻で1冊1万5千円を超える『日本美術全集』や、グラフィックで楽しく学べる『キッズペディアこども大百科 大図解』シリーズ、限定1,000部で94,500円(税込)の『フェルメール全作品集』など、まさにその基本を体現する大型本を多く刊行したのです。ちなみに『フェルメール全作品集』は、朝日新聞社の展覧会もあり、発売から早々に完売しました。

 『日本美術全集』のような重厚長大な企画は、我々も書店も、最近は「売れない」と消極的だったジャンルです。しかし、節目の年を記念する企画なのだから思い切って発売してみよう、という機運が社内に起き、編集からは大型本や全集の企画が次々と出てきました。そして、販売も宣伝も、そして書店も、「売ろう」という気概にあふれた結果、大型本としては異例の注文数が入りました。想定をはるかに超える反響に驚きながら、「いいものを作れば読者にも書店にも支持してもらえる」と感じることができた。これは、自信につながりましたし、節目の年に得た大きな収穫だと思っています。

――出版業界では、電子書籍などデジタル化の動きも活発になりつつあります。

長谷川一氏 長谷川一氏

 著者とのデジタル契約を進めるなど、出版社の中では比較的早くから対応を進めてきました。しかし、弊社のパッケージ売り上げの95%は紙の出版物で、電子書籍を含めたデジタル関連は、売り上げも利益も全体の中ではわずかというのが現状です。まずは、大前提として紙の出版物を一つ一つきちんと丁寧に作り、その先にデジタルの持つ優位性を活用して、読者にとって魅力的な形で作品を提供していく考えです。例えば、11月に第二版を刊行した『大辞泉』では、付属のDVD-ROM が2015年までの3年間、年1回データを更新して新しい情報が取得できるようになっています。

――新聞広告の特性への評価や期待することは。

 新聞も、当社が発行する雑誌や書籍も、「言葉を大事にする」という点で思いを同じくしています。だからこそ、私たちのメッセージを読者に伝えるには親和性のある媒体ととらえています。
しかし、雑誌同様、新聞の読者も変化してきている。広告表現も、これまでの「朝日らしさ」「小学館らしさ」では届かない部分もあるのでは、と考えます。お互いに歴史と信頼に裏打ちされた媒体という強みは生かしつつ、冒険というか、斬新な広告表現にも挑戦したいと考えていますし、ともに模索していけたらと期待しています。

――今後の展望について聞かせてください。

 90周年企画は、来年の3月まで続き、全部で30本ほどがラインアップする予定です。90年は節目の年であり、通過点であり、さらに、10年後の100周年に向けたカウントダウンが始まった年だととらえています。繰り返しになりますが、1点1点の作品をきちんと作り、読者に届ける歩みを止めないこと。そして、一連の周年企画で得た知見、経験、成功を生かし、発展させていくこと。それを忘れてはいけないと心を新たにしています。

 デジタル化などによって出版のビジネスモデルにも一石が投じられようとしています。しかし、紙とデジタルを融合させたり、書店でも入手できる付加価値のあるデジタル商品を開発したり、書店と一緒に新しいマーケットを作っていく視点を忘れず、挑戦を進めていきたいと考えています。

佐藤隆哉(さとう・たかや)

小学館 取締役

1954年生まれ。77年小学館入社。2001年コミック販売課課長。05年マーケティング局シニアマネージャー。07年同局ゼネラルマネージャー。09年5月から現職。

長谷川一(はせがわ・はじめ)

マーケティング局 ゼネラルマネージャー

1953年生まれ。79年小学館入社。宣伝部に配属。以来、宣伝業務に携わり2009年から現職。