さまざまな規制を緩和し、あらゆる情報を開示することが大切

 震災発生直後から、海外のメディアには日本の震災に関するニュースがあふれかえった。世界中の人が、固唾(かたず)をのんで日本を見守り続けるなか、海外メディアはどのように震災を報道したのか。また、日本の企業の動きはどう伝わっているのか。英「エコノミスト」誌の東京特派員、ケン・クキエ氏に話を聞いた。

政治への失望とエネルギー問題への懸念が広がる

――震災から約5カ月が経過しましたが、海外メディアは何に関心を持ち、どのような報道をしてきたのでしょうか。

英「エコノミスト」誌 東京特派員・ケニス・クキエ氏

 現在、震災後の日本についてのニュースは、一般的な大衆紙・誌からは、ほとんど姿を消しています。一方、「エコノミスト」や「ウォール・ストリート・ジャーナル」「フィナンシャル・タイムズ」などのクオリティーメディアは、日本の情勢に大きな関心を持ち、報道し続けています。

 その論調は、経済に関しては、日本の企業は思ったよりもずっと早く立ち直りを見せているという見方が中心。力強い足取りを賛辞する一方で、不安要因として大きくクローズアップされているのが原発事故とそれに続くエネルギー問題です。

 経済は確かに持ち直してきている、しかし、これから先の成長を考えたとき、エネルギーは大丈夫なのか。事故を受け、原発は縮小に向かっているが、それなら必要な電力をどう確保していくのか。こんな懸念が繰り返し報道されています。

 しかも、この大事なときに政治的なリーダーが不在。この点に言及するメディアは多く、経済的な復興の一方で繰り広げられる政治的な大混乱には、失望感が広がっています。

――クキエさんご自身は、何を感じどのような情報発信を行ってきましたか。

 政治、経済、電力・エネルギーの3つについて報道しています。まず、政治についてですが、今お話したように、ひたすら失望しています。経済が予想よりもはるかに早く復興してきているなかで、政治家があまりにお粗末。その印象をそのまま伝えているという状況です。

 電力・エネルギー問題は、取材対象として非常に興味深い。というのは、これが、政治と産業界・経済界の間にあり、相互に引っ張り合いをする力関係の中で進んでいく問題であるからです。

 各国のエネルギー政策が新しい時代にどんどん入っていくなかで、日本の電力市場はいっこうに自由化が進まず、1930年代くらいからほとんど進歩していません。でも、今回の原発事故によって、電力という社会の重要なインフラを独占状態にしておくことの弊害に多くの人が気づかされました。ここで一気に規制緩和の方向へ舵を切れるかどうか。今は、その正念場だと思います。

 エネルギー分野の規制緩和は、国際的にみても不可欠で空気を吸うのと同じくらい当然のことです。それなのに、日本国内にはそれを阻もうとする非常に大きな勢力がある。私にしてみれば、そのことがそもそもの驚きです。このまま何も変えずに、いったいどうしようというのか。

 その勢力を抑えて、エネルギー政策を転換できるかどうかに日本の将来はかかっている。私はそういう観点から報道しているし、世界も今の日本をそう見ているのではないでしょうか。

――被災地復興の課題はなんでしょうか。

 東北の再建で終わってはいけないということ。問題は回復したあとどうなるか、がポイントだと思います。被災地のなかに「復興特区」のようなエリアを設け、そこでは規制を緩和し、民間がどんどん参入できるようにして経済発展を促そうという動きがあります。これがうまくいったら、そのエリアを規制緩和のモデルケースとして、ほかの動いていないエリアにも応用していく。そんな形で再建に続く成長を目指すことが、東北を変えていくことにつながると期待しています。

危機に強いのは、現場が自由に動ける企業

――震災後の企業の動きについて感じられたことは?

 被災地での企業の動きには目を見張るものがありました。あるコンビニエンスストアでは、電気が完全にストップするなか、店長が自分の車に商品をいっぱい積み込んで移動し、明るいところに並べて、手計算で販売し、たいへん喜ばれたといいます。POSレジが使えず照明もつかないなら、「店を閉めるしかない」というのが中央の本部の判断。でも、前例はないけれどやってみよう、という現場の独自の判断が効を奏したというわけです。

 被災地では、こんなケースがいくつもあったといいます。現場が自由に動ける企業は、何か事が起こったときにも強いということでしょう。

――震災後の企業コミュニケーションはどうあるべきでしょうか。

 ディスクロージャー(情報公開)が大切です。今回の原発事故にかかわる一連の情報の流され方は、「日本の国民はすばらしいけれど、日本の政府や機関、組織がそのレベルに達していない、信用できない」という失望感を海外に与える結果になりました。私自身も、震災直後に、原発にかかわるある企業の上層部の人たちに取材をしました。被ばくの危険について質問したところ、「いや、全然問題ないですよ」「なに、そんな大げさなことを言っているんですか」という反応だった。けれども、実際は、懸念したことがやがて明らかになったのです。

 こういうウソは、メディアをミスリードするだけでなく、自分たちをミスリードしていることになります。あそこで、「現状ではこういう問題が予想される。それに対してはこんな対応をしなくてはならない」と正直に応えてくれていたら、信用できるりっぱな企業として認知されることになっていたかもしれません。

 あらゆる情報を、迅速に、隠し立てせずどんどん開示していくことの大切さを、今回のことから企業は学ぶべきだと思います。そんなオープンな姿勢が、結果的には信頼感を高め、その企業の成長を促すのではないでしょうか。

ケン・クキエ(Kenneth Neil Cukier)

英「エコノミスト」誌 東京特派員

東京支局でビジネス・金融部門担当以前は、ロンドン本社にてテクノロジー担当記者。「エコノミスト」勤務以前は、香港のアジアウォールストリート紙のテクノロジー編集者および「レッドへリング」誌欧州編集者。1992年から1996年、パリのインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙で勤務。2002年から2004年、ハーバード大学スクール オブ ガバメントのリサーチフェロー(インターネットと国際関係についての研究)。現在、外国特派員協会の理事も兼任。