60代以上の団塊世代を「プレミアエイジ」と位置づけ、そのニーズをくんだ様々なサービスを展開しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ。昨年12月には、プレミアエイジをターゲットとする店舗を代官山にオープンした。シニアに着目した経緯や具体的な施策について、TSUTAYAカンパニー広報担当の高橋祐太氏に聞いた。
昔の名作や廃盤作品を掘り起こし、団塊世代にアピール
──シニアに着目した経緯について。
TSUTAYAの1号店を大阪府枚方市に創業したのは1983年のことですが、その「創業の意図」には「枚方の若者に新しいライフスタイルの情報を提供する拠点」を提供したい、とあります。映画の主人公の生き方や音楽の歌詞に込められたメッセージ、本や雑誌に詰まっている様々な知識や知恵、あるいは最新の流行・・・・・・。TSUTAYAは、そうした情報を一つの拠点でお客様に届けられる、ライフスタイルを選べる「カルチュア・インフラ」として生まれました。おかげさまで、一つのお店で映画や音楽や本を買ったり借りたりできる業態はフランチャイズ展開によって全国に拡大し、現在1,475店舗を数えます。
TSUTAYAを利用している主な会員層は、創業期から今日まで若者を中心に広がり、TSUTAYAの会員証でもあるTカードの会員は20代でいうと人口の3分の2以上が保有するまでに至っています。一方でTSUTAYA創業当時に”若者”であった世代は、定年を間近に迎えています。TSUTAYAが「シニア層」に着目した経緯は、創業当時の"若者"に今、時代の変化にあわせて新たなライフスタイルの情報を提供する拠点となりたい、という思いから始まります。
──具体的な施策は。
まず、TSUTAYAの主力商品でもあるレンタルDVDの品ぞろえ、売り場作りについて、団塊世代のニーズに応えるための取り組みを行いました。団塊世代の方は、ハリウッド全盛を目の当たりにして、映画の時代を生きてきたといっても過言ではないほど、数多くの映画の名作を見てきた世代です。一方でDVDレンタルというと新作が中心の品ぞろえで、映画好きの団塊の世代から見ると、本当に見たい映画がない、という印象をお持ちであったと思います。2010年に全国展開を開始した「TSUTAYA発掘良品」は、そうした団塊世代の映画好きの方が知っている、1960~90年代の映画の中でもいわゆる一般に「名作」として知れ渡ってはいなくても、本当は面白いという映画を発掘して売り場の中心で展開した施策です。中には廃盤となった作品も数多く、メーカーに協力を仰ぎ、復刻なども行っています。実際に展開後は50~60代の男性を中心に作品を数多くご覧いただいており、団塊世代からも高い評価を頂いています。また、主に女性の同世代向けには人気の高い韓国ドラマの品ぞろえ強化を図り、TSUTAYAのプライベートブランドとして、グループ内で直接作品を買い付けてDVD化するといった取り組みも行ってきました。
一方で、サービス面での取り組みも行っています。「TSUTAYA郵便返却サービス」は、「借りたCDやDVDを返却しに行くのが面倒」という声が主にシニア世代に多いことを受けて始めたサービスです。他にも、例えば韓国ドラマなどについて、「何巻まで借りてみたのか分からない」という声があるのを受けて、借りた作品の履歴を確認できる「TSUTAYAサーチ」、メールでお客様に返却日をお知らせする「返却日お知らせメール」サービス、大型店などにしか置いていない作品を全国のどの店舗でも取り寄せられる「リクエストお取り寄せサービス」などがあり、いずれも大変好評をいただいています。
プレミアエイジが主役の「代官山 蔦屋書店」が誕生
──「代官山 蔦屋書店」の取り組みについて聞かせてください。
これまでも、渋谷のスクランブル交差点における情報発信基地「SHIBUYA TSUTAYA」や、コーヒーを片手に国内外の本が楽しめる「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」など、先進的なフラッグシップショップを登場させてきました。「代官山 蔦屋書店」は、シニア世代をメーンターゲットとしたまったく新しい「TSUTAYA」です。 団塊世代を分析していくと、人口の多さに見る市場開拓の可能性だけでなく、若い人に負けない行動力と知的好奇心がうかがえました。好景気の時期に可処分所得が潤沢にあった世代なので、人生の楽しみ方を良く知っているのです。そこでそういった方々を「プレミアエイジ」と呼び、「代官山 蔦屋店」はプレミアエイジが主役の「ライフスタイルを選べる場」として作りました。
代官山は、都会でありながら緑が豊かで、洗練された雰囲気を持った街です。最近の若者は車に乗らないとも聞きますが、やはり車世代の「プレミアエイジ」にとっては、特に都心でありながら、車でのアクセスが容易である立地は大切でした。現在、大使館が並ぶことにも象徴されるように、歴史的に見ても地勢が良いことも決め手となっています。
「代官山 蔦屋書店」は昨年12月5日にオープンしました。ランニングや散歩の途中で立ち寄って、凛(りん)とした朝の代官山に本とコーヒーを添えてゆったり楽しんでもらえるように、開店は午前7時。「家にいるような居心地」を意識した店内では、料理、旅行、アート、建築など6つのジャンルの専門書籍を扱い、映画、音楽など「提案作品」を主軸に、人気商品から趣味性の高い商品まで幅広く展開しています。
「プレミアエイジ」を特に意識して提案をしたのは、神社仏閣、歴史、哲学、古地図といった人文系の本です。プレミアエイジの確かなニーズを踏まえた品ぞろえです。他方、アクティブで遊び上手な方々のニーズに応えるため、スポーツ、車、旅行、建築、アートなど多彩なジャンルの雑誌を約2,300種類・3万冊を取りそろえています。『平凡パンチ』などプレミアエイジがかつて親しんだ雑誌も置いています。
映画は、先ほどの「TSUTAYA発掘良品」の展開もさることながら、DVD 化されていない思い出の映画などを店頭でDVD化する「復刻シネマライブラリー」といった取り組みも行っています。音楽では、往年の人気歌手の代表曲を集めたベスト盤のコーナーなどを充実させています。 「代官山 蔦屋書店」ならではの取り組みは「コンシェルジュ」。文学、旅行、料理、ジャズなど、各分野に精通した「コンシェルジュ」が、お客様の要望に合った本や音楽、映画をご案内しています。
──今年に入ってからの取り組みは。また今後の展望は。
7月13日~8月12日にかけて、60歳以上の方の旧作DVDのレンタルを毎日1本無料にしました。TSUTAYAを一度も利用したことがないシニア世代の「最初の一歩」を促す企画です。
キネマ旬報映画総合研究所が昨年10月に行った「映像メディアユーザー実態調査」によると、60代の35%が「生まれてから一度もビデオレンタルを利用したことがない」と回答し、うち約半数が「以前からレンタルする習慣がないから」と答えています。こうした方々に1度でも足を運んでいただき、利用の手軽さや品ぞろえの豊富さを体感していただくねらいがありました。結果的に入会者数が大幅に伸び、継続利用にもつながっています。
プレミアエイジをはじめとして、シニア世代向けのサービスはまだまだ途上と考えています。「代官山 蔦屋書店」での取り組みを応用して、今後も品ぞろえ・売り場作り・サービスのイノベーションを随時行っていきたいと考えています。