中国における消費事情と日本企業の成功へのヒント

 中国における消費の実態と、日本企業を中心とするマーケティングコミュニケーションはどのようになっているのだろうか。本稿では、上海にて生活者研究を行いながら、多くのブランドのマーケティングコンサルティングを手がけている著者が、中国の消費市場の概要と、日本企業にとっての成功のヒントを現地視点から紹介する。特に、リアルな中国消費事情について肌感覚を持ってお伝えすることに注力したいと思う。

中国都市部の消費者像~旺盛な消費意欲

北京モーターショー。「ボルボ」買収を3月末に決めた吉利汽車のブースには、各国のメディア関係者が詰めかけた 北京モーターショー。「ボルボ」買収を3月末に決めた吉利汽車のブースには、各国のメディア関係者が詰めかけた

 早速ではあるが、まずは一般的な中国人の消費意識を見てみたい。様々なニュースをみると中国の消費が積極的であることは感じられるだろう。確かに、中国では自動車の生産台数・販売台数が世界一位になったことなど、自動車の売り上げも非常に好調である。2012年の4月に開かれた北京モーターショーのにぎわいを見ても、その勢いは感じられる。自家用車の所有率も上がり、上海や北京などの大都市では渋滞がひどく、ナンバープレートの取得に規制がされているほどである。また、高級ブランドの売り上げも毎年伸びており、消費が非常に活発であることは顕著な状況だ。このあたりの消費の拡大状況は、一部の富裕層だけではなく、中間層にまで広がってきているところがポイントである。

中国生活者の意識 中国生活者の意識

 博報堂が中国にて毎年実施している生活定点調査の結果をみると、中国では約42%の生活者が「物質を通じて豊かさを感じたい」と回答している(図1)。物ではなく「コトを通じて豊かさを感じたい」と回答した人たちは58%でこちらの方が多いのだが、数字はやや拮抗(きっこう)していて中国ではまだまだ物を通じて豊かさを感じたいと考えている人たちが多い。日本ではコトを重視するという生活者は87%にも上り、物を重視する13%をはるかに上回る。中国の生活者は、モノ欲求がまだまだ強いのである。

格差が生み出すモチベーションと消費意向

 日本でも報道されているように、中国での貧富の格差は大きい。ただし、貧富の格差は、農村と都会だけの話だけではなく、都市の中にでも存在する。例えば、大学新卒の平均月給が上海では2,691元(約39,000円)と、基本的に働き始めたばかりの人の給与は低いレベルからスタートする。そこからは年功序列のような制度もなく、能力のある人材はどんどんと出世をして行く実力社会である。(そもそも入社時から、実力に応じて給料が違うことも多い。)それが、数年経つと部署長レベルになり、1~2万元稼ぐ人も存在する。したがって、同じ会社組織のなかの現場社員間でも10倍以上の収入格差があるのが中国の現状である。

自家用車の世帯保有率 自家用車の世帯保有率

 大卒初任給レベルを見てもわかるとおり、多くの中国生活者の絶対的な給与金額は低い。しかし、実力次第では給与の上昇は速い。上司が使っている高級な化粧品や、デジタル商品、携帯電話といったものを、自分の給与レベルが上がれば自分も買いたいと思っている若者が多い。また、生活者インタビューをしていると数年以内にマンションを買って、クルマを買いたいと当然のように思っている人も多い。確かに、博報堂が毎年実施しているグローバル生活者調査「Global HABIT」の結果をみると、家庭月収1万元あたりから車の所有率が上がっていることが見て取れる(図2)

 総じて中国の生活者はまだまだ消費したいという欲求が日本よりも強く、今後も内需の力は強い。順調に経済全体が成長することで生活者の収入が増えていくことができれば、消費全体も今後一層増えて行くことが予想される。筆者の周りの中国人生活者を見ていても、まだまだ消費は堅調に拡大していきそうである。

中国の世代と消費意識~注目される80后(バーリンホウ)

 先述のように中国では収入の格差が激しく、収入レベルによって、自動車などの保有率や保有ブランドなどが異なるが、他にも、中国では世代間の差も非常に大きい。特に、80年代に生まれた若者(中国語で80后と呼ばれる)は、改革開放後の安定した社会と成長する経済の環境下で育った最初の世代であり、中国でも新しい有力な消費ターゲットとして注目されている。彼らの四つの特徴は以下の通りである。

  • 中国の経済成長とともに育った
  • 一人っ子が多い
  • 大卒ホワイトカラー比率が前の世代より高い
  • インターネットユーザーが多い

 中国の80年代生まれの若者というと、年齢でいうと21歳から31歳にあたる。彼らは中国の経済成長とともに育った層であり、学生時代に多くの外国の商品や文化が入ってきた。また、一人っ子が多いために両親や祖父母から非常に大切に育てられた。さらに、80后の世代からは大学進学率が高まり、大卒やホワイトカラー層の比率が高く、いわゆる可処分所得が高い層である。こういった意味では、今後の消費をいっそう牽引(けんいん)するのがこの80后であると言われている。また、学生時代からインターネットを使ってきた層でもあり、消費行動のみならず、情報行動においてもこれまでとは違う新世代の中国人生活者であるといえる。

 彼らの人口ボリュームは推計で2.2億人といわれ、ボリュームのある層として見過ごすことはできない。また、その後の90年代生まれなどは、80后と類似する性格を持っており、今後の新世代の傾向を示す重要な世代ともいえる。したがって、80后を攻略することは、これからの中国市場の中長期的な成功のためには不可欠である。

成功を求めて奮闘する80后

 それでは、彼らはどのような価値観を持っているのだろうか。博報堂が毎年実施している博報堂Global HABIT調査の結果をみると、ライフスタイルに対する意識も世代によって全く異なる(図3)

世代別ライフスタイル (博報堂HABITデータ2009 上海) 世代別ライフスタイル (博報堂HABITデータ2009 上海)

 80后は、「努力をして何かを成し遂げたい」「他の人から認められ評価されたい」「よりよい収入が得られる仕事につきたい」などが高く、成功を求めて奮闘している様子がデータからもうかがえる。

 実際に、80后は大学卒業生も増えたために、非常に厳しい競争にさらされている。日本同様に就職活動が大学生にとっては最大の悩みであるし、大都市の生活費は高く、低い初任給では生活が非常に苦しい。そういった苦しい若者の生活を取り上げたテレビドラマ『蝸居』(カタツムリの家、という意味)、『裸婚時代』(家も買わずに結婚することを裸婚という)が、非常に高い共感を得て話題になったのも記憶に新しい。

80后の消費意識

 世代別の消費意識を見てみると、70后は、「計画的な買い物をすることが多い」という項目がやや高いなど、より保守的な傾向が見られる。それに対して、80后は、「新製品をすぐに試してみるほうだ」「多くの人が同じものを持つと興味がなくなってしまう」など、自分らしさを重視することがわかる。確かに、最近の若者をターゲットにした広告では、他人とは違った自分らしさをアピールした広告が多く、若者からも評価されている。個性を持つこと、多様性があること、というのは若者自身が大切にしている価値でもあるが、欲しいブランドに対しても重視している評価ポイントになっている。

※後編では、広告市場・メディア市場の動向や、中国で企業が成功するカギについて述べていく。詳しくはこちら。