上海にて生活者研究を行いながら、多くのブランドのマーケティングコンサルティングを手掛けている、上海博報堂 市場企画本部長 松浦良高氏による寄稿。前編の「中国都市部の消費者像や消費意識」に続き、以下、広告市場・メディア市場の動向や、企業が中国で成功するカギについて紹介していく。
広告市場・メディア市場の動向
広告市場の規模に関しては、様々なデータがあるが、Zenith Optimediaによると2011年の中国広告市場規模は推計で2兆3,954億円である。中国の統計データは出典元によってばらつきがあるのだが、上昇率は毎年15%くらいで推移している。同データによると、広告費のメディア別投資額を見ると、テレビが一番多く38.4%、新聞が続き21.6%、そして、インターネットが上昇し18.2%となっている。4位が屋外広告で15.5%だが、5位以下のラジオは4.4%、雑誌は1.8%である。(※Advertising Expenditure Forecasts/Zenith Optimedia <2011 Dec. ver>より)
博報堂Global HABITの2011年データで、「よく接触するメディア」として、テレビが1位で、続いて、新聞、そしてインターネットと続く(図4)。
しかし、年代別に詳細を見てみると、テレビは10代から50代まで各層で高いのに対して、新聞は10~20代などの若者では接触率が低い。逆にインターネットは40~50代では低いが、10~20代では80%を超えて非常に高いことがわかる。
このデータに見られるように、中国においてもテレビは日本同様に広く認知を得るためには最も有力なメディアである。したがって、中国のテレビ広告枠の料金が非常に高騰しており、日本から進出するブランドも広告費は日本と同等あるいはそれ以上という感覚である。
中国におけるインターネットメディアの立ち位置
先述のデータにあるように、80后、90后と呼ばれる10~20代の若者にとって、インターネットとは、テレビに次いで2番目に接触頻度の高いメディアであるとともに、テレビ自体にも非常に接近している。確かに最近では、若者にとってインターネットは生活必需品のようなメディアになっているし、数年前と比べれば、その利用方法もメールやチャットだけではなくて、ソーシャル的な利用方法だったり、動画視聴サイトを見たり、オンラインゲームをしたり、内容も非常に豊富になっている。都市部の若者を見る限り、インターネットの利用実態は、日本とほぼ同等あるいはそれ以上に熱いと考えてもよい。
「新浪微博」(ウェイボー)の特徴
「新浪微博」は、新浪が提供しているマイクロブログサービスである。そのトップ画面であるが、中国人向けにアレンジされていて、かなりツイッターとは違う雰囲気である。(写真)現在、中国で最も人気のあるソーシャルサイトというとこの「微博」になるが、基本のつぶやきは140文字という制限があるのは本家ツイッターと同じ。ただ、そのつぶやきの中に絵文字を入れることができるのは新浪微博ならでは。心情をビジュアルで表現できるのは、若者にとっては必須のツールのようだ。写真や動画なども添付しやすく、想像以上に「使いやすい」サービスになっている。この「微博」が現在学生や若手の社会人に大人気であり、これらをマーケティングに活用しようとする企業も増えている。ブランドの公式「微博」サイトというのもかなりたくさんオープンしている。消費者からすると、好きなブランドの最新の情報が得られるし、コメントを書いたり転送したり、インタラクティブ性が高いことも人気の理由である。プレゼントキャンペーンや、プロモーションサイトへの誘導なども活発に行われている。
成功している企業に共通する要素
中国でどのような企業が成功しているのだろうか。この6年間上海現地にてビジネスをしていると、海外の企業だろうと、中国の企業だろうと、日本の企業だろうと、成功している企業には共通の成功要因があるように思える。ここでは簡単にそのポイントをまとめてみたい。
信頼がある。昔からある。なじみがある。信頼がある。
中国は、モノやコトをまず信じないというベースがある。マーケティングのベースとして、この点は日本と大きく違うところ。購買決定において日本は性善説的であるが、中国は性悪説的であるとも言うこともできる。したがって、ブランドはまず消費者からの信頼を得ないとならない。成功しているブランドは、知名度が高く、定評があり、クチコミなどがよい。
広告をよく見る
上記と関連して、広告も信頼獲得のためには大事である。成功している企業の多くは広告を継続的に投入している。中国では、広告を企業の規模や勢いのバロメーターとして消費者が見ていることもあり、広告戦略は成功要因の重要な一つの要素である。
商品が差別化されている
明らかに商品やサービス上の差別化ポイントがあり、それが消費者にとって魅力的なものであること。これは、どの国であろうとも同じこと。中国では即座に類似商品が市場で出てくるので、いかにまねされにくいものかというのも大事なポイント。
店頭でよく見る
広告などをよく見ても、店頭でその商品を探せないと意味がない。ブランド力の強い商品について、消費者はよく「店頭のいい位置にある」「店頭でよく見る」ということを指摘する。中国では店頭においてもらうためにも流通への投資が必要になるが、このあたりの流通戦略も重要なポイントになる。
日本企業にとっての中国市場進出へのヒント
上記に見られるように、基本的には、マーケティングの基本でもある4P(商品、広告、価格、流通)のすべてにおいて優位性を持つことが成功の近道なのであるが、中国は競争も非常に激しい市場なので、どの項目をとってもなかなか簡単には行かないのが現状である。最後に、日本企業への中国市場での成功のヒントを自分なりにまとめてみたい。
中国生活者を深く理解すること
中国の生活者を徹底的に研究して彼らのニーズを知ること。どのようなターゲットが、どのようなことに関心があり、どのようなニーズを持っているのか? 彼らは、どのような価値観を持っていて、どのような消費意識を持っているのか。中国生活者のことを徹底的に理解する、あるいは彼らに教えてもらうといった真摯(しんし)な姿勢がないと中国生活者の理解は進まないし、最終的には成功しない。
違いを認識すること
よく言われていることであるが、中国は日本とは全く違う市場である。先ほども指摘したように不信がベースになっている消費市場や、社会環境も、生活者も、あるいは、市場における競合関係も全く異なる。特に生活者が異なれば、彼らの好みもまったく異なる。日本での人気や受容性を前提にして中国でビジネスを考えるとまったくうまくいかない。中国の生活者には彼ら独自の好みやテイストがあり、このあたりとのマッチングをゼロベースで検証しないとならない。中国市場の延長線上に日本があるわけでもなく、まったく別の市場として認識した上でビジネスを検討する必要がある。
市場での信頼を得て、選択されるブランドになること
中国で成功するためにはまずは信頼を獲得するブランドにならなくてはならない。偽物ではないこと、安全であること、購入しても大丈夫なブランドであること、こういったことをまずは証明しなくてはならない。信頼できるブランドであると認識され、さらには購入検討のリストに入らないといけない。数あるブランドの中から信頼され、選択されるブランドになるためには市場導入期にはしっかりと自己紹介する必要がある。
中長期的なビジョンを描くこと
中国で成功することは、世界一注目されている市場での世界一厳しい競争に勝たなくてはならないため、簡単なことではない。その中で、重要なことは中国進出と中国市場での発展を中長期的にどのようにしていきたいかというビジョンを持つことである。特に、3~5年でのゴールイメージを、北京・上海・広州といった大都市中心での展開を目的とするのか、あるいは、2、3級都市までをも含めた展開を目指すのかによって、展開のスピードも異なるし、人員計画や流通対策、あるいは販促費の計画も変わってくる。中国で成功すると一口にいっても、さまざまな成功パターンが考えられるわけであり、どのような成功を目的とするのかを明確にした上で、初めて戦略を検討することができる。
中国市場へのコミットメントを明らかにする
中国市場とは、中国政府の意向が政策という形で市場に対して大きく反映する市場である。たとえば、最近開催された第11期全国人民代表大会第4回会議では、インフレの抑制やバランスの取れた成長を目指すための政策を強化するという発表があったが、今後はそのような方向に市場は進んでいくことが予想される。こういった政策の方向性に気を配るのはもちろんのこと、中国でのビジネス活動においても、中国市場にどのように貢献していくのかという視点を持って活動を続けていくことが中長期的に中国市場で成功するためには必要である。
とある欧米企業は、In China, For China(中国国内で、中国のために)という社内のモットーを掲げて、ビジネス活動をするように方針転換したところ中国ビジネスが一気に拡大する契機になったという。また、とある韓国企業は、「愛中国」というキャンペーンを展開して、中国市場に貢献する姿勢を生活者に対しても明示している。
中国で成功している企業は、うまく中国政府の長期的な関心をとらえているケースが多く、いかに自社の強みと中国の長期的な利益を結び付けていくかということが課題になる。中国とともに成長するというスタンス、そして、中国のためになりながら、長期的には中国を起点に東南アジアや欧米など全世界に打って出るというような、中国市場の先を見越した視点も必要になるであろう。
<おさらい:日本企業への中国市場での成功のヒント>
- 中国生活者を深く理解すること
- 違いを認識すること
- 市場での信頼を得て、選ばれるブランドになること
- 中長期的なビジョンを描くこと
- 中国市場へのコミットメントを明らかにする
上海博報堂 市場企画本部長、博報堂 研究開発局上席研究員、上海同済大学客員教授
1999年米国ジョージ・ワシントン大学大学院修士課程(東アジア研究専攻)修了。2000~2006年 博報堂にてマーケティングプランナーとして、清涼飲料、トイレタリー、お酒、高級品ブランド、金融、政府機関、中国系家電など、日系、欧米系のクライアント業務を担当。2006~2008年 上海同済大学上席研究員、マーケティングプランナー(博報堂人材開発戦略室付・研修出向)。上海を基点に、中国の最新メディア(インターネット等)や中国若者の動向を研究。著書に『新・中国若者マーケット』(弘文堂)、共著に『亞州未来図2010』(阪急コミュニケーションズ)、訳書に『現代中国の消費文化』(岩波書店)などがある。