マーケティング・コミュニケーションにおいて、「検索行動(search)」の重要性はますます高まっている。そうしたなか、メディア接触と検索行動の関係性を探る動きも見られる。電通では、ウェブサイトの検索履歴や接触履歴と、マスメディアの接触を分析できるツール「DENTSU-CONNECT MEDIA®」を独自に開発・運用。このほど、マスメディアの中でも特に新聞に注目し、新聞メディアのオーディエンス特性から見た「マスメディア接触と検索行動への影響」について分析をまとめた。電通ビジネス統括局プラットフォーム・ビジネス開発室マーケティング・スーパーバイザーの春田英明氏に、新聞閲読有無による検索行動の違い、広告露出と検索行動の関係などを聞く。
メディア接触のスタイルが多様化し、あふれる情報の中で、消費者は「自分に関係のあるものは受け取るが関係ないものは受け流す」など、情報の取捨選択が進んでいます。従って、いかに消費者に「自分ごと化」してもらい、振り向いてもらうかが、マーケティングを行う上でとても重要です。
では、どうすれば振り向いてもらえるのか。消費者の属性だけでなく、メディアオーディエンスの視点で見ると、メディアごとに消費者に刺さる「ボタン」も違うでしょう。このメディアごとのボタンを理解した上で、消費者にメディアやコンタクトポイントを渡り歩いてもらえるような導線の設計をすることが大事です。その導線とは、テレビ、新聞、雑誌といったオフラインメディア、検索ポータルサイトやSNSサイトといったオンラインメディア、企業のブランドサイトやキャンペーンサイトをつなぐものです。今回は、マスメディアにおける「ボタン」、つまり、「消費者を動かす」ためのマスメディアの新しい切り口となりうるインサイトにつなげるような分析をしました。
具体的には、新聞をオフラインメディアの代表と見立て、全国紙(朝日、読売、日経)を読んでいる人(n=2,767)と、新聞を全く読んでいない人(n=686)を対象に、①検索ボリューム②検索している言葉③検索行動の特徴、にどんな違いがあるのかを調べました。
まず、検索ボリュームに見る特性は、全検索ワードを、検索人数の多い順にランキングしたところ、新聞閲読者は上位ワードを検索する割合が高かった。対して非閲読者は検索ワードのバリエーションが多い、という結果が出ました。つまり、新聞閲読者は「ヘッド型」、非閲読者は「ロングテール型」の特性があると言えます。新聞には元来、世論形成力やアジェンダセッティング(議題設定)の力があるので、「これは世の中のベンチマーク」「ここにキャッチアップしてください」といったメッセージを投げかけることで、新聞閲読者の反応がよくなるのだろう、と類推できます。
では、個別にはどのようなワードが検索されているのか。全国紙の閲読者は時事性が高い旬の話題に対して、敏感に反応しました。直近のデータでは、上海万博、事業仕分け、噴火で飛行機などに影響が出たアイスランド、東京スカイツリー、人気ドラマ「ゲゲゲの女房」といったワードが多く検索されていました。
また、2009年夏の衆院選の結果、政権交代で民主党が与党になったタイミングで選挙に関するワードを調べたところ、全国紙の閲読者の反応が非常によかったという結果もあります。選挙は旬のワードですが、社会性のあるテーマとも言えます。他方でマスメディアへの関与を見るため、在京放送局名、全国紙の新聞社名で検索した割合を比較してみると、こちらも全国紙閲読者の方が高いスコアが出ました。検索ボリュームの調査結果と同様に、新聞閲読者は、社会性のあるテーマや多くの人が盛り上がるようなテーマに対して、積極的に関与しようとしているのだと思います。
一方、非閲読者で高いスコアを示したのは、動画共有やSNSサイトといった、つながり系ネットサービスのサービス名でした。
以上から、新聞閲読者は、①選挙関連などの「社会性ワード」、②東京スカイツリーなど「話題性ワード」、③上海万博など「時事性ワード」を検索する傾向が強く、いわゆる「興味の社会性」という特徴が見られました。新聞閲読者は、伝統的な関与対象を持ちつつも、話題性や時事性など旬の話題にも敏感に反応する、という考察に至りました。
最後に、広告出稿と検索行動との関係性について、広告掲載前日からさかのぼって7日間と掲載日を含めた3日間の計10日間、いずれも一日当たりの平均検索数を比較し、掲載前後で検索数がどう変化したか、どんな種類のメッセージの影響が大きかったのかを調べました。
結果は、次の3つに分類される広告やメッセージによい反応がありました。1つ目は社会的関心事に関する「ソーシャルイシュー系」、2つ目はインパクトや意外性があり、話題になりやすい「事件性・時事性インパクト系」、3つ目は、誰もが知っているブランドや概念に新しい要素が加わり、本来知っておくべき要素であると知覚させる「プラスワンニュース系」です。先に挙げた検索ワードや検索キーワードの傾向で明らかになった新聞閲読者の特徴が、広告効果においても同様に影響していることが分かりました。この特徴を知ることは広告表現を考える上での参考のみならず、キャンペーンを設計していく上での新聞メディアの役割規定にも示唆を与えるものと考えられます。
今回は新聞閲読の有無での分析ですが、他のメディアについても検索行動に関する特性があると思われます。また、広告掲載の前後で検索数が増えるという結果から、マスメディア広告には人を動かすパワーが十分にあると言えますが、ただ出稿するのではなく、オーディエンスインサイトなどメディア別の特性を見極め、消費者に刺さる「ボタン」を押していく工夫が必要でしょう。今回は事例が78例と少なかったのですが、さらに事例を蓄積し、精緻(せいち)化していくことが必要です。検索行動だけでなく、オンラインから見るオフラインメディアの特性など、より総合的なオーディエンスインサイトも必要だと感じており、引き続き検証していく考えです。
◇連載記事はこちら
新聞の検索行動への影響を探る (特別寄稿:電通 ビジネス統括局 プラットフォーム・ビジネス開発室)
(1)イントロダクション:新聞閲読者の検索行動の量的、質的アプローチ ~非閲読者との比較からメディアインサイトを探る~
(2)新聞閲読者の検索行動の特徴とは ~非閲読者との比較からメディアインサイトを探る~