蓄積してきた専門性を統合して、クライアントが求める高度でダイナミックなソリューションを提供する

 デジタルデバイスの多様化やビッグデータ時代の到来で、広告主のニーズも高度化している。こうしたトレンドに対応すべく、電通は4月、国内事業部門の大規模な組織改編を敢行した。BIプランニング局長の広瀬哲治氏と、プラットフォーム・ビジネス局次長の前田真一氏に、新体制が旗印とするビジョンを聞いた。

社内外のテクノロジーと高い専門性を柔軟かつシームレスに統合し最適なソリューションを提供する

――組織改編を実施した背景、経緯を聞かせてください。

広瀬哲治氏 広瀬哲治氏

 デジタル化の進行やデバイスの多様化、そしてソーシャルメディアが大きな影響力を持つようになり、メディア環境は大きく変化しています。一方で、日本のオーディエンス(大衆)に対するマスメディアの影響力は非常に大きいことに変わりはなく、そのメディアも多様化してきています。こうした状況下で、より統合的なマーケティングコミュニケーションを構築しようとしたとき、あるいはコミュニケーションプランニングをするとき、専門性やテクノロジー、さらに必要なデータベースの種類も多様かつ膨大になってきています。いわゆる「ビッグデータ時代」です。

 デジタルメディアへのリアルタイムの接触状況、POSデータといった購買に関わる行動データなど得られる情報量は増えていますが、それを有効な分析や次の一手に結び付けられるかについては、悩まれているクライアントが多いように感じます。そういう企業に対してソリューションを提供していくには、電通の組織自体も進化する必要があると考えていました。

 もちろん、新体制への布石となる取り組みがすでに増えてきていました。たとえば、電通では、家電エコポイント、住宅エコポイントの事務局運営を、3年前から政府に任されています。 その際、クラウドコンピューティングサービスを提供する米国企業セールスフォース・ドットコムと、当社グループである電通国際情報サービスと組み、家電エコポイントだけで4,700万件もの顧客データを管理。ビッグデータを扱った実績を構築することができました。また、ここ数年、デジタル領域やソーシャルメディア領域で先端的な企業のM&Aを積極的に進め、グローバルでもテクノロジーの共有化を可能にする体制を整備しています。データベースとテクノロジー、双方をどう充実させるかを考えると、電通の既存の組織だけではスピードが上がらない面もある。それを提携やM&Aを実施することで促進しようとしています。

 クライアントのニーズや課題に対して、最適なリソースを柔軟に組み合わせ、より高度な統合コミュニケーションを提供することが求められています。それを実現できる体制を作ることは、電通の強みを最大限に生かすことにもつながる。そうした背景や体制の整備を受け、今回の大規模な組織改編に踏み切ったのです。

――新体制の概要、目指す方向性は。

 特筆すべきは、以前からあったデジタル・ビジネス局、ダイレクトマーケティング局、プラットフォーム・ビジネス局に、BIプランニング局、BIソリューション局を加えた計5局で構成する「BIM(ビジネスインテリジェンス・モジュール)」というグループが発足したことです。クライアントのマーケティング活動のために、データベースやそれを分析するためのツール、テクノロジー、メソッドといったマーケティングインテリジェンスを駆使するグループです。クライアントのビジネスパートナーとして、事業目標の達成に貢献したい、という意味合いを込め「BI=ビジネスインテリジェンス」という組織名を用いました。クライアントの課題に応じ、関連する局があたかもシステムのモジュールのように、臨機応変に必要な部隊や人材を組み合わせながら対応していく。そのとき、BIMがハブとして機能します。

――BIMを核とする新体制の強みは。

 テクノロジーの進化によってビッグデータの活用が可能になっているとはいえ、その分析結果を、例えば店頭でどう活用するのかというところまで提案できなければ意味がありません。突き詰めれば「マーケティングの次の打ち手をどうするか」ということ。それは、電通が設立以来、今日に至るまで取り組んできたことです。

 デジタルなどのテクノロジーはもちろん、消費者に届くコミュニケーションを生み出すスキルや、販売の現場である店頭でどんなアイデアに落とし込むのかといった現場力、実現力も重要です。広告コミュニケーションから、プロモーション、デジタルマーケティングやダイレクトマーケティングといったOne to Oneに近いアプローチ、さらに、購買後もリピートしてもらうためのCRM(顧客との良好な関係を構築する戦略)を中心とした施策も重要です。これまで社内の各部署で培い、高めてきた専門性を、BIMが機能することで、よりスムーズかつ効率的に連携させることができるようになると考えています。

ビッグデータと連携させることで認知媒体だけではない新聞の可能性が見えてくる

――オンラインで収集、蓄積できるデータを検証して次の施策を考える時代に、オフラインメディアの新聞の可能性をどう評価しますか。

前田真一氏 前田真一氏

 確かに新聞はオフラインメディアですが、デジタルメディアに接触している人が新聞に対してどのような閲読行動をとっているか、といった分析もできます。また、新聞社の持つ多くの読者の行動データを分析することで、購買に至るまでの複数の接触メディアがどのように関連しているかということもわかります。そこからは、認知媒体としてだけではない、新聞の新しい機能や価値が見えてくるでしょう。実際、商品の購入プロセスを把握するための電通独自の分析システム「CROSS-VALCON(クロスバルコン)」で解析したところ、例えば住宅のような商品カテゴリーでは新聞やチラシの重要度が明らかになっています。より統合的なデータ分析を行い、あらかじめウェブと連携して様々なデータ指標の提供をパッケージ化した新たな広告開発などに取り組めば、今後の新聞の使い方の大きなヒントが得られると確信します。

 新聞単体の媒体価値向上はもちろんのこと、コミュニケーションプラン全体の中における新聞の役割とその価値をしっかりと示していきたいと考えますが、今回創設したBIMが中心となって、新聞社をはじめ他のメディアと協力しながら、統合的にプランニングを進めていきます。

――今後の展望、課題などがあれば聞かせてください。

 コミュニケーションプランニングでは、メディア環境の変化によって、「広告」「広報」「販促」といった、これまで個別に取り組んでいた領域の境目がなくなりつつあります。そのことはクライアントも広告会社も共に実感しています。一方、オーディエンスのニーズに応えるため、クライアント側も専門性を高めていますが、細分化されて「縦割り」となりがちな組織はもちろん、意識を含めて、それをいかにシームレスにつなげていくかは、今後の課題であり、私たち広告会社もそれを解決するためにITソリューションやシステムといった新たなサービスの提供も通じて選ばれるパートナーを目指しています。

 BIMが発足したのはまさにその課題に対応するためとも言えます。クリエーティブ力、プランニング力、マーケティング力、プラットフォームの構築力といった、これまで培ってきた専門性を統合して組み上げることで、よりダイナミックなキャンペーンを造り上げる。今回の組織改編でその動きが加速するものと自負していますし、さらに統合力を高めていきたいと考えています。

広瀬哲治(ひろせ・てつじ)

株式会社電通 BIプランニング局 局長

ブランド・コンサルティング室長や電通総研所長を経て2012年4月より現職。自動車、電機、食品、飲料、薬品、通信、不動産、金融、サービスなど、幅広い業種を対象にブランド戦略やマーケティング・コミュニケーションのプランニングを行なってきた。訳書に「統合マーケティング戦略論」「ケロッグ経営大学院 ブランド実践講座」「イノベーション5つの原則」などがある。

前田真一(まえだ・しんいち)

株式会社電通 プラットフォーム・ビジネス局 局次長

1987年入社。地方支社配属を経た後、10年以上にわたる大手総合電機メーカーの担当を通じて「開発営業」を実践。その後、役員の秘書役を10年間務める。2010年に新設のプラットフォーム・ビジネス室(現在の局)に移り新規事業開発を手掛ける。DoIT!(電通ワンストップITソリューション)やスマート・ビジネスなどの全社プロジェクトを牽引。