東京ディズニーリゾートでは、45歳以上の来園客向けのプランやチケットプログラムなどを提供する「ディズニーのおとな旅」を展開している。若者や小さな子供のいるファミリー層が多く訪れているイメージが強いが、オトナをターゲットにした理由は? また、オトナの女性をどうとらえ、心をつかむためにどんな仕掛けを考えているのか。オリエンタルランド営業本部営業一部営業三課長の神原里佳氏に聞いた。
「行く機会が減ったけれど、誘われれば行きたい」
――「ディズニーのおとな旅」を展開された経緯、狙いなどについて聞かせてください。
もともと東京ディズニーランドと東京ディズニーシーは、小さなお子さまからお年寄りまで、あらゆる方々が楽しめるファミリーエンターテインメントなので、特定の層だけに来てもらうことは想定していません。とはいえ、世の中の変化に伴いライフスタイルもニーズも多様化しており、それぞれのターゲットを上手にセグメントして、適したアプローチをしていく時代になったとも感じています。「ディズニーのおとな旅」も、その取り組みのひとつです。
年齢を45歳以上としたのは、45歳くらいから50代くらいまでが来園するきっかけが少ない年代だからです。ライフスタイルが多様化しているので、この年代をひとくくりにはできませんが、たとえば中学生くらいのお子さんがいる方だと、子育てが一段落し、さらにお子さんが親と行動を共にしなくなる時期でもあります。お子さんが小さいころは一緒に来園する機会もあったけれど、そのきっかけがどんどん減ってくるようなのです。「ディズニーのおとな旅」を利用することで、大人だけでも楽しめるということに気づいていただき、たくさんある余暇の選択肢のひとつにしてもらいたい。そんな狙いがありました。
――具体的な概要は。
45歳以上の方を対象にした「“おとなの水曜日”パスポート」を販売しています。水曜日限定で、通常5,800円のパスポートが5,100円に割引になり、さらに、パーク内で買い物などに使えるショッピングチケットが500円分ついています。ほかにも、周辺のディズニーホテルで利用できるレストランやエステの特典、シルク・ドゥ・ソレイユの鑑賞割引など、東京ディズニーリゾート全体で楽しんでもらえる内容になっています。
もうひとつ、今年から始めたのが「母と娘のちょっとリッチなおとな旅2DAYS」という旅行商品です。パークのパスポートに、ホテルでの宿泊やパーク内レストランでのスペシャルディナーコースなどを組み合わせた、お母さんと娘さんが2日間をゆっくり楽しんでもらえる内容です。こちらは、母親と娘さん二人であれば何歳でも利用できますが、就職して少し収入を得られるようになった娘さんとそのお母さん、という親子の利用を想定しています。ともに年齢を重ねた親子に、ちょっとリッチに過ごしていただき、東京ディズニーリゾートの新たな楽しみ方を体験していただければ、と思います。
――反響はいかがですか。
アンケートなどで「“おとなの水曜日”パスポート」利用者の声を集めていますが、昨年の利用者から「来年以降も続けてほしい」というご要望が多くありました。また、ショッピングチケットなどの特典の利用率が高く、パスポートの反響や認知度も少しずつですが上がってきています。のんびりと優雅に過ごしたり、童心に帰ってはしゃいだりするなど、それぞれの楽しみ方をされているようですね。
――45歳以上の「オトナ女性」を、どのようにとらえていますか。
ライフスタイルが多様化しているので一概には言えませんが、少しずつ自分の時間を持てるようになり、仕事を始めたり趣味に熱中したり、あるいは学校に通い直したりと、「もう1回、自分の人生を楽しもう」と感じ始めている年代なのではないかと思います。とても行動的ですし、少し上の世代が中心ですが韓流ブームの火付け役になったというパワフルさを見ても、これからも流行を作っていく世代だと期待を持って見ています。
余暇の選択肢が広がる中
ほかにはない「体験価値」を提供する
――「ディズニーのおとな旅」のコミュニケーション展開について聞かせてください。
45歳以上のオトナ世代が最も情報源とする新聞、テレビ、雑誌といったマス媒体での展開を重視しています。テレビCMを、「自分たちにメッセージが投げられている」という「気づき」のきっかけにしてもらい、そこから具体的な情報をきっちりと伝えられる新聞につなげていくことを期待しました。45歳以上という年代の方々にとって、新聞は信頼性が高く、そこに載っている情報にも信ぴょう性を感じてくれるはずです。
一方、今年新たに始めた母と娘向けの旅行商品では、娘さん世代に効果的な媒体であるウェブを活用しています。
課題に感じているのがクチコミです。特に「オトナ女性」世代にとって、クチコミは、もしかしたら最も影響力のある情報源かもしれません。仲間が集まっておしゃべりするような場に、いかに「ディズニー」というキーワードを出してもらえるようにするかは、まさに今、模索しているところです。
――今後の展望について聞かせてください。
余暇の種類の幅が広がった今、ただ「楽しいですよ」という情報発信だけでは選択してもらえないでしょう。東京ディズニーランドや東京ディズニーシーには、ほかでは味わえないような「体験価値」が待っていると理解してもらえれば、オトナ世代にも必ず響くと感じています。そして、楽しさを体験した人がコミュニティーの中でクチコミし、またそこから友だち、ご主人、娘さんに伝播(でんぱ)していけば、本当の意味で「ディズニーのおとな旅」というムーブメントが起こせるのでは、と期待しています。
また、現在はキャンペーンを45歳以上としていますが、「夫婦」や「三世代」といったキーワードとともに、その上の世代までも取り込んでいくことも検討しています。各層に適したプランや手法でアプローチしていきながら、「大人」というマーケットを長いスパンで育てていきたいと考えています。そのためにも、オトナ世代が東京ディズニーリゾートに何を求めているのかというニーズも、今後さらに深く探っていかなければと考えています。