通販ビジネスのポイントは新たなニーズの把握と信頼性

 消費者の利益保護と通販業界の健全な発展のために活動している日本通信販売協会(JADMA)。今年6月に同協会会長に就任したファンケル代表取締役会長執行役員の宮島和美氏に、通販業界の現状やJADMAの取り組みについて聞いた。

成長著しいネット通販

ファンケル代表取締役会長執行役員 宮島和美氏 ファンケル代表取締役会長執行役員 宮島和美氏

──通販市場の現状をどのように見ていますか。

 通販の市場規模は年々拡大しており、JADMAの調べでは昨年度4.3兆円を突破(2010年8月23日発表)、ここ10年で倍増しています。商品別に見ると、健康や美容関連の食品、ダイエットやエクササイズのための各種ツールが需要を伸ばしています。また、これまではBtoCの動きが主流であったのが、オフィス用品の企業向け通販など、BtoBの取り組みも多く見られるようになりました。

 販売チャネルとして成長著しいのはネット通販です。業績拡大をめざす既存の通販業者ばかりでなく、ネット販売専業の企業や、有望な販路としてネット通販に取り組み始めたメーカー、大手小売業の企業など、新たな参入も目立ちます。

──ネット通販の拡大は、企業の宣伝・販促活動にどのような影響を与えていると思いますか。

 たとえばファンケルもオンライン注文が急増していますが、ネットユーザーのほうが客単価もリピート率も高く、オンラインショップは欠くことのできない販路です。ちなみに、2008年に早稲田大学大学院商学研究科において日本で初めてダイレクトマーケティングに関するMBA課程の専門コースが設置されましたが、現在ここにファンケルから5人が通学、新しいニーズやメディア環境に対応できる人材を育成しています。

 ただ、新しいニーズやメディア環境の変化以前に、マスメディアや当社発行のカタログ誌を通じ、企業哲学や商品特性の浸透をはかっているということがあります。さらに、全国の店舗で対面による美容相談や健康相談にも応じています。そのうえで便利なネットサービスをご利用いただいているのです。商品特性や取り扱いの注意事項を手元に残るメディアで説明する必要性は多分にあると思います。効能や効果について厳しい表現規制のある健康商品のたぐいはなおさらではないでしょうか。

──そのあたりに新聞広告が果たせる役割があると?

 クリエーティブを工夫し、分かりやすい解説やビジュアルを新聞で展開すれば、情報の説得力、ブランドの浸透力はとても大きいと思います。また、ダイレクトマーケティングにおいて重要なのが信頼性の訴求です。最近は、ブログやツイッターで消費者同士が商品情報を交換し、影響力のあるタレントやブロガーが紹介した商品が売れる現象も見られますが、情報の正確さ、信頼性という点ではリスクもはらんでいます。情報が氾濫(はんらん)している時代だからこそ、マスメディア広告が生きるということもあると思いますね。

通販市場の発展を支えるJADMAの信頼性

──デジタルメディアにより、顧客管理の効率化も進んでいます。

 デジタルメディアは、売り上げやレスポンス、ウェブサイト内の行動分析など、多種多様なデータの把握が容易で、顧客一人に対して膨大な情報量を得ることができます。しかし肝心なのは、集まった情報を分析し、効果的なポイントを見つけて分類していく作業で、それは人間にしかできません。この取り組みがきちんとできるかで成果が違ってくると思います。

──ダイレクトマーケティングの新しい動きとして注目している事例は。

 比較的伸び悩んでいる衣料通販業界の中で、顧客との接点はオンラインのみ、「完全買い取り、返品なし」というシステムを敷き、今はやりの「裏原ファッション」の通販で成功している会社があります。以前そこの社長とお会いしたこともありますが、接客マナーの講師を招いて社員指導にあたっていて、「無店舗展開なのになぜ」とうかがうと、「接客マインドを知るとホームページ上に書く文章が変わる」と話されていたのが印象的でした。

 大手メーカーが生産過程で出る副産物を利用して化粧品や健康食品を開発し、企業力をもってマスメディア広告を集中投下し、顧客を獲得している通販企業もあります。

 都内の地域密着型百貨店では、「半径500メートル以内の住人を取り込む」ことを目標に宅配業務を展開し、成功しています。その百貨店がある町は坂道が多く、高齢化社会も視野に入れているようです。郊外の大型店が活況を呈したモータリゼーションの時代は過ぎ、今後はこうした「地縁」型のダイレクトマーケティングがますます注目されていくのではないでしょうか。

──JADMAの取り組みについて、聞かせてください。

 ネット通販は、効率的な売買を実現する一方で、消費者側には情報の漏洩(ろうえい)、事業社側には取り込み詐欺などの不安がともないます。JADMAは、消費者からの通販に関する苦情や相談を受ける「通販110番」や、業者のさまざまな相談に応じる窓口を設置しています。ただ、市場規模約4兆円のうちJADMA会員約500社の規模は3兆円弱。残りは入会しておらず、その多くが通販業界の次世代を担うネット販売専業の企業である現状があります。アマゾンや楽天も入会していません。一方会員は8割以上が中小企業です。通販業界は、特商法や健康増進法、薬事法などさまざまな法律と関係していますが、予算的に専門家を配置できない会社も少なくありません。日本で唯一の通販業界の団体として、信頼性の担保、法律相談など、入会のメリットを明快に打ち出し、市場の健全な発展をめざしていくつもりです。また、外に向けてばかりでなく、会員に向けても広報活動を積極的に進め、各社のカタログや広告、ホームページ上で「JADMAマーク」が信頼の証であることを広めてもらうよう、より一層働きかけていきたいと思っています。

宮島和美(みやじま・かずよし)

日本通信販売協会(JADMA会長)/ファンケル代表取締役会長執行役員

1950年神奈川県生まれ。成城大学卒業後、ダイエー入社。取締役秘書室長、常務執行役員などを歴任。2001年ファンケルに入社。03年常務取締役、07年代表取締役社長、08年代表取締役会長執行役員。2010年6月、社団法人日本通信販売協会の会長に就任。