30年で築いた「資生堂」ブランドの力を維持しつつ、中国市場とともにさらに成長したい

 昨年、資生堂は中国進出30年を迎えた。すでに「資生堂」ブランドは中国では揺るぎないものになっている。早い段階から中国市場に着目した同社は、これまでどのようにビジネスを広げてきたのか。中国事業部 事業推進部 部長の太田正人氏に聞いた。

多様化したニーズにドメスティックに対応 チャネル別ブランドマーケティングを展開

太田正人氏 太田正人氏

――中国進出の歴史と現状を聞かせてください。

 実は1981年に、化粧品・石けんなどの商品を、高級ホテル「北京飯店」の売店などで販売したのがスタートです。その後、北京市から技術協力の依頼がありました。当時の中国は、ほとんどの男性が人民服を着ている時代で、化粧といえば女性も口紅をつけるぐらいで、化粧をする習慣がまだ一般的ではなかったのですが、北京市政府は、化粧品産業が今後成長すると見ていたようです。当社は83年から北京市と4回 にわたって技術協力協定を結び、生産技術やノウハウを提供しました。「華姿(ファーツー)」というブランドを立ち上げ、シャンプーとヘアリキッドを皮切りに、スキンケアやメーキャップ商品を展開しました。この時に中国政府と築いた信頼関係が、現在に至る30年の礎になったことは間違いありません。

 進出から10年目の91年には、中国国営企業の麗源公司との合弁会社「資生堂麗源化粧品有限公司」を設立。本格的な自社製高級化粧品の開発、生産に着手し、94年、中国専用ブランド「AUPRES(オプレ)」が誕生しました。現在、中国全土の百貨店に約1,000の販売カウンターを持ち、中国の国民的ブランドとしての地位を築くことができました。

「華姿(ファーツー)」 「華姿(ファーツー)」

 20年目からは、さらなる販売チャネルの拡大を進めています。それまで化粧品を売る場はほとんどが都市部のデパートでしたが、地方都市やその周辺地域にも販路を広げようと、日本の「資生堂チェインストア」のノウハウを生かし、個人経営の化粧品店のネットワークづくりを進めました。現在、全土で6,000店にまで拡大したこのチャネル向けには、「URARA(ウララ)」というブランドを立ち上げました。さらに、薬局・薬店も販売網に追加。効果・効能への関心が高い顧客が多いので、2010年に専用ブランド「DQ」を導入しました。11年には自社サイトでのネット通販をスタート。通販専用ブランド「ピュアマイルド ソワ」を販売しています。これに続き、12年から「SHISEIDO」ブランドも自社サイトでの販売をスタートさせました。中国事業の売上高は、2012年3月現在で資生堂グループ全体の10%強を占めるまでに成長しています。

デパート向けブランド「AUPRES(オプレ)」
デパート向けブランド「AUPRES(オプレ)」

百貨店向けブランド「AUPRES(オプレ)」

――マーケティング戦略の特徴とその理由は。

 百貨店は「AUPRES」、化粧品専門店は「URARA」、薬局・薬店は「DQ」、ネット通販は「ピュアマイルド ソワ」など、チャネルごとにブランドを展開し、それぞれにきめ細かいマーケティングを展開しています。通常、グローバル展開する場合、ブランドや商品を統一するのが一般的なのですが、中国の場合は、マルチドメスティックマーケティングの考え方で、チャネル別ブランドマーケティングを貫いています。なぜなら、中国市場にはとてつもないポテンシャルがあるからです。現在人口が約13億人、半分が女性としても6億人余りが化粧品ユーザーになり得る。その女性たちが利用するチャネルの特性に合ったブランドを出していくことで、幅広いニーズに対応できるだろうという考え方です。30年間続けてきたこのスタンスは、今後も当面続けていく考えです。

「URARA」 化粧品専門店向けブランド
「URARA」
「DQ」 薬局・薬店向けブランド
「DQ」
「ピュアマイルド ソワ」 通販専門ブランド
「ピュアマイルド ソワ」

――プロモーションは、どのような取り組みをしていますか。

中国の人材育成施設 中国の人材育成施設

 中国ではテレビが非常に影響力が強いですね。「テレビCMを出すほどの企業は信頼できる」という見方が強いようで、競合する多くのグローバル企業は、膨大な広告投資をしている印象を受けます。電波を使った「空中戦」です。一方、当社が重視しているのは、お客様と直接出会う店頭でのコミュニケーションです。ビューティーコンサルタント(BC)と呼ばれる美容部員が、お客さま一人ひとりに最適なコンサルタント(=おもてなし)をすることで、ブランドロイヤルティーを高めていく。いわば「地上戦」です。日本における人材育成のノウハウが生かせている点であり、他社と大きく差別化が図れる資生堂の強みでもあると思っています。

 もう1点、力を入れているのがインターネットです。ついに米国を抜いて世界一のネット人口を抱えるようになった中国において、ネットを通じたコミュニケーションは必須。自社サイトで、ウェブドラマなどのオリジナルコンテンツを配信するなど、ネットならではの手法を活用したコミュニケーションを展開しています。

 それから、植林や希少動物の保護、小学校建設、そうした活動に伴う現地での雇用創出といったCSR活動も積極的に進めています。実は、これも中国においては重要なコミュニケーションになります。中国では、CSR活動をしっかりとアピールすることで、「優れた企業」「尊敬できる企業」と評価されるのです。資生堂の社名は、中国の古典「易経」に由来しています。CSR活動には「中国への恩返し」という思いも込めています。

3億人超が見込まれる化粧人口に対し スピード感を持って「次の一手」を打つ

――今後の展開を聞かせてください。

 「20歳以上で都市部在住、年収が3万元以上の女性」を、いわゆる「化粧人口」と呼んでいます。彼女たちは現在、中国全土で約1億人いますが、2020年には実に3億4千万人にまで増えるという試算があります。彼女たちは当社のターゲットと言いかえることができます。現在、日本は「16歳以上の女性」が5,680万人ほど。この試算から見ても、中国の今後の化粧品市場が大きなポテンシャルを秘めていることは明らかです。生産体制や物流といったインフラ面、さらに広がりを見せるインターネットなど、次々と手を打っていかないと中国の成長についていけなくなります。スピード感をもって対応していき、ビジネスとして成長につながれば、ひいては中国への貢献にもつながると思います。

 将来的には、商品開発、生産、販売まで、すべて中国国内で行うというのが理想です。そして、「メード・イン・チャイナ」の資生堂製品を中国から他国に輸出し、世界の市場で広く受け入れられる日が訪れる。そうした夢も可能ではないかと思っています。

太田正人(おおた・まさと)

資生堂 中国事業部事業推進部長

1979年、慶應義塾大学卒。同年、株式会社資生堂入社。86年、本社商品開発部。2004年、本社グローバルマーケティング部。06年、本社中国事業部マーケティング開発部。12年より現職。中国における新規事業の開発、中国現地法人の管理・サポートなどを担当。