消費を牽引(けんいん)する「現役」を降りない世代

 モノがあふれる時代、先の見えない時代に生まれた若い世代の「モノの所有」への興味が薄れる中で、40~50代の女性たちの消費へのポジティブな意欲に、市場の期待が集まっている。アサツー ディ・ケイ コミュニケーションプランニング部門 第4アカウントプランニング局 局長で、女性プロジェクトチーム「f-side」のシニアプランニングディレクターも務める夏目則子氏に、40~50代女性を消費に向かわせる心理を聞いた。

 

消費の喜びを原体験として持つ「HOW TO世代」

アサツー ディ・ケイ 夏目則子氏 アサツー ディ・ケイ 夏目則子氏

――今の40~50代の女性の特徴をどうとらえていますか。

 この世代の特徴を大きくとらえれば、「オンナ」としていつまでも現役でいたいと考え、そこから降りないということです。基本的に元気で、キラキラしたものが好きでラグジュアリーな世界にあこがれ、消費にもポジティブな意欲をもっています。

 それ以前の世代は、結婚し、40にもなれば「オンナ」としての人生よりもそれ以外のところに興味の向かう方向が移りました。しかし彼女たちは、妻や母になっても「自分が主役でありたい」という強い意識を変えません。よく「バブルを経験した世代だから」といった言い方がされますが、バブルはひとつの象徴で、彼女たちは右肩上がりの時代をずっと生きてきました。そしてこれからも、スポットライトを浴び続けたいわけです。

 もう少し細かく見ますと、1986年の男女雇用機会均等法の施行を軸に、3つの世代に分かれると思います。均等法施行直後に社会人になった世代、つまり現在の40代半ばから後半の女性たちは社会でキャリアを積んでいく生き方を自分たちでつかみ取った人たちであり、アグレッシブで何でも手に入れたいという意識が強い傾向があります。言ってみれば、松田聖子さん(1962年生まれ)的な生き方を志向した世代です。

 それ以後に社会進出した女性たちは、女性が総合職に就くのは普通のことで、景気も後押しして仕事もラクに手に入れました。肩ひじを張らず、仕事と家庭を両立する生き方をしてきた世代です。芸能人で言えば、三浦りさ子さんや菊池桃子さん(ともに1968年生まれ)のようなイメージですね。その逆に均等法以前は、女性が仕事を続けていくことがメジャーではなく、仕事も大事だけれど女性らしい美しさや、家庭的な落ち着きのようなものも大切にした世代です。こちらは、岡江久美子さんやキャンディーズの田中好子さん(ともに1956年生まれ)のような女性像でしょうか。

――失われた10年以降の時代の変化は、右肩上がりの時代に培われた彼女たちの価値観や消費行動に影響を与えませんでしたか。

 時代が上向きでなくなり、自分の年齢的にも人生の先行きを考えるようになった中で、漠然とした不安は感じ始めているとは思います。欲しいものは手に入れて、やりたいことはやってきたけれど、「最近どうもうまくいかない」といった声はよく聞きますね。

 とはいえ、40~50代の女性たちは、モノがもたらす喜びが原体験として染みついている世代です。大型冷蔵庫や高機能化粧品が物心ついた時から日常の中にあった若い世代とは違い、彼女たちは以前の価値観をそう簡単に変えません。ですので、できるだけ周囲には以前の自分と同じ見え方をするようなコストダウンを試みている人が増えています。例えば高級ブランドの服を買っていた人が同じテイストの服を通販で買ったり、毎日使っていたお気に入りのローションやバスソルトにしても使う頻度を少し抑えるといったようなことです。

――彼女たちのメディアへの接触態度に特徴はありますか。

 ウェブは40代なら当然使いこなしているでしょうし、50代にもかなりの割合で普及しています。特に40代は新しいモノをすぐ手に入れたい欲求が強いですから、iPhoneのようなツールも意外と積極的に利用しています。

 ただし、彼女たちはあふれかえる情報を自由に使いこなすまではいかない「How To」の世代です。「これを選んでおけば間違いない」「みんなが持っています」といった言葉に弱いですし、ブランドものを好むのも、それがひとつの「How To」だからでしょう。いわゆるライフスタイル提案を好むのは、そのためです。インテリアを例にとれば、彼女たちは「北欧調」や「アジアンスタイル」といったトータルな世界観を志向します。逆に自分のセンスに自信のある若い世代はそういう押しつけは好まず、個別のモノや情報を自由な発想で組み合わせて楽しんでいると思います。これは消費者志向を分析する側から見れば、40~50代には従来的なマスマーケティングが機能しやすいということだと思います。

 

新聞に期待するこの先の彼女たちの生き方提案

――夏目さんは2007年にアサツー ディ・ケイに発足した女性を中心としたプロジェクトチーム「f-side」のメンバーですが、チームの狙いは。

 「f-side」は、当社のクリエーティブとプランニングのスタッフがプロジェクト単位で動いて、女性向けの広告を女性ならではの視点で作ろうというチームです。男性が女性の消費分析をすると、どうしても定量的なデータを重視して守りに入ってしまうことがあります。しかし女性の消費心理には言葉や理屈ではとらえられない部分がかなりあって、要するに「好き嫌い」や「かわいい」「なんかいい」に左右されやすいのです。

 そこで「f-side」として携わるプロジェクトについては、クリエーターの感覚的な発想から戦略を探っていきます。マーケティング分析からスタートする通常の広告提案を同じ女性チームスタッフで行うこともありますが、その場合は「f-side」の名前は使いません。

 特に40代の女性は、感覚的な好き嫌いを重視し、自分を主役として扱ってくれるキラキラした世界観を広告に求めます。「自分は40代だがそういうタイプではない」と思われる方も多いでしょうが、安定志向の強い30代や、そもそも成長の時代を経験したことがなく身の丈に合った世界にしか興味を示さない20代と比べれば、やはり世代全体の傾向として言えることと思います。

――「f-side」でのこれまでの主な仕事は。

 これまでの仕事としては、オンワード樫山の「23区」や、東芝のピンクリボン運動「マンモグラフィ・キャンペーン」などを手掛けました。また直近のものでは、今年の春、東京と大阪、福岡の交通広告を使って行った薬用養命酒の女性向けキャンペーンがあります。このキャンペーンでは「春バテ」というキーワードを作り、例えば「朝メイクするより5分寝ていたい」「冬が去り春がきたのに冷え去らず」といったような、働く女性の共感を得られる川柳を、駅張りや中づり広告などに展開しました。
クリエーティブの女性スタッフが感覚的に発する提案の中から、私は「ターゲットにフィットするだろう」という部分を捕まえてインサイトをブリッジさせる、通常とは逆の流れで形にしていきます。

――40~50代の女性に向けたこれまでの広告やコミュニケーションについて、どのような点に受け手との「ズレ」を感じていますか。

 コミュニケーションの問題の前に、私自身を含め多くの40~50代が、自分たちの世代に向けた商品に対して、「なんか分かってないね」「自分に合うモノがないね」という思いを持っています。会社というのは今も基本的には男社会で、女性が増えたとはいえ上の世代で働いている方はまだ少なく、「若い女性が消費を牽引(けんいん)する」という考え方から抜けきれていません。そのため年上の女性が放置されている状態で、ファッション、美容といったオンナゴゴロ系の商品で上手に彼女たちに届かせているものは少ないと思います。

 例えばファッションひとつとっても、買う服が本当にないんです。自分たちの世代向けの雑誌を見ると、ジャケット1着が30万円みたいな商品ばかりですし、百貨店に行っても自分たちが買いたいと思える服はほとんどありません。ファッションビルは若い子向け過ぎて、テイスト的にはいいのですが、サイズが合いません。志向はエイジレスになっているのに、商品が追いついていないのです。

――40~50代をひきつける広告展開、商品展開を行うために、新聞はどのような役割を果たせると思われますか。

 新聞はライフスタイルを提案したり、大きなテーマを設定することに適したメディアです。彼女たちにはこの先のモデルになる生き方はなかなかないわけですから、そういうものが見えるような提案があると「このあたりをゴールにすればいいのかな」といったひとつの示唆が与えられるのではないでしょうか。

 それと私を含め、この世代は全15段のカラー広告が好きなんじゃないかと思います。これも感覚的なことでなぜと言われると難しいのですが、全15段広告には気持ちをわくわくさせるものやラグジュアリー感があります。ある種のニュース性をもって、そういう華やかな広告を演出する力は新聞ならではのものです。

 そして、この世代ならではの新しい役割を啓発するような広告を、新聞には期待したいと思います。彼女たちも年を重ねる中で、社会にとって自分が何ができるかを考えはじめています。それを「いつまでも自分を輝かせたい」といったこの世代の意識とうまく結びつくような目標設定ができれば、彼女たちの世界も広がり、女性の社会貢献という側面からも意義のあるものになると思います。