統合的な施策でメディアの多様化やテクノロジーの進化に対応

 朝日広告社が、プランニングやクリエーティブの機能を有する「コミュニケーションデザイン本部」の改革を進めている。この4月より、最先端のテクノロジーを活用したデジタルコミュニケーションの提案やダイレクトレスポンス、プロモーションビジネスなどを展開する「プロモーションデザイン本部」も新設した。今回の組織改革の戦略的な意味について、エグゼクティブクリエイティブディレクター、コミュニケーションデザイン本部 本部長の熊坂俊一氏に聞いた。

部署の垣根を越えて最適のソリューションを導きだす

──コミュニケーションデザイン本部の改革の概要と、ねらいについて聞かせてください。

熊坂俊一氏 熊坂俊一氏

 コミュニケーションデザイン本部は、「プランニング局」(第1~3部)と「クリエイティブ局」(第1~4部)で構成され、東京・大阪のスタッフあわせて約60人が所属しています。コミュニケーションデザイン本部を改革する上でイメージしたのは、人間の脳です。脳は、直感や創造性などを司る右脳と、論理的思考や計算処理などを司る左脳に分かれていますが、左右は神経線維の束でつながり、瞬時に情報をやり取りして心身に的確な指令を出します。それと同じように、プランニング局とクリエイティブ局が初期段階で迅速に情報をやり取りし、最適なソリューションを導きだす道筋と体制を整えました。

 また、この4月から新設したプロモーションデザイン本部は、より「売り」に直結する機能を備えた組織で、「iコミュニケーション局」「ダイレクトレスポンス局」「セールスプロモーション局」から成ります。この本部との連携をより強化しなければならないと思っています。

 局と局、あるいは部門を超えての意思疎通は、年々密になってきています。テクノロジーの進化により、ビッグデータ時代を迎え、旧来のやり方では解決できない課題が次々と顕在化してきたのです。例えば、マス広告のクリエーティブにおいて優れた力を発揮できる人材でも、デジタルリテラシーが不足していると、ネット広告などと連動したユニークなアイデアに思いが至りません。逆に、いくらデジタルリテラシーがあっても、マスメディアに対する見識がなければ、アナログとデジタルの効果的な連携策などを見過ごしてしまいます。「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありますが、広告は、生きることのすべてを扱い、応援するコミュニケーション。ノウハウや情報を共有化することも大事ですが、「人間への理解」を深めることが、一番大切だと思っています。

──クライアントから依頼があってから、どのようにコミュニケーションデザインをはかっていくのですか?

 新規案件では、まず2局長と意見交換し、部長やディレクターが集まってプロジェクトの方向性を明確にするために徹底的に議論します。そして、その場でプロジェクトを統括するコンダクターや、そのもとで働くメンバーも決定します。サッカーの試合で「4-4-2」「4-5-1」といった戦略を立てるのと一緒で、最高のパフォーマンスを実現する陣容を初期段階で組み、キックオフします。クライアントへのプレゼンテーションがクリエーティブ寄りになることが予想されても、プランニング局のメンバーにコンダクターが任される場合もありますし、その逆もあります。メディアの多様化やテクノロジーの進化に対応するためには、部署の垣根を越えた統合的な施策が不可欠だと考えています。部分としてそれぞれが正しくても、全体としての力が発揮できなければ意味がありません。

──コミュニケーションデザイン本部の新しい動きに対するクライアントの反応はいかがですか?

 最初のオリエンテーションにプロジェクトチームの主要メンバーも営業部員とともに出向くことで、より明確な提案ができるようになり、「無駄な伝言ゲームがなく、早い段階から現場感覚のあるスタッフとひざ詰めで話し合える」という評価をいただいています。初期設定の精度を高め、ミドルサイズという会社の(スケール)メリットを生かした機敏な対応を心掛けています。

テクノロジーを活用しながら従来型コミュニケーションとの相関性を追求

──新しく取り組んでいる施策は。

 新分野として注力しているのは、「iコミュニケーション局」が進めているアトリビューションマネジメントです。資料請求や購入に至った直接的な施策に対する評価ばかりでなく、それ以前に消費者がどんなメディアに接触していたのか、どんな商品と比較した末に資料請求や購入に至ったのか……といったことを、最先端のテクノロジーを用いて解明し、効果的なコミュニケーションを探っています。ネット広告界では進んでいる施策ですが、マスメディアとの相関性や、人間の行動原理、態度変容といったことまでは、まだ十分な分析がなされていません。

 一方で、人間は常に「合理的な生き物」ではありません。例えば、「衝動買い」と思われた消費行動も、実は幼少期に食べた味、あるいは感動した景色、あるいは親しんだ音楽などに因果関係があるかもしれません。数値的なデータでは読み取れない、人間の心の奥底を探る科学的な視点も必要で、それが今後のコミュニケーションデザイン本部の人材登用にかかわってくることもあり得ると思っています。

──これからの時代のプランニングでは、新聞の位置づけについて、どのように考えますか?

 新聞は、日付があることに意味のある情報で、次の日には見事に体系化されている。だからこそ、興味からはずれた記事も自然に目に入ってきて、読んでいくうちにその情報が「自分ごと」になっていく面白さがあるのです。膨大な情報が何かしらの「自分のキーワード」として時系列的に脳裏に蓄積され、後々ほかのメディアに接触した際、ふっとよみがえるということが、無限にある気がします。新聞記事の記憶がうっすらと残っていて、ネット上で関連する情報に出合って思わずクリックしたり……。そういう意味で、「現在」はもちろん「未来に効くメディア」という印象があります。企業への信頼性など、時間をかけて育まれていく消費者心理にも作用しているはずです。優れた新聞広告は「未来」に向かってコミュニケーションを発信しています。教育現場で新聞が教材として使われていることも、じわじわと効いていると思います。

──今後の抱負は。

 今年、朝日広告社は、「進化に加速を」というスローガンを掲げました。ここ10年で私たちが摂取する情報量は500倍になったといわれています。ビッグデータに飲み込まれることなく、各専門部署が持ち得る能力を最大限に発揮し、「+α」ではなく「×α」のソリューションを提案していきたいと考えています。社内だけでなく、大学や研究機関、メディア、テクノロジー提供事業社、コンサルティング会社などとも積極的に連携していきたいですし、当社のプロデュース力を生かして共同研究のアレンジなどもできたらと思っています。

熊坂俊一(くまさか・しゅんいち)

朝日広告社 エグゼクティブクリエイティブディレクター/コミュニケーションデザイン本部本部長

1959年、東京都生まれ。91年、朝日広告社入社。横浜支社(現ネットワーク局)、クリエイティブ局勤務を経て、11年より現職。グラフィック、テレビCM、ラジオCM、ドキュメンタリー番組など幅広い分野で活動。「ビッグコミック原作賞」「朝日新聞地方版広告コンクール」「日経広告賞」「消費者のためになった広告コンクール」などを受賞。