消費者は様々なメディアの広告に触れながら意思決定をする

 ある広告に喚起されて、その商品やサービスへの関心が高まる。別の媒体でも同じ商品の広告に接し、しだいに購入を検討するようになる。その商品をインターネットで検索して調べる。最終的にオンラインショップを訪問して購入する。これは一般的な消費行動の一つの流れといえるだろう。この一連の行動で、それぞれの広告が消費者の意思決定にどれほど貢献したか、分析・評価する手法は「アトリビューション分析」といわれる。

 オンライン広告で生まれた考え方で、購入につながった最後の広告のみが重要なのではなく、一連の行動を通じて様々な媒体の広告が消費者の判断に貢献していると捉える。貢献度を分析することで、広告メディアの効率的な組み合わせがわかると期待されている。

 こうした考えが広まると、直接購入にはつながらないが、購入の意思決定に影響を及ぼす広告として様々な媒体の特性を再確認し、組み合わせることの意義が見直されることになるだろう。

 「アトリビューション」をすでにサービスとして顧客に提供しているアタラ合同会社の取締役COO・有園雄一氏に、現状とオフラインも含めた展望について聞いた。

ラストクリック以外の広告も貢献している

有園雄一氏 有園雄一氏

――まず、アタラ合同会社の会社概要について、聞かせてください。

 アタラ合同会社は、2009年9月に始動しました。構成スタッフは計7人で、うち私を含めて4人はかつてグーグルに勤めていました。会長の佐藤康夫は、グーグルジャパンの立ち上げ期の統率と、広告事業「アドワーズ」(クリック課金広告サービス)の日本での導入や、広告配信ネットワーク「アドセンス」(検索連動型及びコンテンツ連動型広告の配信サービス)のルート開拓などの責任者でした。私と代表取締役CEOの杉原剛は、グーグルの前に、オーバーチュア(現ヤフー)でリスティング広告(検索キーワードに連動して表示される広告)の拡販などに従事していました。

 アタラの事業収益の半分を占めるのはテクノロジーソリューションの提供です。広告会社やインターネット専業広告会社が、広告主のために行っているリスティング広告の関連業務を、よりスピーディーに、より簡単にするためのツールを開発し提供しています。この業務は場合によっては、数週間でのべ数十人を要する煩雑な作業ですが、当社のシステムはそれを3日で終えることができます。そして事業収益のもう半分は、ウェブマーケティングにおけるコンサルティング業務で、アトリビューション分析に基づいたコンサルティングもその一つです。

――広告・マーケティング業界において、「アトリビューション」という言葉が意味するものとは。

 アトリビューションとは、コンバージョン(商品購入や資料請求など、サイトを訪問する人が広告主の目的に達すること)に至るまでに、どのサイトを訪問したか、リスティング広告やバナー広告などの履歴データを使って、コンバージョンに至る貢献度をそれぞれの広告に配分することを意味します。08年にアメリカで開催されたSES(Search Engine Strategies)というイベントで知ったのがきっかけです。世界の有力企業のウェブマーケティング戦略が検証される中で、「ラストクリック以外の広告もコンバージョンに貢献している」と指摘されていました。

 パソコンを購入したい人が、ニュースサイトでA社のパソコンのバナー広告を見かけてクリックし、A社のサイトを訪問。その後、他のパソコンと比較検討をした結果、A社のパソコンが最もいいと判断し、その製品名をキーワードとして検索、リスティング広告の最初に掲載されていたA社の広告をクリックし、再度A社のサイトを訪問して購入したとします。この場合、評価されるのは最終的に購入に至ったリスティング広告ということになり、最初にクリックしたバナー広告は評価されてきませんでした。しかし実際は、間接的に購入行動に対して貢献しているのです。サッカーやアイスホッケーでいえば、得点に結びつく有効なパス(アシスト)のようなもので、ゴール(購入)に至るまでの経緯も評価するのが、アトリビューションの考え方です。その結果によって、宣伝予算をより効率的に配分していこうということです。

 アトリビューション分析は、その人がどういう広告に触れてきたかという経路を記録した「コンバージョンパスデータ」がベースになります。ネット広告では、バナー広告やコンテンツターゲット広告など多くの種類がありますが、どの広告が有効かは広告主の業種や商品によって異なります。これをコンバージョンパスデータで分析するわけです。積極的に採用している企業は、旅行会社、パソコンなどのECサイト、人材情報サイト、住宅情報サイト、住宅メーカー、自動車メーカーなどが挙げられます。

アトリビューション台頭 図

アトリビューション台頭 図

出稿のタイミングやクリエーティブにおいて、マスメディア広告とネット広告の連携は必須

――マスメディア広告の貢献度については、どのように考えられますか。

 マス広告を含めたアトリビューション分析というのは、実は以前から行われていて、新聞広告、テレビCM、雑誌広告などが、どれだけ売り上げに貢献しているのか、「メディア・ミックス・モデリング」といわれる計量経済学的な統計分析によって導き出されていました。それが最近ではマス広告とネット広告の両方を対象にしたアトリビューション分析が行われるようになってきています。アメリカでは、Visual IQ社、Market Share社、C3 Metrics社といった会社が、マス広告を含めたアトリビューションモデリングを行っています。

 アメリカと日本の広告市場の大きな違いは、日本ではマス広告が強いということです。アメリカは、国土が広く人種もさまざまなので、セグメントごとにターゲットを絞る方がより効果的です。一方、日本は国土が狭く、統一的なマスマーケティングがアメリカよりも効きやすい傾向にあります。

 「日本ではマス広告が効く」という事実をふまえ、1つポイントとなるのは、オンライン広告との連携をいかに図るかということです。私がその重要性を実感したのは、オーバーチュアにいた04年のことでした。当時、「パケホーダイ」という携帯電話のサービスが誕生し、一斉にマス広告を出稿した際、オンラインの動向を分析したところ、「パケホーダイ」という言葉の検索ボリュームが急伸しました。ただ、消費者は熱しやすく冷めやすいので、数週間のうちに検索ボリュームは下がってしまいました。こうしたキャンペーンにおいては、マス広告と同時期にバナー広告を出すよりも、マス広告を出して数週間後の反響が下火になったころにバナー広告を配信したほうが、マス広告の残存効果を延ばせるケースがあるということがわかりました。

 マス広告とネット広告のクリエーティブの一貫性も重要です。一貫性がないと、せっかくマス広告を見て好印象を持ってくれたのに、ネット広告でそのイメージを想起してもらえず、クリックしてもらえないというケースもあります。マス広告とネット広告の連携を、出稿のタイミング、ターゲティング、クリエーティブなどにおいて巧みに行っている広告主は意外に少ないのが実状です。

 ――アトリビューション分析から見えてきた新聞広告の役割とは。

 新聞広告は、しっかりとしたターゲティングができているものは確実に効果があります。例えば、旅行の広告や、健康食品の広告などが掲載されると、それに関するキーワード検索やネット広告がたちまち反応します。新聞のコアな読者層である中高年層にターゲティングし、ニーズに合致した商品広告を展開している成果だと思います。

 また、プロダクトライフサイクルの「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」のうち、「導入期」にある商品や、ターゲット層が幅広い一般消費者向けの商品についても、マス広告の影響力は大きく、新聞広告にしか出ていない新しい商品名やサービス名などがネットでさかんに検索されたりします。その後、ネット広告を通じて商品、サービスの理解や購入につながる。まさにオフライン広告とオンライン広告の連携ですね。

 新聞広告については、コストパフォーマンスが予算と折り合いがつくかどうかと出稿を迷う広告主が少なくありません。ネット広告は入札制もあるし媒体や広告メニューも多いので、予算規模に見合うメディアプランを選ぶことができますが、新聞広告ではなかなか難しいと……。その一方、大規模にマス広告を出稿することで、マーケットシェアを一気に拡大する戦略もあります。ソフトバンクのiPhoneキャンペーンなどは1つの成功例です。いずれにしても、マス広告を含めたアトリビューション分析は、コンバージョンの最大化、メディアプランの最適化には重要な役割を担います。今後は新聞社などマスメディアとも積極的に意見交換をしていきたいと考えています。

有園 雄一(ありぞの ゆういち)

アタラ合同会社 取締役COO

オーバーチュア(2004~07年)とグーグル(07~09年)で勤務。オーバーチュアでは、テレビCM投下量と検索数の相関分析調査を総合広告会社と共同で実施。「○○で検索!」などの「Go-to-Web型」の広告手法を確立。グーグルでは、主に「アドワーズ」の営業戦略の立案と実施を担う。著書に『アトリビューション 広告効果の考え方を根底から覆す新手法』『リスティング広告 プロの思考回路』がある。