クチコミをする相手によって、他の人からの反応や非難などに対する「発言リスク」はどのように変わるのだろうか。また、クチコミへの意識と行動の間には、どのような関係があるのだろうか。早稲田大学商学部助手の石田大典氏に聞いた。
今回のウェブ調査では、消費者がどのようなプロセスを経てクチコミをしているかについても見ています。ここでは、「相手別に見た情報探索とクチコミ作成内容」について紹介します。
前述のように、ブロガーは他人から非難されるのではないかという「発言リスク」を感じていて、事実検証など何らかの対処をしていること、また一方で、発言するからには自分の意見をある程度世に知らしめたいという「自己表現」の意図も持っていることが分かりました。これらのクチコミへの意識を、ウェブ調査を通じて検証しました。
まず、クチコミする相手を①家族や友人②知人③顔見知り④不特定多数、に分け、被験者にはどの相手にクチコミしたときに自分の発言に対して非難されるリスクが高まると感じるかを聞きました。④はまさにブログのイメージです。すると、④の不特定多数に対する「発言リスク」を最も強く感じていることが、統計的に有意という結果が出ました。
同様に、どの相手に対してクチコミをするときに自己表現の意識が強くなるかを聞いたところ、やはり④の不特定多数におけるスコアが最も高く、統計的にも有意でした。
これらから、ブロガーへのグループインタビューでも分かったように、クチコミは自己表現の場である一方、怖いと感じるものでもあると消費者が感じていることが、ウェブ調査によって支持されました。
この「発言リスク」と「自己表現」という2つのクチコミに対する意識から、誰に対してクチコミするかがある程度決まった後に、消費者はどのような行動をとるのか、クチコミに対する意識によってその後の情報展開活動が変わるのか、さらに、どのような情報展開をしたかによって最終的なクチコミの内容、文字数が変わってくるかを見てみました。情報展開活動は、「内的情報探索」「情報への関心」「情報源の数」「情報探索時間」という4つの要素で検証しています。
まず、「発言リスク」を感じることで、マスメディアに触れる、人に聞くといった「情報源の数」は増えないが、情報探索時間は増加することが分かりました。つまり、何か批判されるのが怖いと感じた時に、あれこれといろいろな情報を探すというよりも、過去にある程度触れた情報など、一つひとつの情報に対してより長い時間をかけて接して、その意味を解釈していく、と分析します。さらに、「発言リスク」よりも「自己表現」のほうが、情報展開の各要素を促進させていました。つまり、「発言リスク」を回避するための検証としての情報展開よりも、自己表現をしたいというポジティブな動機からの情報展開のほうが、強い行動要因となる、ということが明らかになりました。
次に、情報展開活動とクチコミする内容との関係では、内的情報探索が行われ、情報への関心が高まると、クチコミ内容はより事実中心になる傾向が出ました。一方、内的情報探索が行われ、情報源の数が増えると、クチコミ内容はより意見中心になる傾向があることが分かりました。これは、メディアや他の人のブログなどでいろいろな情報に触れた結果、自分の意見が明確になり、ブログやクチコミの内容に反映されるのでは、と見ています。
文字数については、すべての情報展開活動から影響を受けており、情報展開活動を活発に行うことで文字数に何らかの影響が出ると言えます。ただ、内的情報探索や情報への関心、情報源の数が活発になるほど文字数は増えましたが、情報探索時間に注目すると、時間が増えるほど文字数は減る傾向がありました。現段階ではまだ仮説の域を出ませんが、情報に対して長い時間をかけて探索することで、「この情報はすでに誰かが知っている情報」と感じ、クチコミしなくなるのではないか、と考えています。
ウェブ調査の分析結果をまとめると、
①不特定多数へクチコミを行う場合、自分の発言に対して非難されるリスクが高まる一方、自己表現できると知覚されていた
②クチコミにおける発言リスクや自己表現欲求は情報展開活動を活発化させていた
③情報展開活動はクチコミの内容や長さに対して影響を及ぼしていた
となります。
今回のブロガーへのグループインタビューやウェブ調査は、新聞だけを対象としたものでした。ほかのメディアで集中的に広告を増やしたとき、それがクチコミのテーマとして多くの人がブログに書いたり話題にしたりといった現象があるかどうかは、今後さまざまな実験をして検証していく必要があると思います。