「らしさ」を貫きながら現地ニーズに対応。2020年までに8,000店規模へ

 2009年に海外の店舗数が日本国内の店舗数を超えたファミリーマート。中国進出は04年。上海を足がかりに各地で着実に店舗を増やしている。中国でのコンビニエンスストア市場の現状について、海外事業本部 海外事業部 東アジアグループ マネジャーの北村篤氏に聞いた。

現地の有力パートナーと連携し、ノウハウを持ち寄る

北村篤氏 北村篤氏

──中国に進出した経緯と、現在の展開状況について聞かせてください。

 ファミリーマートは、1988年に台湾、90年に韓国、93年にタイへと進出し、12年5月末現在、台湾2,814店、韓国7,267店、タイ713店、中国900店、アメリカ9店、ベトナム20店と、各国で順調に店舗数を増やしています。中国については、04年7月、上海に1号店をオープンしました。その後、07年に広州と蘇州、11年に杭州、今年に入って成都にも3店を開店しました(12年5月末現在、上海701店、広州132店、蘇州59店、杭州8店)。下期には深圳(セン)での開店も予定しており、来年は北京や天津などへの進出も視野に入れています。中国出店は、今年度末までに1,200店舗を目標とし、今後2020年までに8,000店規模まで拡大したいと考えています。

──中国展開のポイントは?

 コンビニエンスストアという業態は、地域と密接に結びついているので、現地の有力パートナーとの連携を基本戦略としています。それも単にライセンスを付与するのではなく、合弁会社を設立し、事業に直接参画しています。中国展開の主なパートナーは、中国で飲料やカップ麺のトップシェアを有する頂新グループ、台湾におけるコンビニ業の成功実績を持つ台湾ファミリーマート、また、資本提携はありませんが、伊藤忠商事にはグローバルな調達網と流通インフラで協力をいただいていています。人材も、パートナー各社から中国各地の合弁会社に派遣し、ノウハウを移植しています。また、安定的かつスピード感のある店舗拡大のため、弁当などの「中食」工場や物流センターなどのインフラ体制を構築し、事業を開始しました。

──パートナー企業のノウハウとして、興味深い例は。

上海でのおでん販売風景 上海でのおでん販売風景

 日本でおなじみのおでんを中国でも売っていますが、それは、台湾ファミリーマートの成功に基づいています。おでんは、日本ではおかず用に家に持ち帰る方が多いのですが、台湾や中国ではファストフード感覚でその場で食べる方が多いです。売れ筋や好まれる味も、おのずとファストフード感覚に適したものになりました。中国は台湾と食文化が近いので、台湾流を持ち込みました。また、台湾ファミリーマートでは、コンサートやレジャーのチケットなど各種支払いサービスが受けられる店頭端末「Famiポート」のニーズが拡大しています。中国でも同じ傾向が見られ、オンラインで販売する商材にも力を入れています。

──中国ならではの商品やサービスはどのようなものですか。

 中国では、コンビニ店内で軽食を楽しむ「イートイン」が人気を集めています。おしゃれなカフェ感覚で利用されているお客様が多く、そこは日本とかなり違います。ファミリーマートが、単に「必要な物を買う場所」というだけでなく、店員の接客態度、整然とした商品陳列、清掃が行き届いた店内など、サービスを含めて「居心地のいい場所」という位置づけになっているからだと思います。

 日本ではあまり起こらない現象もありました。中国の消費者は、ポイントを集めて何かが当たるという企画が大変好きで、キャンペーンに応募が殺到して景品の製造が追いつかない事態になったことがありました。これは現地で展開してみないとわからないことで、反省と学習を重ねながらニーズに対応しています。

──プライベートブランド(PB)への支持は集まっていますか。

 お弁当が人気です。中国のビジネスパーソンは、昔は食堂や屋台でランチを食べるのが一般的でしたが、今はお弁当を買ってオフィスで食べる人が増えています。地元のコンビニの中には、近所の委託業者が作ったお弁当を並べているところもありますが、その多くは賞味期限の記載がありません。当社のPB弁当は、専用の工場で徹底した品質管理のもとで製造し、しっかり包装し、賞味期限を明記した上で、専用の配送網を通じて店頭に届きます。当社の弁当の売れ行きが好調なのは、中国でも食の安全・安心への意識が高まっていることが背景にあると思います。

 人気商品は、どんぶり弁当や、大きめのおにぎりなど、コンビニの主要客層である若い男性が好むメニューを始め、最近では、カロリー控えめのお弁当や、容量が少なめのお弁当が若い女性に支持されています。また、地域に合わせた商品開発も行っています。PBパンも大きく伸びています。敷島製パンの技術援助を得て製造したパンは、従来中国にはあまりなかったモッチリした食感なのでとても好評です。

店舗外観(上海) 店舗外観(上海)
イートインスペース(上海) イートインスペース(上海)

グローバル展開のメリットを商品やサービスに還元

──商品の価格設定はどうでしょうか。

 例えば、お弁当の値段は8〜10元(約100~120円)です。地元業者のお弁当は5元以下で買えるので、やや高めです。ただ、品質の高さや安全性を求めて手に取るお客様が多くいます。低価格帯のPB弁当の開発も進め、昨年から販売を開始しました。お弁当を買ったら指定の飲料が安く買えるというような「セット販売」も反応がいいですね。

──コンビニエンスストアの要ともいえるチャネル戦略は。

 初期段階においては、フランチャイズシステムに対する中国政府の理解を得ることが重要なポイントとなりました。というのも、フランチャイズ展開が進むことによって、昔からある小売業が圧迫されるのではないかという誤解が少なからずあったのです。地域の配送網が近代化し、それによって地元の小売業も発展できること、加盟社の収入が上がり、ひいては地元の経済発展につながることを働きかけました。中国は広いので、地域によって法律や規制が異なり、新しいエリアに進出するたびに丁寧な説明が必要となります。政府との良好な関係を持つ現地パートナーと連携することは、その点においても大きな意味を持ちます。

──コミュニケーション戦略はどのように展開していますか。

 中国だけでなく、全世界共通の方針として、「日本ブランド」ということを積極的には訴求していません。地域に根ざした存在になりたいからです。広告展開は、企業ロゴの認知向上を目指した企業広告、中国の人気タレントを起用した商品キャンペーンなどを並行して行い、新聞広告、テレビCM、地下鉄の中吊りや駅構内の看板、バス乗り場のサインなどを活用して立体的に展開しています。

──中国に進出後、05年にアメリカ(12年5月末現在9店)、09年にベトナム(同20店)にも進出しましたね。

 台湾、韓国、タイ、中国、アメリカ、ベトナム、そして日本と、各国の社員が集まる会議や研修会を頻繁に開き、インタラクティブに情報交換を行っています。台湾ファミリーマートで北海道の物産を売ったり、各国独自の味付けのお弁当を日本のファミリーマートで販売するなど、共同キャンペーンも随時実施しています。

 グローバル展開における最も重要なポイントは、人材育成だと思っています。例えば中国では、お客様に「いらっしゃいませ」と言う習慣はありませんでした。段ボールに入った商品をいつまでも売り場の通路に置いておくようなお店もたくさんあります。中国の社員には、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」というあいさつの基本、迅速な商品整理など、日本のノウハウを吸収してもらい、現地スタッフへの徹底指導を促しています。また、各国でファミリーマートらしいサービスを追求する「らしさ活動」を行い、成功事例を報告し合いながらグローバルブランドとしての成長を目指しています。

──今後の抱負は。

 中国のコンビニは、日本のコンビニがたどってきた道のりとは違った形で発展しています。イートイン人気にしても、日本にはないコンビニ需要です。成長のカギは、現地ニーズの把握に尽きると思います。経済発展につれ、時間をお金で買う人が増えている中国。そうしたライフスタイルに適応するコンビニはますます注目されていくでしょう。ファミリーマートらしいサービスを通じて現地の支持を集めていきたいと思います。

北村 篤(きたむら・あつし)

ファミリーマート 海外事業本部 海外事業部 東アジアグループ マネジャー

2006年より現海外事業本部にてファミリーマートの海外展開拡大に従事。