「Fit’sダンスコンテスト」キャンペーン

歌とダンスで“ガムノンユーザー”の興味を喚起

ロッテ 山本剛史氏 ロッテ 山本剛史氏

 「Fit’s(フィッツ)」のコミュニケーション戦略では、ガムの離反層の興味喚起という使命がありました。ただ、ターゲットとする若年層を中心に「ガム離れ」の理由を調査したところ、「なんとなく」「かむのが面倒くさい」「口が疲れる」といった、今時の若者らしいあいまいな返答ばかりでした。そこで、“ガムノンユーザー”の心に響くメッセージを追求し、ガム市場全体の底上げを目指しました。

 フィッツには、「引き抜いてすぐに口に入れられる利便性」「ソフトな食感」などの商品特性があります。それをそのまま伝えても、もともと興味のない人たちの心には響かないと考え、行き着いたのが、「なんとなく仲間とゆるくつながっていたい」という若者の心理でした。そして、大きな決断をしました。商品特性を一切語らず、若者の琴線に触れる表現に徹したのです。それが歌とダンスでした。ガムではなく、歌とダンスをはやらせてしまおうという戦略です。

 CMキャラクターには、若者に人気の佐藤健さん、佐々木希さんを起用。「ゆるい」歌とダンスでフィッツの特徴である「やわらかさ」を訴求し、仲間とガムをシェアする喜び、興味のなかった人たちも巻き込んでいく楽しさ、そんなイメージを伝えました。

 そもそもガムというのは安価な商材で、購買の意思決定に費やす時間や情報はほとんどいらず、衝動的に買われるものです。それもあって、大量に生産し、幅広い販路に並べ、マスメディアの広告を大きく打って大きな網でゴソッと魚を取るようにユーザーを獲得するというやり方を得意としてきました。しかし、フィッツはそれまですくいきれなかったノンガムユーザーをどう取り込むかが使命だったので、苦手としていたネットプロモーションに取り組み、クチコミが波及的に広がる仕掛けを作り出しました。

再生回数を競う「ダンスコンテスト」を実施。注目が注目を呼ぶ

You Tubeを活用した「Fit’sダンスコンテスト」のキャンペーンフレーム You Tubeを活用した「Fit’sダンスコンテスト」のキャンペーンフレーム

 キャンペーンのフレームは、「CMのフィッツダンス」をオリジナルアレンジした作品を作って「You Tube」に投稿。再生回数ランキングで1位になった人に賞金が当たるというものです。実施にあたり、「応募しやすい環境づくり=おもてなし」を手厚くしました。コンテストサイトではCMの楽曲ダウンロードができるほか、ダンスレクチャームービー、振り付け説明図、ダンスのサンプル動画などを掲示。「踊る阿呆(あほう)に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」という感じで、どんどんまねしてノってもらうための仕掛けをしました。本当のねらいは、ダンスを練習するためにCMに何度も接触する、すりこみ効果でした。

 結果として、全動画の総再生回数は2,100万回以上で、企業のスポンサーチャンネルとして全世界1位を記録。応募総数は2,466本、うち権利関係をクリアした1,732本の動画を公開。ダンスコンテストの名を借りて、1,700本以上の別バージョンのCMを制作し、「You Tube」で公開したのに等しい効果があったと考えています。また、再生回数のみを競うキャンペーンだったため、従来の「抽選という運まかせ」でなく、自分周辺に自発的に自己ムービーを宣伝、つまり一挙にロッテの宣伝マンが1,700人以上生まれたようなもので、さらにバイラルが広がっていきました。

マスメディアで間口を広げ、ソーシャルメディアで奥行きを作る

 あらためてキャンペーンを振り返ると、マス媒体を使って商品の世界観を伝え、消費者が取っ付きやすい間口を広げたのに加え、動画のコンテストをはじめ、イベント、店頭などいろいろな受け皿で受け止めることにより、奥行きを広げることができたかなと思います。

 AISASの観点から見ても、高い好感度、興味関心を獲得し、総再生回数2,100万回超、半年で5,000万個出荷、クチコミ29,994件と、想像を超えるさまざまな成果が得られました。

 最後に、なぜこれほど多くの人が動いたのかを広告的な観点で分析すると、
・ CMの力……思わず口ずさんでしまう、なつかしく覚えやすいメロディーと、なんだか気になるダンス→全業態で好感度2位、愛用持続度1位(2010年4月度CMデータバンク調べ)
・ タレントの力……佐藤健と佐々木希という旬なタレントの起用→芸能人ブログ人気の高いタレント→ネット世代への広がり
・ 広い間口……テレビ、雑誌をはじめ、「Yahoo!」や「モバゲータウン」など注目度の高いポータルサイトへ出稿→ウェブ上への広がり
・ 高い露出……ネット媒体をはじめ、テレビ、雑誌など、あらゆる媒体に取りあげられた→ムーブメントの創出→流行へ

 さらにプロモーションの観点でふりかえると、
・ 分かりやすい指標……再生回数のみを競うという仕組み→自分の努力が結果に即反映される→参加者が、自信のブログや掲示板に動画を張る→参加者=宣伝マン
・ 遊び心と丁寧さ……面白おかしい映像と、応募しやすい環境作り→ダンスレクチャームービーや振り付け説明図、ゆるーい大量なサンプル動画など、応募しやすい環境を整えた
・ 連鎖という深さ……勢いが生むつながりが、周りを巻き込んでいった

以上のようなことが、ポイントになったのではないかと考えています。