アウトドア部門で金賞を受賞した、東芝の「10年カレンダー(WITH 10 YEARS OF LIFE)」。あかりの下で展開される「ある男性の10年・3653日の日常」をカレンダーとしてビジュアル化し、LED電球の約10年という長寿命をアピールした。東芝広告部部長の末澤光一氏、電通プロモーションセンター プロモーション事業局 ソリューション・クリエーティブ室 シニア・クリエーティブ・ディレクターの中澤真純氏に聞いた。
10年の変化を目で追う楽しさ
――「10年カレンダー」の企画のねらいと概要は。
末澤氏 LED電球の約10年という長寿命をテーマにしています。当社のあかりの歴史は、創業者の一人、藤岡市助が1890年に実用化した日本初の一般白熱電球に始まります。以来120年もの間人々の暮らしを照らし続けてきましたが、環境への影響を考え、2010年に一般白熱電球の製造を中止し、どこよりも早くLED電球へと切り替えることを決意しました。新しいあかりへシフトしても、人々の暮らしを豊かで幸せなものにしたという創業時の思いは変わりません。それを伝えるのに、「寿命10年」「明るい」といった直接的な表現に走るのではなく、あかりによって満たされる人の思いまでも表現できないかと考えました。
広告は、ある男性がダイニングのあかりをLED電球に付け替えた初日から10年後に再びLED電球を交換するまでの間の10年・3653日、変わりゆく日常の風景をカレンダーで表現しています。独身時代、新婚時代、子供の誕生と、年を重ねるほどに彼の人生が豊かに膨らんでいき、その幸せな10年をLED電球が照らし続ける様子をとらえました。
――クリエーティブのポイントは。
中澤氏 あかりの下で展開される10年を一望できるグラフィックにしたというのが、この広告の最大のポイントです。独身男性の家に彼女が訪ねてきて、結婚し、子供が生まれ、犬を飼い……という様子がシルエットとして窓辺に映し出され、数字ではなく暮らしの変化によって時間の経過がわかるようになっています。描いた10年は人生の中でも大事な時期で、これからそうした10年を迎える人もいれば、すでに経験した人もいます。見る人それぞれに思いをめぐらせてもらえるのではないかと考えました。
カレンダーのシルエット画像は、モデルによる実写撮影で、約3日間をかけて行われました。1つとして同じシーンはなく、3653日の変化を目で追う楽しさを演出しています。シルエット画像は、ともすると単調でさみしい画面になってしまいます。そこで、光あふれる楽しい窓辺を演出するため、皆でモデルの所作を考え抜きました。
――受賞の理由をどのように分析しますか。受賞の感想、社内外の反響などについても聞かせてください。
末澤氏 製品の性能やベネフィットを言葉で語っていなくても、見る人にそれが伝わる表現だったこと。文化も言語も違う人たちに評価された理由は、やはりそのあたりかなと思います。受賞のニュースは、イントラネット上の反響をはじめ、社員たちの間で大変話題になりました。一般白熱電球の製造を中止し、LED電球に切り替えたインパクトは社員たちの新しい記憶の中にあるので、事業の再評価とともに、それを効果的に表現したクリエーティブに対する再評価にもつながりました。広告とトロフィーは弊社ロビーに掲出していますが、多くの社員やお客様が足を止め、各シーンがすべて異なっていることを目にして驚いている光景が見られます。
中澤氏 LED電球の10年の寿命を1ビジュアルで見せた明快さと、どの国の人も共通感覚としてある「あかりがもたらす幸せ」というモチーフを理解してもらえたのではないかと思います。これまでカンヌで、日本の応募作は、サイバー部門やメディア部門などでは好成績を収めてきましたが、グラフィック関連ではあまりふるっていなかったように思います。とても価値ある受賞となりました。
広告は投資。よりインタラクティブな方向へ
――受賞を糧に、今後どのようなコミュニケーションを目指していきますか。
末澤氏 弊社の事業は幅広く、それぞれの存在価値を伝えることが広告の使命です。グローバル企業として、世界中の人に正確なブランドイメージを持っていただく努力も必要です。そうしたことでもカンヌで評価を受けたことに意義を感じています。当社にとって広告は「経費」でなく「投資」であり、期待するリターンは生活者の反響や共感です。ですから、生活者に一方的に訴求するのではなく、いかにインタラクティブにコミュニケーションしていくかということに知恵を絞っていかなければと思っています。今後、新聞、テレビ、ウェブなどにおけるコミュニケーションにおいても同じ姿勢を貫いていきたいですね。
――8月1日から19日まで、有楽町マリオン1階センターモールに、縦4m、横28mの同広告が掲出されることになりました。
中澤氏 LED電球が照らす10年をタイムトンネルのように見られる空間になると思います。「権威ある賞を受賞してよかった。終わり!」ではなく、改めて見てもらおうと掲出を決めたところにも東芝さんのコミュニケーションに対する強い意志を感じます。
末澤氏 今回の受賞作品を皆様に楽しんでいただくため、東京の中でも人通りが多く、待ち合わせ場所としても活用されている有楽町マリオンに掲出することにしました。屋外広告はたいてい歩きながら見るものですが、足を止めて見入ってもらえるのではないかと期待しています。節電の気運が高まっている中、楽しみながらLED電球の節電性や長寿命に気づいていただけたらうれしいですね。また、震災以降、「家族に対する思いが強まった」と答える人が増えているそうですが、そうした気持ちにも寄り添えたらと思っています。
東芝 広告部 部長
神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、1981年に東京芝浦電気株式会社に入社、1999年にパソコン事業部パソコン営業第一部長、2002年PC事業部PC企画部長、2003年経営監査部参事、2004年東芝情報機器株式会社PC企画部長、2006年株式会社東芝PC&ネットワーク社 PC第一事業部長、2008年東芝情報機器株式会社取締役社長、2011年株式会社東芝広告部長として現在に至る。
電通 シニア・クリエーティブ・ディレクター
1962年茨城県生まれ。茨城大学卒業、東京藝術大学美術学部大学院修了。1988年電通入社。担当クライアントは、コマツ、東芝、トヨタ自動車、月星化成、ANA、JR東海、吉野家、味の素、サントリー、JT、エーザイ、日本相撲協会、東宝、NHK、台湾7ELEVEN、日清インド。カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(旧・カンヌ国際広告賞)金賞・銀賞、アドフェスト ダイレクトロータス銀賞のほか、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、日経広告賞など国内外の受賞多数。
東京・有楽町マリオン1階センターモールに登場した「10年カレンダー」。8月1日から19日まで掲出。