CSRコミュニケーションは活動を選択的に絞り込み差別化を高めるステージに

 CSR活動があらゆる企業の取り組みへと拡大している中、本業と重点テーマの関連性や、他社との差別化が求められている。CSRのコミュニケーション戦略づくりをサポートする機能として、広告会社の役割は大きい。博報堂・コーポレートコミュニケーション局PR部の北村親一部長と、研究開発局の亀田知代子研究員に聞いた。

企業への影響度と社会の要請を見る

── CSRの浸透の経緯と現状をどう見ていますか。

亀田知代子氏 亀田知代子氏

 日本で企業のCSRが活発化したのは2003年からですが、それまではフィランソロピー的な文化・慈善活動が主流でした。その後、企業の不祥事が社会問題化し、リスクマネジメントの領域からCSRがとらえられ、多くの企業にCSRを推進する部署ができました。

 CSRが一部の企業の活動でなくなった中、社員の参加意識、あるいは自分たちのコミュケーションがお客様にきちんと届いているのかを検証することが大切になっています。また、環境など網羅的に広がったCSR活動を見直し、他社と差別化をすることも大きな課題です。企業が厳しい経営環境におかれていることもあり、自分たちのCSR活動を、選択的にフォーカスしていく段階に来ています。(亀田氏)

── 活動の「選択」を広告会社としてどうサポートしていますか。

図:博報堂流 マテリアリティ・マトリクス

 サポートするうえでの考え方のモデルのひとつとして、コーポレートコミュニケーション局と共同で開発した「マテリアリティ・マトリクス」があります(図参照)。このマトリクスの前提概念には企業のDNA、企業理念があります。その上で自分たちの活動を「自社の持続可能性に対してどのくらいの影響度があるか」と、「社会からどういったことを要請・期待されているか」という二つの軸からとらえ、企業資産をきちんと使っていきましょうという提案です。

 大きなポイントは、社会からの要請や期待を高低で見るのではなく、潜在的か顕在的かで見るという点です。例えば環境活動への社会認識の高まりに比較すれば、女性の社会進出に関する問題はまだ潜在的でしょう。しかしポテンシャルとしての期待は高いわけで、例えば化粧品メーカーなどにとっては価値が高く、その企業がやる意義をもった差別化ポイントになりえます。(亀田氏)

グローバルな競争力企業の求心力として

── 企業の直接的なパートナーであるコーポレートコミュニケーション局は、企業のCSRのとらえ方の変化をどうとらえていますか。

 第一は、社内を引き締めるためにコンプライアンスを必要とする企業が多いということ。もうひとつは、企業が大きく飛躍しようとする時、社員が誇りを持てる会社をつくっていくために、CSR活動に取り組むケースが増えているということです。周年などを契機として新たな経営計画を推進する場合、単なる目標値だけではなく、「我々の会社はどんな社会的な存在になるか」ということを社員に伝えて一丸となっていかなくてはなりません。CSRはその核になるものです。

 そして三つ目として最近多いのは、グローバルに事業を展開する企業の取り組みです。アジア進出が進む外資系企業は今、地域における存在感をCSRを通じて形成しています。これが何に影響するかいうと、現地における雇用であり、マーケットの拡大です。日本企業もそこに気づきはじめました。特に中国では、利益の社会還元を目に見える形で果たさないと企業を評価しない国民性があり、その点で日本企業は不十分という報告が現地からあがってきています。(北村氏)

──CSRのコミュニケーションに、新聞などマス広告が果たせる役割については。

北村親一氏 北村親一氏

 研究開発局とCC局では、CSRをさらに推進していくために「CSRを本業の近くでとらえ、社員が日常の行動の中でCSRを意識、実践する環境づくりが重要」といった提言を行っています。

 その観点でいえば、近年ではたとえば、フェアトレードによる商品を開発し、マスメディアを使った商品広告でキャンペーンを展開していくといったコミュニケーションがあります。

 また今年あたりからはNPO・NGOとwin-winの関係をつくることを真剣に考える企業が急激に増えており、テーマ選択の段階からの協力や橋渡し役を求められることが弊社でも多くなりました。NPO・NGOの人的資源や活動のネットワークと、企業の資金力とコミュニケーション力を融合させることは、CSRの現在の大きな潮流です。さらにその取り組みを全国の営業拠点や社員レベルに浸透させ、その活動に共感したり、参加を求めたりする生活者との接点にするためには、やはりマスメディアの機能が重要です。

 CSRの究極の目的は企業に対する信頼感の確立です。やっていることを伝える、多くの参加性や共感をとりたいというCSRの基本的なコミュニケーションにふさわしいメデイアとして、新聞の価値はやはり大きいと思います。(北村氏)