夕刊の持つ特性や魅力とは? そして、夕刊のこれからの課題は? ジャーナリストであり、明治大学国際日本学部長としてメディアについて教鞭(きょうべん)をとる蟹瀬誠一氏に話を聞いた。
――蟹瀬さんにとって、夕刊はどのような存在ですか。
新聞はできるだけ早く読みたいので、時間が許せば夕刊も配達されてすぐに読みます。前日のニュースの「まとめ」である朝刊に比べ、夕刊は、その日に起きたニュースが載っているという点で、新鮮さを感じます。仕事などで忙しくてすぐに読めないときは、帰宅してからゆっくり読むし、気になるコラムがあれば後から読んだり、コピーして保管したりすることもあります。
僕自身は、夕刊には夕刊ならではの存在価値があると思っていますが、この取材を受けるにあたり、世間はどう考えているんだろう、と気になりました。そこで、取材の数時間前、ツイッターで「夕刊についてという質問だが、答えが難しい。困った」とつぶやいてみたんです。すると、フォロワーから実にたくさんの反応がありました。「夕刊好きです」「必要ない」と賛否両論でした。ツイッターというツールで集まった限られた意見なので、それが日本全国の平均値ではありませんが、多くの人が夕刊に対して高い関心を持っているということがわかり、驚きました。
――蟹瀬さんが考える、夕刊の特性や魅力とは。
朝刊と比べるならば、その日に起きたばかりのニュースが載っている「同日性」が、夕刊の大きな特徴だと思います。しかし、やはりスピードではテレビやラジオ、ましてやインターネットにはかないません。そんな中、私が注目している夕刊のコンテンツが、コラム。文化やライフスタイル、「人となり」を取り上げるような読み物です。朝日新聞の夕刊であれば、フロント面の「人脈記」などの人モノ、アート、舞台、ファッションのコラムをよく読みます。これまでは経済的な豊かさばかりが追求されてきましたが、今後はますます心の豊かさが重要な社会になっていくでしょう。そうなるきっかけを与えてくれるものの一つが、新聞のコラムだと思うんです。
夕刊は朝刊に比べてのんびりした気持ちでページをめくるので、コラムを読むのに適していると思います。実際、朝日新聞を見ていても、夕刊には以前よりも読みごたえのあるコラムが増えている印象がありますね。
――広告媒体としてはどのようにご覧になりますか。
僕は専門家ではないのであくまでも私見ですが、テレビCMは15秒や30秒で流れていってしまい、インターネットはどんどん更新されていく。それに対して新聞は、少なくとも捨ててしまうまでは多くの人の目に触れる可能性がある。持続性という点が特長だと思います。
今、お金を持っていて消費を引っ張っているのは、団塊の世代です。僕もその最後の年代なのですが、この世代は新聞を読みます。団塊世代の需要や志向に寄り添うような広告は、効果が見込めるのかもしれませんね。とはいえ、20年、30年後を考えると、それでは危うい。若い人にどうアピールしていくかは、新聞社、広告主にとって課題になっていくのではないかと思います。
速報性の高いニュース記事とは一線を画すコラムこそがキラーコンテンツに
――夕刊について課題だと思うことや、期待することは?
かつて新聞の専売特許だった特性、たとえば記録性、一覧性、ポータビリティーといった強みが、今はインターネットでも可能になっています。電子書籍が本格的に普及する環境が整い、紙媒体のあり方も議論されています。紙の新聞がなくなることはないと思いますが、新聞ならではの力がますます問われるようになるのではないでしょうか。その答えのひとつは「編集力」だと思います。あらゆるニュースが並列で、重要な情報もゴミのような情報も混在しているインターネットと違い、新聞はその媒体が持っているポリシー、考え方によって、ニュースの優劣や重要度を読者に提示できます。それが媒体のブランド力となり、信頼度を与えている。新聞は信頼性のメディアと言われますが、その部分においては今もすたれていないし、インターネットとの差別化をはかっていくためにも、今後もさらに力を入れていくべきだと考えます。
そして、「コンテンツ力」も問われてくるでしょう。そんなとき、速報性の高いニュース記事とはひと味もふた味も違う、なにかをじっくりと考えるきっかけになる読み物を充実させてほしい。夕刊がますますそうしたコラムを提供してくれることを期待していますし、朝日新聞は本来、その先頭を走るべき媒体だと思っています。
ジャーナリスト/キャスター 明治大学国際日本学部長
1950年石川県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。米国AP通信社記者、フランスAFP通信社を経て、1988年 「TIME」誌東京特派員。その後、フリージャーナリストとして独立。主にTBSやテレビ朝日でのキャスターを歴任。2004年 明治大学文学部教授に就任。 2008年 明治大学国際日本学部長に就任。