ユニクロは今回のカンヌ国際広告祭で「公式Tシャツ」を制作、販売した。カンヌ国際広告祭のシンボルであるライオンをモチーフに一般からデザインを公募、10作品が商品化された。
カンヌ国際広告祭の期間中は、「日替わりユニクロメッセージマネキン」が会場各所に登場。Tシャツを販売するブースを設け、フィルム部門の授賞式ではレッドカーペットの両脇にTシャツを着たマネキンを並べるなど、一連の取り組みが大きな注目を集めた。
ユニクロ取締役 ファーストリテイリング グループ上席執行役員の大苫(おおとま)直樹氏にお話を聞いた。
カンヌの取り組みを通じ、世界へ「ユニクロワールド」を発信
――カンヌ国際広告祭の「公式Tシャツ」を手がけることとなったいきさつは。
昨年、チタニウム部門とサイバー部門でグランプリを受賞し、カンヌ国際広告祭のチェアマン、テリー・サベージ氏と懇親の機会を持てたことがきっかけとなりました。Tシャツのメディアとしての可能性を感じていた同氏から、「コンテストなど独自の企画を打ち出せないか」と相談を持ちかけられたのです。これまで「個性を表現するメディアとしてのTシャツ」を標榜(ひょうぼう)してきた当社にとっては、
世界でのプレゼンスを高めるいい機会ととらえ、早速持ち帰って2、3カ月で話を詰めました。
そして、昨年11月から「カンヌライオン Tシャツグランプリ」として、デザインの公募を開始。短期間の準備だったにもかかわらず、51カ国からエントリー、1,448点もの作品が集まり、その中から10点を選び商品化しました。日本国内や海外店舗で販売するとともに、カンヌの会場でブースを大々的に設けて販売しました。
10点の中からグランプリに選ばれたのは、多摩美術大学の学生、shoさん。カンヌでユニクロ主催の授賞式を実施し、サベージ氏から記念トロフィーを授与されました。
――ブースのほかには、カンヌでどんな活動を行ったのでしょうか。
まず会場のあちこちに「日替わりユニクロメッセージマネキン」を立てました。Tシャツの表側は、毎日カンヌで配られる『ライオンズ・デイリーニュース』(ショートリストや、賞に関する最新ニュース、セミナー情報などを掲載する冊子)と連動させる形を取りました。
フィルム部門の授賞式では、会場までレッドカーペットが敷かれるのですが、その両脇に20体ほどのTシャツを着たマネキンを並べました。賞の候補者たちが会場に入って行くときは、「Who will Win?」、出て行くときは「Good Bye Cannes」「See You in Paris in Autumn 2009」(※)といったTシャツのメッセージが見えるようにしました。フィルム部門の授賞式はカンヌ国際広告祭のクライマックスともいえますが、そこでたくさんの人に大きなインパクトを与えることができたと、手ごたえを感じています。
(※ユニクロの大型旗艦店が、今秋パリにオープン予定)
――カンヌのどのような点に魅力を感じ、取り組んでいますか。
カンヌは、世界のトップレベルのクリエーターが集う場所です。そういう方々にユニクロを知ってもらい、願わくはユニクロと一緒に働いてほしい。感度の高い彼らにユニクロをブランディングしていくことで、クチコミ効果も期待できるとも考えました。
今秋のパリ大型旗艦店オープンにむけ、話題性を喚起
――秋には、パリに大型旗艦店がオープンするそうですね。
ユニクロのグローバル旗艦店は、ニューヨークのソーホー、ロンドンのオックスフォードストリートにありますが、3店舗目として、パリのオペラ座付近にオープンします。
話題性を高めていくために、1カ月間のみの小規模な期間限定店を近隣に立ち上げています。人気セレクトショップ「コレット」でも、ユニクロ商品を取り扱ってもらっています。また、市内を走る70台ほどのバスに広告を掲出。オープンが近づいてきたらバスの台数を増やし、地下鉄をジャックするなど、さらに盛り上げていくつもりです。
――「UNIQLO FROM TOKYO TO PARIS」というページを、ウェブサイト内に立ち上げています。
これは、おそらく世界一長いブログなんじゃないかと思うんですが、スクロールし続けてもどんどん下まで続いていくというユニークなものです(http://www.uniqlo.com/paris/jp/)。カンヌでの出来事やパリのオープンにむけてのさまざまな活動を掲載しています。
昨年カンヌ2部門グランプリ獲得の「ユニクロック」や、今年金賞を受賞した「Tokyo Fashion Map」など、ウェブを用いたブランディングの可能性を追求しています。
――次回、2010年の「カンヌライオンズTシャツグランプリ」の展開は。
実は当社では、Tシャツを一つのキャンバスととらえ、自由な発想でグラフィックやメッセージなどを表現してもらうデザインコンペティション「UTグランプリ」を2005年から実施しており、日本を含む世界各国から毎年1万点以上の応募が寄せられています。次回からは、この「UTグランプリ」と「カンヌライオンズTシャツグランプリ」が融合します。次回は「インスピレーション」をテーマに募集、グランプリの懸賞金は1万USドルです。
――最後に、「カンヌライオンズTシャツグランプリ」について今後の抱負を聞かせてください。
当社では、ユニクロの商品は「コンポーネント・ウェア」であるという哲学を持っています。「ブランドそのものがライフスタイルのすべて」ではありません。「服とは着る人のライフスタイルをより生き生きと実現するための部品=コンポーネント・ウェア」であると考えているのです。ベーシックなアイテムがそろう当社商品の中でも、とりわけTシャツは、世界中の人が着るもの。「Tシャツグランプリ」では、Tシャツをキャンバスに見立て、自由な発想で、多くの人に表現をしてもらえたらと思います。
「Tシャツライオン」という新部門を担うくらいの気持ちで取り組み、2010年はさらに多くの方々からエントリーしてもらえることを目指します。