新聞記事コンテンツや紙面づくりのノウハウをいかした「教育事業プロジェクト」

 企業の人材育成の現場で「ことばの力」の養成が急務となっています。「新入社員が引き継ぎ文書も満足に書けない」「部下の顧客とのコミュニケーションが不安」という管理職の嘆きを耳にすることもしばしばです。若者の活字離れ、ネット頼りの情報収集が背景にあることは否めません。この現状を打破するため、朝日新聞社は新聞のコンテンツや紙面づくりのノウハウを活用した教育事業プロジェクトをスタートさせました。信頼される記事コンテンツを長年にわたって蓄積しているのは新聞社の圧倒的な強みです。また大量の情報を即座にわかりやすく編集するノウハウも、ニュース勝負の新聞社の得意技です。こうした新聞社のリソースを教育の場に取り込み、次世代の基礎的な力を育もうというのがプロジェクトのねらいです。

小学校高学年から高校生向けの総合学習教材「今解き教室」 大学向けのeラーニングソフト「e学び力」

小学校高学年から高校生向けの総合学習教材「今解き教室」 小学校高学年から高校生向けの総合学習教材
「今解き教室」

 プロジェクトは大きく分けて二つあります。一つは教材。2010年に創刊した月刊「今解き教室」は、新聞に掲載された記事はもちろん、報道写真や朝日新聞オリジナルの図表・イラストをふんだんに収めた小学校高学年から高校生向けの総合学習教材です。子どもたちの中には新聞を購読していない家庭もあり、新聞との付き合いが希薄なまま小学校高学年を迎える児童もいます。しかしながら新聞には、日々のできごとはもちろん、社会の抱える課題や多様な価値観が紹介されていて、社会を考えるヒントが詰まっています。そうした要素を、教材としてコンパクトに提供できるのが「今解き教室」なのです。
 単なる暗記もののドリルとは異なり「考える力」を鍛えることをめざし、主に塾や学校を対象に販売しています。「目指せ! ごみのない世界」「市民がひとを裁く時代」などテーマを設定し、解説やワークを提供します。勉強することによって知識が増えるにとどまらず、社会の一員としての自覚と地球規模の発想を醸成することができるのは、新聞社が制作する教材ならではの特長です。

 ほかに大学向けのeラーニングソフト「e学び力」もあります。新聞記事から素材を選び、「読む」「書く」「聞く」「話す」といった大学での学びに必要なスキルをチェックできます。新聞記事は時代の動きや世相を映し出していて、大学生の初年次教育や入学前教育に最適です。このほか日本能率協会マネジメントセンターと共同開発した社会人向けの通信教育「新聞塾」は、主に企業の若手社員研修などで利用されています。新聞社独自の「アンテナ力の磨き方」「ポイントを押さえて見出しをつけるこつ」などを学ぶことができます。

ベネッセコーポレーションとの共同事業「語彙(ごい)・読解力検定」

ベネッセコーポレーションとの共同事業「語彙(ごい)・読解力検定」 ベネッセコーポレーションとの共同事業
「語彙(ごい)・読解力検定」

 教材とならぶもう一つの柱は、検定事業です。2011年6月にスタートするベネッセコーポレーションとの共同事業「語彙・読解力検定」は、語彙の豊富さやことばの運用力をはかるための新しい「モノサシ」として開発しました。「ことばの力」は生きるために欠かせないのですが、どの程度自分がその力を身につけているのか気付きにくいという特性を持っています。そこで、より客観的な指標が必要になるのです。

 世の中に指標を提供するには、提供する側への信用がなくてはなりません。創刊以来130年以上の歴史と伝統を誇る朝日新聞は、幅広い層の読者からの信頼を獲得しています。また多数の大学の入学試験問題に「天声人語」や社説など朝日新聞の記事が引用され、教育の領域での実績も顕著です。こうした業績が、今回の検定開発につながりました。

 出題のもとになるのは主に新聞社の記事データベースです。時代の移り変わりをウオッチし、記録してきた新聞社のコンテンツはここでもまた力を発揮します。学習成果を評価するツールとして、あるいは読書や新聞購読といった生活習慣の定着度を試す目安として、第一回検定に早くも中学・高校、大学、企業などから多数の申し込みをいただいています。

 見出し一つ、記事数行にも最新の情報が凝縮されている新聞は、ことばや文章を磨くにはもってこいの教材です。社会人基礎力向上に、国語力アップに、新聞と教育の出合いはまだ始まったばかりです。

(社長室教育事業センター)