「ミッフィー(うさこちゃん)」の絵本シリーズで世界的に活躍するオランダの絵本作家、ディック・ブルーナ氏。ミッフィーは今年、誕生55周年を迎えたが、今も変わらずに多くのファンから愛され続けている。日本におけるブルーナ氏の著作物やそのアートの管理、商品化・PR販売促進、展示会業務などを行っているのが、ディック・ブルーナ・ジャパンだ。同社代表取締役社長の鐵田昭吾氏に、ディック・ブルーナの世界観やライセンサーとして心がけていることなどを聞いた。
ライセンシーの共同体を結成し
世界観や作者の思いを共有
――ディック・ブルーナ氏の著作物のライセンサーとしてのこだわりを聞かせてください。
ブルーナ氏はもともと出版社の息子で、自社発行の出版物のグラフィックデザインを手がけていました。そうした仕事を通じ、また、マティスなどの作品から大きな影響を受け、「シンプルな方が心に訴える」という彼自身のアートワークのあり方が確立していきました。それはできるだけ無駄をそぎ落としてシンプルに描くという、絵本作家としての作風にも強く生きています。今年の8月で83歳になりますが、今でもほぼ毎日アトリエに通い、新しい絵や物語を作り出す生活を続けています。そうしたブルーナ氏のアートへの思い、絵本を描く喜びを、商品やビジネスという形を通じてではありますが、日本のファンの方、企業の皆さんにも伝えていきたいという思いで、業務を展開しています。
――ライセンシーに要望していることは。
一番強く思うのが、長くお付き合いできる相手かどうか、です。ディック・ブルーナの世界は、いい意味で変わらない部分が多いので、キャラクターをポンとつけて商品を作り、すぐに次、というスタイルとは相反します。いいものを作って、じっくりと長く丁寧に売っていきたいという企業や、長い時間をかけて企業理念や商品のコンセプトを伝えていきたいライセンシーとお付き合いしていきたい、という思いがあります。実際、長いところですと40年近くライセンス契約を結んでいる企業も。こうした思いは、これまでもこれからも大切にしていくべきだと考えています。
――ブルーナ氏のキャラクターを使いたいという企業や商品には、どのような傾向がありますか。
ブルーナ氏の作品やグッズを支持してくれているのは、20代以上のいわゆる「F1層」と言われる女性たちです。自分が好きという理由に加え、子どもとのコミュニケーションのためにブルーナ氏の作品を購入されるケースも目立ちます。そうした消費者の意識や動向を受け、「家族」「子育て」「安心」「ナチュラル」といったキーワードで展開したい商品やサービスに起用したいというライセンシー企業が多いようです。
――ライセンシー企業とはどのようなコミュニケーションをされていますか。
ライセンシーごとにマーケティングサイドとデザインサイドを両輪とした担当チームを組んで、出来るだけまめに意思疎通を図るように心がけています。さらに、ライセンシー企業が手を組み、ディック・ブルーナのことをもっと知ってもらおうと共同販促活動をしている共同体「ぶるーな倶楽部」があります。幹事会社6社をはじめ、企業とは定期的に情報や意見を交換しています。
――消費者とのコミュニケーションは。
「dickbruna.jp」というミッフィーの日本の公式情報サイトがあるのですが、4月にリニューアルし、ファンの皆さんに自由に書き込んでもらえるコーナーを作りました。「55周年おめでとう!」「こんなミッフィー買ったよ」「子どもがミッフィー大好きです」など、たくさんのメッセージが届いています。個人のブログなどで書かれる方も多く、以前よりも消費者の反応がリアルにつかめるようになってきました。
商品情報などは、流通には伝えていても、それが100%消費者に届くとは限りません。そこで、「ぶるーな倶楽部」発行という形で、ライセンシー各社のグッズカタログとミッフィー情報が載っている「Bruna Times」という定期情報誌を作成、店頭プロモーションやイベント時に配布するツールとして活用しています。ウェブサイトを含め、直接私たちやぶるーな倶楽部が発信した情報を消費者に受け取っていただけるようなシステムづくりに力を入れています。
――ライセンス商品のバリエーションや人気の傾向は。
ここ10年ぐらいで、特にファッション系やインテリア系を中心とした大人向け商品について、デザインや色のルールが柔軟になりました。もともとは「ブルーナカラー」と言われる色以外はなるべく使わないようにしていたのですが、ミッフィーの世界を十分知った上で違うデザインや色を楽しみたいという声が、日本だけでなく、イギリスやフランスなど世界的に強まってきたためです。日本でも、ピンク色を基調にしたシリーズがヒットしました。しかし、絵本を読む0歳から4歳ぐらいの子ども向けのおもちゃやグッズについては、オリジナルのブルーナカラーをしっかりと守ろう、というルールを通しています。
まだまだ続くミッフィーの世界
ライセンシーと手を組み伝えていきたい
――今年はミッフィー誕生55周年の節目の年ですが、どのような取り組みがありますか。
4月22日から、東京の松屋銀座で、「ゴーゴー・ミッフィー展」を開催しています。たくさんの原画を取り寄せ、主催の朝日新聞社や、展覧会に参加するデザイナー、アーティストの方々に対し、最大限の協力ができればと努めました。節目の年に大きな展覧会を開催する、ということで、ライセンシーの皆さんもここ一番に力を入れて、商品バリエーションを作られています。福音館書店の絵本「うさこちゃん」シリーズでは、新しい書体「ウサコズフォント」を起用した新装版が刊行されましたし、講談社からはミッフィーのグッズを風景の中で撮影した写真集「miffy × miffy × miffy」が発売されて、いずれも好評です。グッズ展開も、子ども向けのおもちゃはもちろん、大人の女性向けの商品も続々出ています。そうした情報も、できるだけ多くのファンの方に届くようにしていきたいと考えています。
――今後について聞かせてください。
ブルーナ氏はまだまだ新しい絵や作品を描き続けているので、ディック・ブルーナの世界もミッフィーもまだまだ発展途上です。「ゴーゴー・ミッフィー展」では鍵を持ったミッフィーが登場していますが、「未来へと続く鍵」というテーマでブルーナ氏に新しく描いてもらったものです。「ゴーゴー」も、55周年だけでなく、「次へ行くよ」という意味をかけました。来年はうさぎ年ですし、さらに盛り上げていきたいですね。これからも新しいお話、新しい表情をするミッフィー、そしてブルーナ氏の思いを、日本のファンの皆さんにお伝えしていきたいと考えています。
「ゴーゴーミッフィー展」の編集特集