COP10開催の地、名古屋で生物多様性を伝えるフォーラムを開催

 朝日新聞社は9、10月の2カ月間、「環境プロジェクト」として環境に関する報道特集やイベントを重点的に展開。その一環で、「国連地球いきもの会議(生物多様性条約第10回締約国会議・COP10)」に先駆けた9月15日、名古屋で「国際生物多様性フォーラム~いきものの恵みを考える」を開催した。フォーラムの概要や成果、そこから見えてきたものなどを、企画・進行担当の神田明美記者に聞いた。

生物多様性は足元だけでなく山や海、遠くの熱帯雨林まで地球全体の問題

――今回、名古屋で「国際生物多様性フォーラム」を開催することになった経緯を聞かせてください。

神田明美氏 神田明美氏

 2年前から東京で開き今年3回目を迎えた「朝日地球環境フォーラム」に併せて、COP10という世界的イベントが行われる今年は、その開催地、名古屋でも何かを、ということになりました。そして、9月13、14日の東京に続く15日に、生物多様性に特化した「国際生物多様性フォーラム」を名古屋国際会議場で開きました。東京・名古屋の連携も視野に入れ、東京のフォーラムの分科会にパネリストとしてお呼びした米国の環境NGO「コンサベーション・インターナショナル」会長のラッセル・ミッターマイヤー氏に、名古屋のフォーラムでは基調講演をお願いしました。

――朝日新聞の環境に対する取り組みの中で、このフォーラムはどんな位置づけですか。

 メーンイベントの「朝日地球環境フォーラム」から派生した姉妹的イベントと言えます。朝日のフォーラムは新聞社から情報を伝える報道とも連動し、さまざまな立場の方からメッセージを発信してもらう場をつくるものです。今回は、COP10を前に生物多様性への興味が高まる地元名古屋で、国内外からのメッセージを伝える場を主催し、さらに紙面を通してそれを全国に伝えました。

――フォーラムの概要、出演者について教えてください。

 冒頭にアフメッド・ジョグラフ生物多様性条約事務局長からのビデオメッセージを流し、ラッセル・ミッターマイヤー氏の基調講演を行いました。続いて、特別協賛企業であるソニーの高松和子氏が自社の環境活動について報告。後半は、「兵庫県立人と自然の博物館」館長の岩槻邦男氏、NPO「アクアプラネット」理事長の田中律子氏、「速水林業」代表の速水亨氏がそれぞれの活動などを語った後、ミッターマイヤー氏を交えた4人でパネル討論を展開しました。

 生物多様性は足元の問題であると同時に地球全体の問題でもあることから、基調講演はグローバルな内容にしたいと考えました。その点、企業とうまくパートナーシップを結びながら活動を展開し、世界に絶大な影響力を持つNGO「コンサベーション・インターナショナル」の会長、ラッセル・ミッターマイヤー氏は適役でした。氏は世界的な霊長類学者で、40年以上熱帯雨林での活動を続けており、現場の状況も熟知しています。現場の写真を交えた200枚あまりのパワーポイントや映像も駆使し、わかりやすい講演になりました。

 3人のパネリストは、ビジネスに関することから身近なこと、一人ひとりに何ができるかということまで、幅広い内容を網羅できる人選を考えました。

 岩槻邦男氏は、植物の多様性についての研究を通じ、80年代から生物多様性の重要性を訴えてきました。日本の生物多様性研究の第一人者です。日本政府が世界に発信する「SATOYAMA(里山)イニシアチブ」にも中心的にかかわり、その話も聞くことができました。

 俳優の田中律子氏は、ダイビングを通じて海水温の上昇によるサンゴの白化現象を目の当たりにし、06年にNPO法人を設立。沖縄の海でサンゴを再生する活動を続けています。

 速水亨氏は三重県紀北町で200年以上続く林業会社の代表。スギやヒノキだけでなく広葉樹や下草を生やし、間伐を欠かさないで日の光が差す林を作ることで、生物多様性の保全に配慮しています。2000年には世界的な環境管理林業のお墨付き、FSC認証を日本で初めて取得しました。

 一般の来場者は大学、ビジネス界、行政関係者など、全体では約600人の方に来場いただきました。

――内容で特に印象に残ったことは。

 意図したことでもあるのですが、各パネリストの話が絡み合うことで、一見関係ないと思える問題がつながっていることが浮き彫りになりました。たとえば海と山林の問題。山林が健全に保たれていないと、海に赤土が流れ込み、サンゴが死滅する原因になります。日本の森と途上国の森も関係あります。日本の人工森は木を切ることで健全な森として維持されますが、熱帯雨林ではその逆で、木を切ることで森林破壊につながるケースが多いそうです。ところが、日本の林業が衰退し、日本で消費される木材や紙を賄うために途上国の熱帯雨林の木が切られている現状があります。

 また、ミッターマイヤー氏の「霊長類は象徴的な種。それが住める森がないのは生物多様性が豊かでないことを示し、それは人間にも跳ね返ってくる」という話や、田中氏の「人にも恵みをもたらすサンゴが白化している」という話などからは、生き物の置かれている危機的状況が人間にとっても危機であるということがよく伝わったのではないでしょうか。

※画像は拡大します。

国際生物多様性フォーラム2010年10月3日付 朝刊

国際生物多様性フォーラム 2010年10月3日付 朝刊

国際生物多様性フォーラム 2010年10月3日付 朝刊

環境への向き合い方が問われる今、企業の参加は姿勢や責任感の表明に

――今回はソニーに協賛いただきました。新聞社と企業がこうした取り組みをともに行う意義はどんなものでしょうか。

 企業が報道側とともにメッセージを発信する立場に立つこと、その姿勢を公にすることで、社会的な責任感が生まれるはずです。「朝日地球環境フォーラム」は企業を巻き込む形で成功しており、企業の関心がなければこれだけの規模は実現していないのも事実です。

 最近は多くの企業が環境に関心を持っています。環境に関する広告企画も増えているようです。報道は企業の広告とは一線を画した立場をとっていますが、環境や社会にプラスに働く活動を報道することは大切で、そこへの目配りも必要だと考えます。

――企業は環境問題および生物多様性の問題にどう向き合うべきだと考えますか。

 これまで経済活動と環境は相反するものという言い方をされることがありましたが、今、企業の環境への向き合い方が問われています。たとえばパネリストの速水氏の会社では、企業活動の中で生物多様性への貢献を実践しています。環境は天然の資源であり、やり方次第で経済にもプラスにできるはず。環境を守ることが経済活動の負担になるのであれば、負担にならない方法、技術を見つけ出してほしいと思います。

 企業活動の影響力は非常に大きく、環境に与えるインパクトも明確です。大切な役割を担う企業は今後、NGO、政府、国連など、多様な機関ともっと協力していくようになるだろう、そうなるべきだと考えます。異なる立場からともに盛り上げることで、大きなメリットが生まれるのは間違いありません。

――COP10を終えて思うことは。 また今後、名古屋からどんな報道を行っていこうと思いますか。

 ビッグイベントが終了しましたが、これで終わりではありません。COP10で決めたのはこれからの目標やルールであり、今後も動向を追い続ける必要があります。またこれを機とし、生物多様性をさらに伝えていくべきだと考えています。日本のNGOの発案をもとに日本政府が国連に提案した「国連生物多様性の10年」について、COP10では支持する決議が採択されました。それに当たる2011年からの10年は特に重要な期間。行方をしっかりと見つめ、伝えていきます。

神田明美(かんだ・あけみ)

朝日新聞名古屋本社 報道センター社会グループ記者

東京社会グループなどを経て、2009年4月より名古屋報道センター。08年の年間連載企画「環境元年」の取材班に参加し、地球温暖化のほか都市交通や食料、持続可能な資源の利用とからめて環境問題を資材。今年10月に名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(国連地球生きもの会議=COP10)の取材を担当した。共著に『地球よ、環境元年宣言』など。