電通総研が、「消費者が選ぶ話題注目商品ランキング」を発表。約130の候補商品やサービスに関してアンケートから求めた「認知度」「関心度」「話題度」に、今年はブログ実態調査「電通バズリサーチ」から求めた「くちコミ活性度」を合計。これによりランキングの様相が変わり、「くちコミ活性度」を足す前の1位は「食べるラー油」、足した後の1位は「スマートフォン」となった。2010年のヒット商品の傾向や今後の消費潮流について、電通総研インサイト・センター ヒューマン・インサイト部長の四元正弘氏に聞いた。
くちコミを誘発した「創意工夫の余地」と「参加性」
──調査に「くちコミ活性度」を追加した理由は。
「認知度」「関心度」「話題度」の調査は、候補商品にチェックをしてもらうアンケートスタイルなので、「そういえば……」と、強制的に想起してもらうケースが少なくありません。これに対して「くちコミ活性度」は、能動的に書いたブログが基準となるので、より自主性の高いリアルな消費者の反応をとらえることができます。
──2010年のランキングの特徴は。
「くちコミ活性度」のランキングに注目すると、面白い結果が出ています。「スマートフォン」「ツイッター」「ファストファッション」「つけ麺」「トマト料理」など、ほかの基準では上位にのぼらない商品が並んでいるのです。そして、これらの共通性は、「創意工夫の余地」と「参加性」だと考えます。たとえば「ファストファッション」の人気は、一つのブランドで身を包むより、アイテムごとに最新の流行を取り入れたり、低コストに抑えたり、おしゃれの創意工夫を楽しみたい人が増えている現象です。「つけ麺」や「トマト料理」は、「実際に話題のお店に行って食べてみた」「実際にトマト鍋を作ってみた」といったブログの書き込み件数が「食べるラー油」を上回りました。参加や創意工夫がくちコミの発生源となっているのです。企業の目標はもちろん完璧(かんぺき)で完成した商品でしょうが、今後に向けた商品開発やマーケティング戦略において、「創意工夫の余地」「参加性」について検証してみる価値は大いにあると思います。
──2011年への消費潮流をどのように分析されますか。
2010年は、リーマンショック以降低下していた消費意欲の復調傾向が見られましたが、生活者の節約意識は依然として強く、支出総額を抑制しながらも、自分にとって重要なものとそうでないものとのメリハリを明白につける傾向が強まってきたように思われます。これをふまえ、電通総研では2011年への消費キーワードを「利己的スマート」としました。以下は、「利己的スマート」な消費者に対して有効な5つのアプローチです。
1. チョイス&カスタマイズ……商品を構成する多種多様な要素から好きなものをチョイスして、自分なりの楽しみ方をカスタマイズできる創発性(スマートフォン/ツイッター/AKB48/タブレット型情報端末/ファストファッション)
2. 安っぽくない節約……価格は安いが、「安かろう悪かろう」的イメージに落ちない、クオリティーとコストパフォーマンスのバランス性(ファストファッション/円高還元/ハイボール/格安航空チケット/高速道路ETC割引/一部無料化消費/コンビニロールケーキ)
3. エコロジー&エコノミー……環境負荷を低く抑え、地球にやさしい。それでいてお財布にもやさしい。大義名分と実益の両立性(エコポイント/エコ減税関連商品/LED電球/ハイブリッドカー)
4. 悩み不要の本命感……ほかの選択肢がかすむほど圧倒的なわかりやすさや競争優位性を有し、「今買うならコレしかない」と直感的にナットクさせる単純明快性(地デジ対応大型画面薄型テレビ/羽田空港国際化/池上彰/ハイブリッドカー/3D映画・テレビ・カメラなど)
5. 意外性を楽しむ組み合わせの妙……たとえば「水と油」のように、既存の常識を覆して「そうきたか!」と驚かせる組み合わせが生み出す意外性(食べるラー油/坂本龍馬/東京スカイツリー/ご当地B級グルメ/渡部陽一/『ゲゲゲの女房』)
ヒットして終わりではなく、「ファン」の獲得が重要
──今、企業に求められていることとは。
日本企業はこれまで、ニーズの最大公約数をねらった商品の作り方をしていました。しかし、「利己的スマート」な消費者が増え、ニーズはどんどん見えにくくなっています。ならばいっそ割り切って最大公約数にとらわれず、生産者の利己的なこだわりを反映して商品開発やマーケティング戦略に取り組むのも一案だと思います。今年、ある自動車メーカーがマニア性の高い新車を開発し、コミュニケーションにおいてもSNSのつながりを利用した個性的なPRをして話題を呼びました。企業側の人間も面白がれる商品やコミュニケーションを模索し、一部の消費者の心を確実につかんだ成功例と言えるでしょう。
──ヒット商品を生み出すために必要なこととは。
私は、一つの商品の一定期間の売り上げを見てヒットしたか否かを判断すること自体、ナンセンスな時代にきている気がします。それは大量生産大量消費の時代の価値観で、今は、一人の消費者とどれだけ長い関係を続け、どれだけ売り上げられるかが重要になっていると思うのです。わかりやすい例が携帯電話で、通話料は月平均でいえばせいぜい6,000円~8,000円程度ですが、もし20歳から70歳までずっと同じ通話会社、同じメーカーの携帯電話を使ってくれたとしたら、総額は膨大で、それこそ大ヒットです。つまり、一商品がヒットして終わりではなく、商品やブランドの「ファン」を獲得し、一人の顧客から長く売り上げる。そんな企業が強さを見せる時代になっていくのではないでしょうか。
──新しい消費潮流に、新聞をはじめマスメディアはどのように対応していけばいいのでしょう。
以前、テレビ番組で「納豆が体にいい」という特集をしたら、翌日スーパーの棚から納豆が消えるほど売れたことがありました。そうした「社会的な文脈」を創出する力は、特にマスメディアは強く、これをふまえた商業的なコミュニケーションの可能性があると思います。あまり恣意(しい)的になると報道の中立性との兼ね合いも出てきますが、社会貢献に寄与している企業については、その意向を聞きながら活動に優位になる内容を報道し、広告出稿に結びつけるということがあっていいと思います。現在、エコ関係の商品が売れているのも、新聞やテレビの報道で社会的文脈を作った部分が大きいわけです。ネットをはじめ情報があふれる中、リーチや情報量はアドバンテージになりにくくなっており、時代の空気を醸成して広告にフィードバックする仕組みづくりがますます重要になってきている気がします。