ウェブサイト上に仮想行列を作り、セールや新店舗の開店を話題化 「UNIQLO LUCKY LINE」

 サイバー部門金賞を受賞したのは、ユニクロの「UNIQLO LUCKY LINE」。ユニクロのセールや新店舗の開店を盛り上げるため、日本、台湾、中国で展開。ウェブサイト上の仮想行列にツイッターやフェイスブックから参加できるというプロモーションサイトで、日本では18万人、台湾では63万人、中国では130万人の参加者を集めた。制作を担当した電通 コミュニケーション・デザイン・センター クリエーティブ・ディレクターの佐々木康晴氏に聞いた。

並ぶ楽しさと実店舗に行く動機づけを高める

──キャンペーンの概要は。

佐々木康晴氏 佐々木康晴氏

 キャンペーンは、日本は創業記念セールを、台湾は台北にできる初めてのユニクロストアの開店を、中国は年末特別セールを盛り上げ、ユーザーが実店舗に足を運ぶ導線を作るねらいがありました。もともとユニクロは店舗オープン時に行列ができ、早朝から並んだ人にあんぱんや牛乳を配るなどして話題を呼んでいました。とはいえ並ぶのが面倒な人もいます。そこで、サイト上での仮想行列に参加できる仕組みを作ったらどうかと考えました。また、どんなに人気のウェブサイトも、たいていは1人でパソコンに向かって見るもので、人の熱気まで感じることはできません。以前からその課題を考えていたところにユニクロの趣旨を聞き、「行列」が一つの回答になると考えました。さらにクライアントとアイデアを交換し、並んだ順番によってプレゼントや割引クーポンがもらえる特典をつけ、並ぶ楽しさと実店舗に行く動機づけを高めました。

──プロモーションサイトの特徴は。

 行列に並ぶ入り口の一つは、ユニクロのウェブサイト。並ぶと特典がもらえ、ツイッターやフェイスブックにコメントを入れるだけでその行列に並べることが、一目でわかるようになっています。もう一つはツイッターやフェイスブックから入る方法で、「今、行列に並んでいます」という友達の書き込みに興味を持った人がリンク先のユニクロサイトに行き着きつく道筋です。参加すると自分の分身と並び順が表示され、分身は洋服や性別などが選べるようになっています。イラストは独特の楽しい世界観を持つドット絵(ピクセルアート)職人のグループeBoyを採用し、ユニクロのスタイリッシュなウェブサイト上にいい意味での違和感を与えました。

──各国の反響はどうでしたか。

 日本のキャンペーンは、期間が短かったこともあり台湾や中国ほどの参加数にはなりませんでしたが、ツイッターのタイムラインの勢いは群を抜き、「Worldwide Trend Word」のトップになりました。台湾の人たちはとにかくユニクロが大好きで「参加したい」という情熱がものすごく、店舗にも数千人の行列ができました。中国の人はおトクな情報に敏感で、射幸心を刺激するようなコミュニケーションが有効な手段になると感じました。

──成功の理由は。

 ユニクロブランドを支持する層が、ちょうどソーシャルメディアで友達とつながっている20代に合致していたこと、プロフィル入力などのユーザー登録を不要にし、参加の仕組みをできるだけシンプルにしたこともよかったと思います。何より、ユニクロのブランド力がしっかりしていたからこその反響で、根本的なブランディングの重要性を再認識しました。

ウェブサイト「UNIQLO LUCKY LINE」

海外に通用するのは、シンプルなアイデア

──受賞の感想は。

 3D技術を駆使したわけでもない単純な仕組みでしたが、「並んでトクする」ということが直感的にわかったところがよかったのでしょう。そういう意味では、情報をそぎ落としてシンプルにやろうと言ってくれたクライアントに感謝しています。日本の「行列文化」が通じるのかという思いもありましたが、面白がってもらえたようです。ちなみに受賞後に海外の人たちと話す機会があった時、メキシコの人は「行列は仕事をしないお役所の象徴で、見るだけで嫌な気分になる」と言っていました(笑い)。

──近年のサイバー分野の成長や傾向については。

 僕は電通に入社して3年間コピーライターの仕事をしたのちデジタルクリエーティブ部門に移り、以来約13年デジタルの仕事をしています。その間、デジタル技術はめざましく進化し、マニアが使う特別なものから気軽に手に取れる道具となりました。それによって可能性が広がる一方で、デジタル分野への期待が過度になり、販促も商品告知もブランディングもあれもこれもと望まれることが多くなっています。そこは新しい悩みといえますね。目的によってやり方は一つではありませんから。また、デジタルマーケティングというと、とかく数字や効率が求められますが、実際はじわじわと波及しブランドへの愛着を醸成する力がとても大きいので、効率主義になり過ぎず、長期的な視野を持つことも大切だと思います。僕は2006年にサイバー部門の審査員をしましたが、カンヌでも数字に固執せずアイデアを評価する方向にきていると実感しました。

──カンヌライオンズの印象を聞かせてください。

 全体の傾向として、コミュニケーションの全体設計が問われるようになっています。今年、正式名称が「カンヌ国際広告祭」から「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」に変更となった理由もそのへんにあるのではないかと思います。メディアの組み合わせ方、消費者の巻き込み方など、コミュニケーションの潮流を探るうえでいろんな示唆があるので、企業の宣伝担当の方などにとっては大いに参考になる賞だと思います。

──2年前に世界食糧計画(WFP)のプロジェクトとして、飢餓問題解決に向けたサイトづくりに携わりました。

 WFPのプロジェクトでは、飢餓で苦しむアフリカの子どもたちのメッセージと写真がケータイに送られてくる仕組みを考えました。ニュースを見てもいま一つ実感としてとらえられない問題に当事者意識を持ってもらおうという試みで、そうしたことでも個につながるデジタルが果たせる役割は大きいと思っています。既存のフォーマットにあてはめて表現を探すのではなく、毎回違った発明をし、新しい提案を続けていきたいと思います。

佐々木康晴(ささき・やすはる)

電通 コミュニケーション・デザイン・センター クリエーティブ・ディレクター

1971年生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了。電通入社後コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、今年9月より電通アメリカ出向、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。カンヌ金賞の他、D&ADイエローペンシル、One Show金賞、アドフェストグランプリなど国内外の受賞多数。手がけたキャンペーンに、ユニクロ「SUPER COOL BIZ」(ウェブサイト)、集英社「ワンピース 感謝広告」(朝日新聞に同一日に掲載された9本の全面新聞広告)、JT「歌え!ルーツ飲んでゴー!」(投稿型の歌うウェブサイト)など。