華やかで、共感できるモノが40代、50代女性をひきつける

 長引く不況の中、40代、50代のオトナの女性は、団塊世代に続く「消費の起爆剤」として期待されている。世代をひとつの切り口として生活者の嗜好(しこう)や志向、消費行動などを調査、分析している伊藤忠ファッションシステムの小原直花氏に、最近のオトナ女性の消費動向などについて話を聞いた。

 

20歳前後に刷りこまれた「感覚」は
年齢を重ねても変わらない

伊藤忠 小原直花氏 伊藤忠 小原直花氏

――40代、50代の「オトナ女性」をどう分析しますか。

 当社では、10代から60代までの生活者を、「世代」として区分し、カルチャーやファッションなどについて調査、分析をしています。今回の特集で指す「オトナ女性」は、39歳から44歳までのいわゆるアラフォーと、45歳から50歳のアラフィフ世代ですが、当社では前者を「ばなな世代」、後者を「ハナコ世代」と総称しています。ファッションやカルチャーの嗜好を調べていくと、20歳前後で体験した流行に非常に影響を受けていて、そのあと年齢や流行が変わっても、結局20歳のころに慣れ親しんだようなアイテムやコーディネートに落ち着くことがわかっています。ハナコ世代は情報誌『Hanako』が、ばなな世代は、吉本ばななさんがネーミングの由来。彼女の小説『キッチン』『TSUGUMI』の主人公のように、突出したキャラクターではないけれどどこか個性的なのが特徴です。

――「ハナコ世代」と「ばなな世代」、それぞれが過ごしてきた時代背景と彼女たちの傾向を聞かせてください。

 「ハナコ世代」は、20代でバブルを経験、好景気を謳歌(おうか)しました。そのため、消費することが大好きで、お金を使うことで満足感を得る傾向があります。ファッションは、ビビッドな色の上下がそろったスーツにハイヒール、メークもファッションに合うような華やかな色合いが流行しました。また、フランスやイタリアなど、ヨーロッパの高級ブランド品も必須アイテムでした。

 さらに、大学生のときに「女子大生ブーム」があり、社会から注目された体験から、世の中との接点をとても重視しています。専業主婦になってもPTAで大活躍! という人も少なくなく、おけいこ事も、それだけでは終わらせず仕事にしたいなど、いずれは社会的に認められたいという気持ちが強いようです。

 その下の「ばなな世代」は、バブルで世間が浮かれていたことも知っていますが、20代後半にはバブルが崩壊し、不況へ向かう社会の中にいました。ある意味、価値観が180度変わるのを目の当たりにした世代です。このため、ハナコ世代に比べて現実的な見方、考え方をする傾向があります。ファッションでは「ナチュラル」「カジュアル」といった要素が好まれるようになり、ブランドもアニエスb.などのフレンチカジュアルが流行しました。個人としての自分を重んじるハナコ世代に比べ、妻や母という役割の中に満足感を得られるのも、ばなな世代の特徴です。

――それぞれの世代の、現在の消費行動の傾向や特徴は。

 ハナコ世代は、先ほども触れましたように、お金を使うことで満足するという特徴があります。ちょうど子育てと教育費が一段落する時期というのも相まって、「自分のためにお金を使いたい」という機運が高まっていると見ています。ならば、この世代の夫婦のカップル消費が見込めるのでは、と予測を立てたのですが、よくよく彼女たちの話を聞いてみると、「これまでに家族のために十分時間を使った」「これからは『自分』という個人が輝きたい。それが家族の喜びにもつながる」と思っているようなのです。夫や家族との外食や旅行もするにはするのですが、あくまでもイベント的な位置づけで、傾向としては「自分のために時間もお金も使いたい」という考え方です。

 それに対してばなな世代は、妻や母といった家族の中での自分に満足感を得られる人たちです。「自己実現」と「家族の幸せ」が強くリンクしています。たとえば、料理教室などに通うことで、楽しく、さらに自分磨きにもなり、その上、家族にはおいしい食事や健康な食生活を提供できる……といった、自分と家族の両方が幸せになれるようなものに、お金と時間を使いたいと感じているようです。

 

本物感は押さえながら
見せ方は華やかに

――オトナ女性たちのメディア接触の状況をどう見ていますか。

 特にハナコ世代は、マニュアル本で育った人たちです。自分の世代がターゲットの雑誌はもちろん、若い世代の雑誌を、買わないまでも美容室では必ずチェックするという人もいるようです。また、いざ購入を考えるときにはインターネットでの比較もしています。何よりも影響力があるのが、クチコミ情報です。さらに、若い人とのつながりを積極的に持ちたいと思っているこの世代らしく、いわゆる「娘情報」というものを共有するなど、時代の情報にアンテナを張っています。

――オトナ女性の心をつかむ商品やサービスのマーケティングや広告展開のポイントを教えてください。

 これまでお話してきたように、40代、50代のオトナ女性は、非常にパワフル。かつての同年代よりはるかに若くなっています。とはいえ、加齢からくる肌や髪質、体形の変化といった老化現象は避けては通れません。ファッションも若々しいものを好み、実際若い人と同じショップで買っている人も多いようですが、着られないわけではないけれど二の腕がちょっときつい……なんてことも。9号、11号といったサイズではなく、パターン(型紙)の技術の問題だと思いますが、アパレルメーカーも百貨店も、まだまだ着手できていないのが現状です。「若々しい服を着たい」という気分と、老化による変化という、彼女たちが感じているギャップを埋めるようなサービスや商品が求められていると思います。

 そういう点では、化粧品メーカーは、年齢に伴う変化をケアするような機能を強化した商品を手掛けてきています。しかし、ただ機能だけをアピールしても、特にハナコ世代には受け入れられないかもしれません。というのも、ハナコ世代は若いころ華々しく登場した、外資系ブランドの高級美容液などを積極的に使ってきたからです。外資系ブランドが持つような「華やかさ」は欠かせないでしょう。オトナ女性たちが潜在的に持っている感覚を、いかにくすぐるかがポイントになってくると思います。

 これは商品開発だけでなく広告にも通じると思うのですが、どれだけ「自分ごと」としてとらえてもらえるかが重要です。若々しくても、実際には40代、50代の彼女たちは、自分からかけ離れた若者向けのモノや、若い人を見せられても興味を引かれないでしょう。同年代でキレイを謳歌しているような華やかな人がメッセージを発すれば、きっとオトナ女性たちの心をつかめると考えます。

 また、「華やかなものが好き」という若いころに刷りこまれた感覚があるので、地味なものを見せられてもやはり響きません。もっと言ってしまえば、たとえクオリティーが高くても地味だと響かない。本物感をおさえながら、見せ方は華やかにすることは必要だと考えます。そうした「ツボ」を押さえ、ファンになってもらえれば、リピーターになる可能性も大きいのではないでしょうか。
 

 

小原直花(おはら・なおか)

伊藤忠ファッションシステム 社長室 川島ルーム プロジェクトマネジャー

1992年伊藤忠ファッションシステム株式会社に入社。「生活者の消費動向を知る」を大きなテーマとし、ファッション視点と世代視点を軸に、価値観やライフスタイルを分析。リポート発行とその解説セミナーを定期的に行うとともに、クライアント対応の案件にも携わる。また、モノがあふれている時代、消費に大きな影響を及ぼす“生活者の気分”にフォーカス。04年より次代の動きを俯瞰(ふかん)的にとらえた「気分BOOK 」を手掛ける。今年4月には、「生活者の気分10――家族する気分で、安定とぬくもり感アップ」を発行。ほか、「プレバブル世代とポストバブル世代の生活意識格差」「プリ上vsプリ下」「ハナコジュニア世代」などがリサーチテーマになっている。共著に、『おしゃれ消費ターゲット』(幻冬舎)、著書に『婦国論』(弘文堂)などがある。