「3D」「iPadやスマートフォン」「龍馬ブーム」「東京スカイツリー」などが話題を呼んだ2010年上半期。消費回復の実感がない中、エース級のヒットが見当たらないともいわれる今を、流行の“その先”を追いかけている人はどう見ているのか。テレビ東京系列の経済ニュース番組「ワールドビジネスサテライト」の人気コーナー「トレンドたまご」の担当デスク・同局報道局ニュースセンターデスクの飯島勝弘氏に聞いた。
振り返って見れば、やはり主役は3D
――「トレンドたまご(トレたま)」は、“ヒット以前”の商品を取り上げるコーナーで、今年上半期もおよそ120のユニークな新商品を紹介しています。日々、新しい商品や技術を注視している立場から、最近のヒット商品の傾向をどう感じていますか。
我々はあくまでも取材者なので、個々の商品を時代的に位置づけたり、全体の傾向を評論したりすることは普段からしていません。また「トレたま」で取り上げた商品の中にも、その後ヒットしたもの、しないものがもちろんあります。最近は、いざネットなどから話題が広まると評判が評判を呼び、その後の加速度的なヒットにつながるケースが多いと感じています。
今年上半期の大ヒット商品でいえば、「ラー油」が代表的でしょう。ブログで話題を拾い、通販サイトで商品検索をするとどこも品切れで、先程までその商品の存在すら知らなかった人もそこでヒットを実感し、自分も急に欲しくなる。あるいは「iPad」のように、発売当日からヒット商品としてスタートを切る商品というのも、そういったものの一つかと思います。商品発表から発売日までの間に話題が社会に広がり、発売日にショップに行列ができることで、さらにヒットの勢いが高まっていくという流れです。
――今年上半期に「トレたま」で取り上げた商品を改めて振り返って、企業や開発者たちの目が全体としてどのような方向に向いていると感じていますか。
やはり「3D」関連の商品が多かったと思います。今年の上半期には映画「アバター」のヒットや、家電メーカーからの「3Dテレビ」発売などがありました。すでに「3D」は大ヒットネタですから「トレたま」での扱いは今控えていますが、振り返ってみるとこれまで3D関連商品を番組で取りあげた回数は結果的に多かったですね。
アジアのメーカーに奪われたシェアの失地回復を狙い、国内の家電メーカーは「3Dテレビ」に力を入れていますが、まだ価格的にこなれていませんし、一般消費者に浸透するのはもう少し先かもしれません。それより先にビジネス分野で浸透しそうなのは、AR(Augmented Reality。現実の知覚に現実には存在しない情報を加える拡張現実技術)を応用した商品です。「トレたま」でも今年1月に、印刷物などをパソコンのカメラで写すと、画面上ではそこから立体の画像が飛び出して見えるといった技術を紹介しました。広告や教育・医療などでの応用が期待されています。
持ち前の技術を新しい産業分野で生かす中小企業
――そのほかには。
もともと「トレたま」は、大企業が華々しく発表する新商品よりも、がんばっている中小企業が独自の技術や発想で世に出した新商品を応援する気持ちが強いコーナーです。その中でも昨年あたりから、自分たちの持っている技術を他の分野に転用して違う商品を作り出すという動きが目立っています。例えば「ソーラム」というHIDヘッドランプなどの自動車用部品メーカーが、自社技術を転用して開発した業務用の「ピザ焼き機」を取り上げました。今年に入っては、手品グッズで世界トップシェアの会社が開発した「浮く地球儀」だとか、紙製品メーカーが固くて丈夫な紙を作る自社技術を応用して開発した世界初の「紙製ペーパーナイフ」などを紹介しています。
こういったイノベーションは、これまでもたくさんあったと思いますが、特に近年は自動車産業の下請け企業のような、景気の落ち込みが死活問題になっている中小企業が増えていることもあり、生き残りをかけた挑戦が増えているのではと思います。
――それは、いわゆるヒット商品のランキングでは分からない新しい動きですね。
そうですね。あともう一つ、「トレたま」的なトレンドということで挙げられるのは、医療・介護分野の商品に新しいアイデアが多かったことです。例えば市販の車いすの後ろにネジで部品を取りつけると、車いすが自転車と合体するという商品を取り上げました。介護する人が自転車をこぐことで介護される人と一緒に移動できますから、体力的にラクですし、行動範囲が広がります。
こういった新しい介護商品の登場には、高齢化が進む中で、「こういった商品があればラクだな」といった声が、介護する側・される側からさまざまな形で企業に届きやすくなったことが背景にあると思います。これまでヒット商品といえば、若者や女性層に人気の商品が主流でしたが、自分の近くに体の弱ったお年寄りがいたり、少子高齢化が進む中で、医療や介護というのがヒットの大きなテーマになってくるのではないでしょうか。実感の伴った個人のニーズをどう掘り起こすかが重要になってくると思います。
――「トレたま」は、放送日には毎回放送があるレギュラーコーナーですが、情報をどのように集め、取り上げる商品を選んでいるのですか。
企業からの持ち込みのほか、新商品のリリースや業界紙をとにかく読みあさるという、本当に自転車操業です。技術や発想の面白さだけでなく、似たような商品を取り上げないこと、映像にした時に面白いこと、それとリポーターのリアクションが期待できそうなことなどが、選ぶ時の一応の目安です。技術が斬新というわけではなくても、開発の苦労話が興味深いなど、ストーリー性のある商品も取り上げます。
テレビというのは、企業を取材したリポーターが本当に面白がっているか、そうでないかがどこか画面から伝わってしまうもので、そういった部分も視聴者にとっての楽しみだと思っています。以前、ストレス発散にロックスター気分で床などにたたきつけて「壊せるギター」があると聞き、取材したことがあります(破壊後にギターを販売元に返送すると、新たなギターとしてリサイクルされる商品)。リポーターも非常にノった映像が撮れて、これはいい!と思ったのですが、反省会でプロデューサーから「やり過ぎだ」としかられました(笑)。
――そのほかに、最近の商品全体の潮流で感じていることはありますか。
最近は、個人が一人ひとり小さく楽しみながら、どこかで大きな世界とつながっているようなものが受け入れられている気がしています。大ヒット商品でいえば、「ツイッター」や、ケータイのGPS機能を使ったゲーム「コロプラ(コロニーな生活)」などがそうなのかもしれません。
最後はごく普通の意見になってしまいますが、個人的には「iPad」が気になりました。タブレッド型端末というのは、これまで日本のメーカーからもさまざまな商品が登場しましたが、残念ながら「iPad」のようなブームは生み出せませんでした。それはハードが技術的に劣っていたらというよりも、ハードとソフトを一体とした新しい世界を提示することができなかったからのような気がします。今後、「iPad」のライバル商品が登場するとしたら、そこが勝負のカギになるのでしょうし、他の分野においても、ソフトと一体でどういった楽しみを提供できるかが大きなテーマになると思います。
◇テレビ東京 「ワールドビジネスサテライト」ウェブサイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/