今年、創刊55周年を迎えた『家庭画報』。長い間、読者に支持され続ける雑誌づくりの秘密は何か。その取り組みや今後の展開などについて編集長の秋山和輝氏に聞いた。
――『家庭画報』のコンセプトについて教えてください。
本年、『家庭画報』はおかげさまで創刊55周年を迎えることができました。「夢と美を楽しむ」というコンセプトは1958年の創刊から一貫しており、国内外の伝統文化をはじめ衣食住を通して、本当の心の豊かさを呼び起こしてくれるものをテーマに、毎号企画を練っています。
70年代のオイルショックの時、編集部内では「コンセプトを見直したほうがいいのではないか」「時代を反映させて、身近な生活雑貨の特集をした方がいいのではないか」といった声もあったそうです。けれども、そういう時代だからこそ「夢や美を体感できる雑誌が求められているに違いない」とコンセプトを変えずに貫くことを決め、それが今日まで続いています。編集方針で迷いが生じたときは、原点に立ち返ってみる。それが『家庭画報』のルールにもなっています。
2011年3月11日に起きた震災のあと、被災地へ『家庭画報』をはじめ弊社が発行している雑誌を送らせていただきました。その後、編集部にお礼状が届き、そこには「心躍るような美しい誌面を見て、また自分たちもがんばろうと思った」という内容が書いてありました。その時、あらためて「夢と美を楽しむ」というコンセプトを継承していくことが使命であると思いました。
――コンセプトを具現化するにあたり、留意していることは。
『家庭画報』は他の婦人誌に比べて、判型が大きいことも特長です。そのサイズを最大限に生かすようページ構成に配慮しています。細かい写真で情報量を多く提供するというより、厳選した1枚の写真を大胆に掲載することが多い。例えば、海外で撮影した写真は、美しくてどれも掲載したくなるのですが、すべて掲載したからといって、現場の感動が伝わるとは限らない。それよりも、撮影した写真の7割を捨てる覚悟で厳選し、大胆に見せたほうが現地の空気が表現できるものなのです。
料理やジュエリーなども、撮影方法はもちろんのこと、印刷会社とも打ち合わせを重ね、温度や質感など五感に訴える写真になるように努力しています。
――『家庭画報』の読者の中心である50代の女性が求めることは、時代と共に変化していると思います。それに対して、どのように対応していますか。
編集方針は「継承と挑戦」です。50代といっても時代によって移り変わります。世代を超えて伝えていきたいことを発信すると同時に、新しいことにもチャレンジしています。例えば、「男子フィギュアスケート」特集という、時流に即した新しい企画も取り入れています。『家庭画報』らしい切り口で表現すれば、企画のテーマに制限はないと思っています。継承と挑戦、どちらにも偏り過ぎず、いいバランスで構成するように心掛けています。
――「家庭画報サロン」という読者組織について教えてください。
2007年にスタートした、定期読者のコミュニティー「家庭画報サロン」のイベントは、読者に直接お目にかかっていろいろとお話を伺えるいい機会になっています。誌面づくりの参考にもさせていただいています。
参加者の平均年齢は52歳。20代から70代まで、幅広い年代の方が参加されています。
――2012年3月号が創刊55周年記念号、4月号が通巻650号。それに合わせて、2カ月連続で全15段カラーの新聞広告が掲載されました。
1977年から2003年までの27年間、表紙を飾っていたのは「女優と花」。この組み合わせは、誌名が隠れて見えなくても、一見して『家庭画報』であることがわかるよう意図した、雑誌の「顔」でした。その後は「花」を主役にした表紙にしていますが、55周年記念号である今年の3月号限定で、これまでの感謝を込めて、「女優と花」の表紙を復活させました。発売当日の全15段カラーの新聞広告は、この55周年記念号の表紙のほか、創刊号やこれまで節目となった記念号の表紙を掲載して、読者の方々と共に歩んできた『家庭画報』の歴史を再確認できるつくりにしました。
そして4月号では、新しい時代に向けた『家庭画報』をお届けするという意味で、現在の花の表紙に戻し、新聞広告には、表紙と同じように紙面いっぱいに桜をあしらいました。
3月号の発売当日、書店店頭でデモ販売を行いました。その時、「今朝の新聞広告、見ましたよ」と多くのお客様から声を掛けていただき、あらためて新聞広告の影響力を実感しました。20代や30代の女性や男性からも反響があり、想定より広い世代に周知させることができたと思います。
――2012年10月号のハンディサイズ版も話題となりました。
潜在読者の掘り起こしを目的に、2012年10月号では通常版の74%に縮小したハンディサイズ版を刊行しました。おかげさまで通常版、ハンディサイズ版を合計すると、増誌した55周年記念号をも上回る、今年一番の売れ行きになりました。
ただし、『家庭画報』はサイズを生かしたダイナミックなレイアウトが身上です。あくまで通常版あってのハンディサイズ版であると考えています。
――電子版を含め、今後の『家庭画報』のあるべき姿について。
将来、電子版も視野に入れています。ハンディサイズ版と同様、新しい読者に本誌を手に取ってもらう「きっかけ」になればいい。時代の移り変わりや読者のニーズをくみ上げながら、これからも「継承と挑戦」で、60周年、70周年に向けて歩んでいこうと思っています。
世界文化社 『家庭画報』編集長
1990年世界文化社入社。『Begin』『MEN’S EX』『家庭画報』編集部を経て、2002年『MISS』副編集長。09年2月『家庭画報』副編集長。同年10月から現職。