長年にわたりダイレクトマーケティングビジネスをけん引している大広が、今年4月に取り組み強化のため「ダイレクトマーケティング事業本部」を設置。クライアントのさまざまなニーズに対応し、ソリューションを提供している。同本部担当の執行役員・西島一博氏、同本部ダイレクトマーケティング局 局長・矢崎哲郎氏に、現在の潮流やメディア環境の変化による市場への影響、新しいビジネス展開などについて聞いた。
個人に訴える表現と仕組みづくり
──ダイレクトマーケティングの潮流をどのようにとらえていますか。
西島氏 国内の一般的な経済活動になかなか伸長が見られない中、ダイレクトマーケティング市場は拡大を続けています。その規模は、先日発表された日本通信販売協会調べで4.3兆円と過去最高額を更新し、また物販に限定しても2010年以降6%程度の拡大が見込まれる(富士経済調べ)という見方もあり、さらにサービス分野をはじめ対応領域の広がりも予想されます。別の資料ではeコマースだけでも2009年度に6兆円を超え、2014年度には12兆円に達するとの予測もあります(野村総研調べ)。見込み客の獲得などワントゥワン・マーケティングの活性化という意味でも、今後をけん引していくビジネス潮流であると認識しています。
──好調な商品、業界、新しい動きなどについて聞かせてください。
西島氏 出版、食品、健康食品、金融、旅行、化粧品などが好調です。最近は異業種の参入も目立ち、製造業者が長年扱ってきた素材に新しい効果を見つけて化粧品市場に進出したり、化粧品メーカーが美容を追求した末に健康食品市場に領域を広げたりといったケースが見られます。
ITの進化によりeコマースのシステム管理が容易になっていることもあり、自社のウェブサイトにショッピング機能を持つメーカーも増えています。流通への影響を懸念する声があっても、消費者のニーズがそれを凌駕(りょうが)するでしょう。すでにアパレル系、ファッション系メーカーのeコマースへの取り組みは顕著です。
──インターネット通販の需要が伸びています。メディア環境の変化はダイレクトマーケティングにどのような影響を与えていると思いますか。
西島氏 弊社に対しても、インターネット領域でのソリューションの提供を求めるクライアントが増えています。ネットに誘導するコミュニケーションも重視され、マスメディアでの訴求だけでは不十分と考える傾向が強まっています。iPadやスマートフォンなど新しいツールを生かしたコミュニケーションの開発も進み、通販に無縁だった層へのアプローチが期待されています。
また、通販利用者は50~60代が多いとされてきましたが、これだけ商品や販路が広がってくると、ターゲティングも一般のマーケティングと同様にとらえていく必要性があります。
──レスポンス、リピーター、ロイヤルティーを獲得するために必要なこととは。
西島氏 第一に表現の力で、いかに消費者に「自分ごと」と思ってもらえるメッセージを送ることができるかがポイントになってくると思います。顧客の誕生日にお祝いのはがきを送ったり、化粧品の顧客であれば、ある年齢を超えたらそれまでとは違う商品ラインアップを紹介するDMを送ったり、といった工夫が考えられます。
ネットの情報発信も、顧客のホームページの閲覧履歴を分析し、個々の嗜好(しこう)に応じてトップにくるメッセージを変えるなど、よりパーソナルに近づける仕組みが求められています。ネット上で商品価格を比較し、底値で買う消費行動にも対応していかなければなりません。
大広では、長年の蓄積をもとに、新規購入見込み客からリピーター、購買力のあるロイヤル顧客までを探り当てるシステムを有し、日々精緻(せいち)化を進めています。
──新聞広告をはじめとするマス広告の位置づけについて、考えを聞かせてください。
西島氏 ITの進化やソーシャルメディアの浸透が注目されつつも、マスメディアの新規顧客獲得力は依然強く、今日の新聞広告における通販広告の多さがそれを裏付けています。ダイレクトマーケティングにおけるメディアは“売り場”です。ビールが商品だとすると、百貨店ではギフト、コンビニでは単品、スーパーでは6缶パック、ディスカウントショップでは24缶ケースといった具合に、売り場によって売り方やターゲットは変わってきます。それと同様、“売り場”に合った商品展開、メッセージ展開が重要です。
新聞は、文字でじっくりと伝える信頼性の高いメディアですが、商品の持つストーリーを記事体広告によって訴求したときの説得力は絶大です。また、新規参入の企業にとってはブランド認知が不可欠で、そうした意味でも利用価値は高いと思います。
ワンストップ・ソリューションを提供しクライアントをサポート
──これまでの取り組みと、ダイレクトマーケティング事業本部のビジネスの特徴は。
矢崎氏 大広は、新聞広告やインフォマーシャルなどマスメディアを中心とした新規顧客獲得施策でダイレクトビジネスを拡大してきましたが、その課程における節目節目でトップの迅速な判断がありました。最初の節目となったのは、1980年代。主に通販専業企業とのビジネスによって市場の優位性を獲得しました。2000年代に入るとその流れが加速すると同時に、既存のクライアントソースであるメーカーの通販事業のサポートが増えていき、これが第2の節目にあたります。そして、第3の節目として今年4月、グループ各社に散在していたダイレクトマーケティングにかかわるナレッジを集結し、ダイレクトマーケティング事業本部を発足。約40人が専任で業務にあたっています。これだけの人数を配置していることで、注力の仕方がご理解いただけると思います。スタッフは、クリエーティブ、営業、調査などさまざまな部署の経験者で構成し、それぞれが得意領域を持ってプロデューサーやコンサルタントやプランナーとして活動しています。
西島氏 メーカーが新しくダイレクトビジネスを始めるにあたり、マーケティング・ソリューション・パートナーとして戦略を担うというのが、私たちの活動趣旨です。地域会社やコールセンター機能を有する子会社などとも連携し、フルフィルメント、すなわち受注から物流、配送、決済まで、ダイレクトマーケティング事業におけるワンストップ・ソリューションの提供が可能な体制を整えています。強みは実績の数で、過去の経験をふまえた仮説をもとに、継続的な購買につながる顧客の育成や、ロイヤルティーの拡大を支えています。ウェブ領域の対応力の強化、eコマースでのソリューション強化にも取り組んでいます。
──成功事例は。
矢崎氏 象徴的なのは、単品通販はリピーターの注文が来て初めて利益が出るようなビジネスモデルでありながら、初回の広告出稿から利益を上げるといった事例です。その決め手となるのは、メッセージの送り方だと考えています。そこで弊社では、フルフィルメント業務のみならず、クリエーティブ面においてもレスポンス向上や顧客獲得につながるノウハウを有し、広告主の支持を得ています。
──ダイレクトマーケティングの将来像は。
西島氏 通販はもはやあたり前の販売チャネルとして認知され、信用、安心、安全という意味でもイメージは上がっています。今後は例えば3Dテレビの活用など、いかに商品やサービスをリアルに伝えていくかという競争になっていくと思います。
また、今の時代、近くに商店がなく物理的に買い物ができない地方の人々や、高齢者が増えています。そうした中で、ダイレクトマーケティングにある種の公共性が求められてくる気がしています。メーカーの公共性、マスメディアの公共性も合わせて、社会問題解決型のダイレクトビジネスの将来も考えていきたいですね。