SMBCコンサルティングが20年以上前から発表している「ヒット商品番付」。その年のヒット商品や社会現象、人物などを独自の基準で選び、大相撲の番付に見立てて「役」をつけている。最新の2009年の番付が11月26日、発表された。同社企画部上席推進役の武田超氏に、今年のヒット商品の傾向、来年のヒット予測などについて話を聞いた。
支出の対象を吟味し、厳選する
「節約消費」がさらに強まった
――「ヒット商品番付」の概要について聞かせてください。
「ヒット商品番付」は、単なるヒット商品のランキングとは違います。①その年の売り上げ、②消費者の認知、評判、に加え、③新しい価値を創造したか、社会にどれだけインパクトがあったか、という3つの軸で評価します。特に③を重視しているため、マーケット自体は小さくても誰もが気づかなかった新しい価値を創造したり、時代の潮流をとらえて根強いファンをつかんだりした商品にもスポットを当てます。逆に、単に「売れた」「評判が良い」というだけでは候補にも挙がりません。
また、評価は1年間にわたる協議を重ねた上での「絶対評価」です。そのため「役」にふさわしいと評価できる商品がなかった場合、該当なし、ということもあります。実際、2008年は、横綱が不在でした。逆に、評価できる商品が2つ以上あった場合は「張出」として複数が番付入りできるルールになっています。
――2009年のヒット商品には、どんな傾向があったのでしょうか。
景気の低迷が深刻化する中、消費者の今年の生活防衛意識はますます高まりました。何に支出するかを厳選して、単に安いだけではなく価値を認めたものだけを購入する「節約消費」の傾向がより強まった、と見ています。
ヒット商品を考察する上で、「お買い得」「環境」「安全・安心」「交流」という4つのキーワードが挙げられます。「お買い得」はもはや大前提、その上でプラスαとしてほかの要素も併せ持つ商品が大きなヒットとなりました。
たとえば東横綱の「ハイブリッドカー」は、消費者の環境志向をとらえてヒットしましたが、トリガーとなったのは、ハイブリッドカーでありながら低価格を打ち出したホンダ「インサイト」です。トヨタの「新型プリウス」も予想価格を大幅に下げたことで、ハイブリッドカーはほしかったけれど値段でしり込みしていた消費者の心をつかみました。さらに、「エコカー減税」をはじめとする補助制度も後押しに。「環境」と「お買い得」の2要素が、爆発的なヒットへと導いたのです。
「交流(つながり)」が重視されたのも今年の特徴です。景気のいいときは「個別消費」「個食」など個人志向が強まる傾向が見られますが、昨年以来、家族や仲間で囲める鍋関連の商品がヒットするなど、集団で何かを共有し、交流することに楽しみを見いだすようになりました。そうした交流ニーズをとらえて、新しい市場を作り出したのが、西横綱の「キリンフリー」です。アルコール分0.00%を実現したビールテイスト飲料で、お酒を飲めない場面や苦手な人でも酒の席を楽しめるというコンセプトが受け、他メーカーも続々と参入しました。
他ユーザーとの「すれちがい通信」などの交流機能でヒットした「ドラゴンクエストⅨ」、釣果を自慢し合える「釣り★スタ」がヒットした携帯電話向けゲームサイト「グリー」、30代、40代の「ガンダム世代」が子どもとの交流を深めたいと記念イベントに殺到した「ガンダム30周年」なども、「だれかと交流したい」というニーズを満たしたことでヒットした事例です。
また、今年は新型インフルエンザが猛威をふるい、対策グッズが売れました。注目は、高機能の空気清浄機のヒットです。節約志向の中、家ナカで消費したり交流したりする消費者が増えましたが、そのために「安全で安心な空気」が必要となりました。ライフラインとしての空気に積極的にお金を使ったのです。ハイブリッドカーもそうですが、消費者は価値を認めて納得すれば多少価格が高くてもハイエンドの商品を購入する、ということが明らかになったと言えます。
一方で、節約できるところは徹底的に節約する消費者が増え、職場や学校に手作り弁当を持参する「弁当男子」が出現、弁当箱の入るビジネスバッグなど関連商品がヒットしました。併せて「マイ水筒」を持ち歩くスタイルも定着しました。
SMBCコンサルティングによる「2009年のヒット商品番付」
http://www.smbc-consulting.co.jp/company/mcs/BizWatch/Hit/
――注目されたコミュニケーション戦略、キャンペーン事例などはありますか。
「お買い得」感を目に見える形で訴求したコミュニケーションが目立ち、いい結果を出したように思います。事例としては、ユニクロを展開するファーストリテイリングが手がける低価格商品を扱う「ジーユー」が990円ジーンズを発売したのを皮切りに、880円、690円と価格競争につながった「ジーンズ激安戦争」、円高ウォン安や燃油サーチャージ低下などによって激安ツアーが可能になった「韓国旅行」、ブランドのオリジナル付録でお値打ち感をアピールした「ブランド付録つき雑誌」などが挙げられます。
ロッテの「Fit's」は、ガムをかむとあごが疲れるという若者向けに、やわらかい食感のガムを開発してヒットしました。ユニークなダンスを踊るCMや、動画サイトでのダンスコンテストといったメディアミックス戦略で、ターゲット層である若者の支持を得ました。
村上春樹さんの『1Q84』は発売前に内容を一切秘密にしたことで、「ドラゴンクエストⅨ」は発売予定が大幅に遅れたことで、いずれも「飢餓感をもたらすマーケティング」が成功した事例と言えるでしょう。
平城遷都1300年祭のキャラクター「せんとくん・まんとくん」など、さまざまな「ゆるキャラ」が流行しましたが、「まねきねこダック」(アフラック)や「子ども店長」(トヨタ自動車)など、ゆるキャラ的な「なごみ系コミュニケーション」も、消費者の心を上手につかんだと見ています。
来年の注目は「環境」「交流」「子ども」
引き続き官製特需の効果にも期待
――「節約消費」が浸透したことで、消費者の意識や行動にどのような変化がありましたか。
納得した商品を得るために、消費者はより慎重に吟味するようになりました。その判断材料となるのが「情報」です。どんなお買い得な商品があり、それがどこで手に入るのか、という情報は、実は経済紙や経済ニュースを扱うサイトなどにいち早く載っているのです。こうしたメディアは、主婦である妻よりも、夫の方が身近に接触します。事業仕分けならぬ「生活仕分け」をする家庭が増えており、かつては家庭内の消費について妻が権限を持っていましたが、それが情報力のある夫側にややシフトするようになったと見ています。給与が頭打ちとなり、夜遊びせずに早く帰宅するようになったことも、夫の家庭生活参加を促す結果となっています。
家庭生活を大事にする夫が増えているように、経済環境の激しい変化に疲れた消費者は「家族」「地域社会」「歴史」といった自分の原点を探し求めています。ここ数年来、「仏像ブーム」「歴史ブーム」が続いており、今年は「国宝 阿修羅展」が大盛況でした。これらのことからも、原点回帰・回顧志向が強まってきているものととらえています。
――「2010年」をどう予測しますか。
経済環境の劇的な好転は考えにくく、基本的には今年の動きを踏襲するものと見ています。キーワードは、①節約・環境、②安全・安心、③共有・交流、④原点回帰、の4つです。
来年も環境対応商品には引き続き注目が集まるでしょう。中でもソーラーパネルは官製特需により、LED電球は価格低下が引き金となって、それぞれ普及する可能性は高いと考えます。エコカーに続き、エコの2輪バージョンとして電動スクーターにも注目しています。
また、2010年は2月の「バンクーバー冬季五輪」、5月の「中国2010年上海万博」、6月からの「2010FIFAワールドカップ」と、複数の国際的イベントが予定されています。完全地デジ化を前に、薄型テレビの需要はさらに加速されるでしょう。国内では、平城遷都1300年を迎える「奈良」が、日本の原点として注目を集めると思います。
なお、ヒット商品のカギとなる消費者層としては、購買力がありながら買い控えをしていると思われる「団塊世代」と、10代から20代半ばまで年齢層を拡大している「ギャル層」に注目しています。ママになってもギャルの価値観で行動する元気な女性たちが、新たな流行や消費をリードしていくのでは、と考えます。
エコポイントやエコカー減税、ETC導入による高速料金割引など、今年は政府による経済刺激策が消費を喚起し「官製特需」にわいた年でした。来年は特に「子ども手当」が注目です。景気が悪いときでも子どもに関する支出は減らさないという家庭が多く、子ども向け、あるいは子どもと大人が交流できるようなモノやコトに、大きなヒットの芽があるのではと思います。「節約消費」はさらに成熟し、消費者は限られたお金を最大限に生かした楽しみ方を志向すると予測しています。