2013年度までの3カ年の中期経営計画で、高齢化に対応した商品やサービスを充実させる「シニアシフト」を表明しているイオン。「グランド・ジェネレーション」という言葉を冠し、さまざまな活動を開始している。4月25日には、シニアシフト戦略を随所に採用した「イオンモール船橋」をオープンした。シニア戦略リーダーの谷島英明氏に聞いた。
顧客データの分析や消費者調査から見えてきた4つのテーマ
──シニアシフトのねらいと、定めた方向性とは。
以前からシニアに向けた取り組みはグループ各事業で行ってきましたが、団塊世代が65歳を迎え始める2012年を契機に、人口、資産、消費支出において圧倒的なボリュームゾーンであるこの層への対応を強化することになりました。
施策の方向決めに際しては、一般的な消費者調査とともに、年齢を重ねるにしたがってお客様の行動がどのように変わっていくのかを「イオンカード」の顧客データから分析しました。その結果、次のようなことがわかってきました。定年を迎えても消費支出が落ちない人が多いこと。リフォーム、医療、旅行などへの出費が拡大すること。娯楽や趣味に費やす時間が60〜70代前半でピークを迎えること。60〜70代は週に何度も買い物をし、曜日に関係なく来店していること、などなど……。
こうした調査結果に基づいて導き出したいくつかのテーマがあります。第1に、既存店舗の売り場・サービス・商品のシニアシフト。第2に、シニア層に物理的に近づく。第3に、シニアの固定客を増やすための企画を打ち出す。第4に、シニアシフトの取り組みを広報や広告を通じて広くコミュニケーションする。以上のテーマをグループを挙げて推進しています。
──既存店舗のシニアシフトについて、具体的な例を教えてください。
目立った例としては、価格表示を大きくしたことです。「文字が小さくて読みづらい」というシニアの声を受けて改善しました。プライベートブランド「トップバリュ」の商品パッケージや店頭POPも順次ユニバーサルデザインに変えています。また、買い物の合間に休めるイスや、お客様同士で会話が楽しめるイート・インタイプの休憩場所を増やしています。
サービス面では、上位職を中心にサービス介助士の資格の取得を奨励しています。サービス介助士の研修では、白内障患者の視野を再現したメガネをかけ、手足に重りをつけて高齢者の体の状態を疑似体験します。財布から小銭を出すだけでもいかに大変かを知ることで、接客指導に役立ててもらっています。また、認知症サポーターの養成講座の受講も積極的に勧めています。
品ぞろえについて、例えば衣料分野では、本物志向のシニアのニーズに応え、デザイン性が高く素材が良質で、かつ年齢に合った体形に配慮した衣料ブランド「トップバリュ プレミアム」を提案しています。食品では、単身や夫婦世帯のシニアに配慮し、野菜や刺し身などを小パック詰めにした「食べきり・使いきりサイズ」や、調理済み食品ブランド「トップバリュ レディーミール」、総菜の量り売りなどを全国に広げています。住関連では、子供が巣立ったシニア家庭のリフォーム需要に対応するため、住設備のショールームを備えた店舗を増やしています。また、家事代行サービスの展開も広げています。
──「高齢のお客様に物理的に近づく」とは、どのようなことでしょう。
人は年齢を重ねるほど行動範囲が狭くなるもので、何もしなければ遠方の顧客はしだいに離れてしまいます。そこで、さまざまな「届けるサービス」を展開しています。一つはネットスーパーで、2014年までに全国配送網を確立する計画です。今のシニアはパソコンや携帯を自由に操りますが、なかにはネットをやらない方もいらっしゃるので、商品カタログを見て電話やファクスで商品注文ができる「とどくんです。」というサービスもニーズに応じて展開しています。マックスバリュ西日本の一部の店舗では、店員がタブレット端末を持ってお客様のお宅にうかがい、受けた注文をその場で端末に打ち込んでネットスーパーの配送網に載せるサービスを行っています。
届けるサービスを展開する一方で、駅と店舗を結ぶシャトルバスを運行したり、路線バスの停留所を敷地内に誘致するなど、店舗とお客様自身との距離を縮める施策も進めています。
「グランド・ジェネレーション」に照準を合わせた旗艦店、イオンモール船橋店がオープン
──シニアの固定客を増やすため、どのような企画を打ち出していますか。
65歳以上の方を対象とした「ゆうゆうワオン」カードを発行しています。ポイント特典などがついた電子マネーです。年齢に関係なく会員になれる「イオンカード」についても、折々でシニア向けのセールス企画を打ち出しています。その一つが毎月15日のお買い物が5%割引になるサービスで、「ゆうゆうワオン」の会員も対象です。15日の売り上げは確実に伸びており、割引以外にも楽しい企画を提供し、名物にしていきたいと思っています。
以前から力を入れているのは、お孫さんへの出費を応援するサービスです。例えば、0〜12歳までのお孫さんがいる方、これからお孫さんがご誕生予定の方を対象に「孫カード」を発行し、割引サービスを実施しています。ショッピングセンター内のアミューズメント施設を運営するイオンファンタジーでは、ポイント特典のついた「イクジーカード」を発行し、お孫さん連れのシニアの来客を促しています。
これらのカードを通じてシニアの購買行動を分析し、POSデータなどとかけあわせてニーズをとらえる取り組みも始めています。例えば、今年6月から9月初旬をメドに、全国の1,400店舗で開店時間を午前7時に早めていますが、節電対策だけでなく、シニアの朝の来店が多いという分析結果も施策の動機になりました。今後はリアルタイムで年代別の消費動向を探れるような仕組みづくりも大事になってくると思います。
──コミュニケーションの取り組みについて。
これまで高齢者は「シニア」「エルダー」「シルバー」などと呼ばれていましたが、脚本家の小山薫堂氏が「最上の世代」という意味を込めて「グランド・ジェネレーション」と提唱されました。これに賛同したイオングループは、コミュニケーションにおいてこの言葉を掲げることにしました。4月13日から15日には、イオングループ26社が参加し、グランド・ジェネレーションに向けた商品やサービスを紹介する「GRAND GENERATION'S COLLECTION in TOKYO」を東京国際フォーラムで開催。会期3日間で6万6千人を集めました。
グランド・ジェネレーションを対象とした広告は、古谷一行さんと前田美波里さんをイメージキャラクターに起用。新聞広告やテレビCMを通じて商品やサービスをアピールしています。8月は、お孫さんにランドセルをプレゼントするグランド・ジェネレーションが増えていることを受け、お盆の帰省シーズンに先がけて朝日新聞にランドセルの広告を出稿しました。
──イオンモール船橋店のシニア向けサービスとは。
13の診療科目を持つ総合医療クリニック「ドクターランド船橋」、美術、手芸、ダンス、語学、音楽など約150講座のカルチャー教室「未来屋カルチャークラブ」、遠近両用レンズの即日受け取りが可能な直営メガネ店「オプトバリュ」などです。イオンモール船橋店は、広報活動も奏功して期待以上の売り上げを示しています。現在はここでしか展開していない事業もありますが、ニーズのある地域に随時広げていく計画です。
──今後の方向性は。
当面は壮健なグランド・ジェネレーションが主役の時代が続くと思いますので、アクティブな暮らしを応援する施策を継続していきます。2025年には前期高齢者と後期高齢者の数が逆転し、超高齢化社会を迎えます。75歳以上となった団塊世代と、彼らを支える団塊ジュニアの消費傾向の見極めが次なる課題となってくるでしょう。