昨年、地上波、BS、CS、CATV、IPTVに関するメディアビジネス、コンテンツビジネスを総合的に推進するため、「テレビ局」「衛星メディア局」「エンタテインメント事業局」を統合し、「テレビ&エンタテインメント局」を新設した電通。同局計画推進部の川田明弘氏に、テレビのデジタル化によるビジネスの可能性や、生活者のメディア接触行動の変化について聞いた。
地デジ機能を他の販売チャネルにつなぐブリッジとして活用
――デジタル放送を利用したビジネスの可能性について、聞かせてください。
地デジ放送は、リモコンのボタン一つで視聴中の番組に関連した情報をマルチウインドーで表示でき、ネット機能を融合させた「スマートテレビ」であれば、視聴者とテレビ局が双方向に情報をやり取りすることができます。そこでよく言われるのが通販ビジネスの広がりで、従来電話やFAXで注文していたテレビショッピングの品物をテレビで購入することも可能です。商品のクチコミ情報をデータ放送上に流して購買意欲を刺激する手法なども見られます。ただ、2003年から始まっている地デジ化の動きを見てみると、双方向サービスを活用したテレビショッピングは必ずしも拡大していないのが現状です。デジタルテレビを購入してもネットにつないでいないユーザーがまだ多く、つないでいる人でも個人情報の入力をためらうなどの理由で、なかなか購買に至らない状況があるのです。
――そうした状況は今後も変わらないのでしょうか。
「スマートテレビ」がどれくらい生活者に受け入れられるかによると思います。また、ハードウエアの進化にもよるでしょう。ネットワークにつながるという意味では、今はテレビよりも断然パソコンやモバイル端末の方が便利です。それもあって、データ放送上にQRコードを載せるなど、他の販売チャネルにつなぐブリッジとして活用する動きも生まれています。現段階では、地デジ機能を購買手段とするよりも効果的な手法に思えます。
――データ放送は、郵便番号によって地域別データを配信することができます。その特性を生かしたビジネスの可能性は。
例えば、放送画面でマス向けのメッセージを送りつつ、「この商品はあなたの家の近くのどこでいくらで買える」といった限定情報をデータ放送に入れ込み、訴求することが可能です。「AISAS」のモデルでいえば、これまでマスの役割は「Attention」「Interest」までだったのが、「Search」までまかなえるわけです。今の消費者は、さまざまなメディアを通じて情報を摂取・吟味したうえで購買する傾向が強いので、マスと同じ画面で詳細情報を流せるというのは新たな特徴で、何かしらの試みにつながっていくかもしれません。一方で、テレビは基本的に受動的なメディアなので、その役割を担う必要があるのかという議論もあると思います。
――テレビのデジタル化は、人々の暮らしにどう影響していると思いますか。
デジタル化がもたらした変化の一つが、大画面化です。大画面テレビの普及により言われているのが「お茶の間の復権」で、大画面テレビのある家庭は、家族一緒にテレビを視聴する時間が長いという民放連のデータもあります。高視聴率を獲得している番組も家族向けの内容が多く、大画面化と無関係でない気がします。そうしたことをふまえて広告の提供先や訴求内容を組み立てている企業も見られます。
ソーシャルメディアがテレビ視聴を誘引
――デバイスの多様化や人々の暮らしの多様化により、テレビと他メディアとの同時接触も増えていると思いますが、それについてはどのような意見を持っていますか。
確かにテレビを見ながら他メディアに接触している人は増えていると思います。それは必ずしもテレビメディアにとってマイナスではなく、例えばソーシャルメディアとの同時接触は、テレビ視聴への誘引が期待できます。ツイッター上でテレビ番組の感想がリアルタイムでアップされ、多くの人が共通の話題で盛り上がっているのを読んで、テレビを見ていなかった人がチャンネルを合わせるなど、よくあることです。ソーシャルにのぼるネタの3分の1はテレビ情報がリソースだという話もあり、ソーシャルで何らかのプロモーションを仕掛けてリアル視聴に誘引する戦略も考えられます。ソーシャルのネタ元という意味では新聞もそうですよね。
――デジタル化をふまえた広告主への提案として、具体的な例があれば聞かせてください。
広告主に好評だったのは、ネットを利用した視聴者投票をもとにドラマの結末を選び、投票の多かった結末をテレビで、別の結末をネットで流すという提案です。制作労力やコストの面で解決すべき課題もありますが、視聴者との新しい接点を創出する取り組みとして模索しています。
また昨年、日本テレビの土屋敏男プロデューサーとお笑いタレントの有吉弘行さんがソーシャルメディアを通じて支援者を募り、無銭で日本を縦断する企画「電波少年2010 人はツブヤキだけで生きていけるか?」が実施されました。これは放送局のコンテンツをソーシャルメディアに展開した一例です。
――改めて、テレビのデジタル化時代に向けた貴社の考えを聞かせてください。
電通としては、地上波放送のリアルタイム視聴の拡大を最優先課題としています。データ放送や双方向機能の活用、ソーシャルなどウェブとの連携などは、テレビと接触する「面積」の拡大につながるのではないかと期待しています。
今、M1・F1層(20 ~34歳の男女)への訴求が大変難しくなっています。パソコンやスマートフォンに接触している時間が長く、情報の取り方が多種多様で、購買動機が見えにくい層です。ただ、一回情報が入ればソーシャルメディアを通じて同世代間でクチコミが広がっていく可能性も秘めています。
放送各局でコンテンツのオンデマンド配信が始まり、既存番組をパソコンで有料視聴するM1・F1層が増えていますが、これをデジタルテレビでのストリーミングによるVOD配信で楽しむようになれば、テレビ番組やテレビCMに触れる時間が増え、それがソーシャルメディア上で話題になり、さらにそれがリアルタイム視聴を促すことにつながるかもしれません。放送途中の連続ドラマが評判となり、「ノーチェックだったけれど初回から途中までテレビでオンデマンド視聴し、あとはリアルタイム視聴に移行する」といった可能性もあります。もちろんオンデマンド視聴がリアルタイム視聴を凌駕(りょうが)するような事態になっては本末転倒で、そうならない工夫も議論しなければなりませんが、新規視聴者の獲得を目指すうえで無視できない施策だと思っています。
――今後の取り組みについて聞かせてください。
7月のアナログ放送終了後と時を同じくしてBSアナログ放送も終了し、BSデジタル放送が10月から始まって新たにハイビジョン11チャンネルが加わります。さらに来春には携帯端末向けマルチメディア放送が開始予定で、BSデジタル放送もさらに7チャンネルが追加され、合計29チャンネルとなります。その中には地上波と趣の異なるコンテンツもあり、人々のテレビの視聴時間が延びるのではないかと期待されています。当社としては、こうしたチャンネルと地上波放送とのシナジー効果があるのかなどを分析し、効果的な広告戦略を提案していきたいと考えています。