企業コミュケーションの全体像の中で常にあるべきCSRへの意識

商品だけでは差別化できない

 アサツーディ・ケイでは、2007年にCSRに関するコミュニケーション活動を戦略的にサポートする専門チーム「ADK CSR DESiGNiNG(デザイニング)」を発足させた。このチームは「CSRコミュニケーションは特別なテーマではなく、誰もが意識すべきもの」という観点から、各プランニングセクションの有志メンバーで構成。クライアント対応と直結させ、企業を担当するスタッフが日常業務の中でコミュニケーション提案を行う。コミュニケーションプランニングユニットの夏目則子氏と藤田岳志氏に聞いた。

── 近年の企業のCSR活動の変化をどうとらえていますか。

夏目則子氏 夏目則子氏

 CSRが浸透した背景として、企業の不祥事が表面化したことやグローバルに活動する企業の問題意識の高まりなどに加えて、「商品ではそんなに差別化ができなくなった」ということがポイントになっていると思います。企業あるいはブランドと、お客様とのきずなの構築が今、重要な課題になっていますが、ベネフィットだけではそれが難しい。企業の思い、企業の人柄ともいえる「企業柄」がどうなのかといったことへの生活者の意識が高まっています。

 それに対応するには、いわゆるCSRのセクションが行う活動だけでは限界があります。コミュニケーションの全体において、CSRという視点を持つことが必要というように、企業の意識もシフトしていると思います。(夏目氏)

── おっしゃるような「企業柄」を高めるCSRとは。

 日本ではまだ、自社のブランドに対する認識が曖昧(あいまい)な企業が少なくありません。ですからまず、ビジョンや、生活者にどんな価値を提供するのかといった、自分たちのバリュー・プロポジションを再認識するところから始まります。

 一方で、社会のニーズへの対応も必要です。そのための情報収集や、調査等による生活者意識の把握も、我々のプロジェクトチームの仕事です。それらと企業の立ち位置をリンクさせながら、企業の「ソサイアタル・プロミス」、つまり、企業が社会に何を約束するのか、CSR活動を行う上でのコンセプトにあたるものを形成できれば、その先でやるべきことは見えてきます。(夏目氏)

生活者の参加意欲を企業らしさに取り込む

── 企業に提案された取り組みを教えてください。

藤田岳志氏 藤田岳志氏

 提案させていただいたことの実例として、2009年10月に創業百周年を迎える住友ゴムグループの「ダンロップ」がタイで始める植林活動があります。同社が中核をなす住友ゴムグループ、あるいは住友という企業体には社会貢献の精神が伝統としてあり、特にクルマとの関係性が高いタイヤは、環境活動に取り組む必然性が社内外に理解されやすい事業です。これまでの取り組みには、従業員自らが集めたどんぐりを育てて苗木にし、地域住民と共に植栽をする「どんぐりプロジェクト」があり、社員と市民を巻き込んだ森づくり活動として高い評価を得ています。

 ダンロップタイヤの製造工場は海外にもありますが、CO2排出量削減等の環境問題にも国境はありません。百周年を迎えるにあたり、その活動を世界に広げていこうと、まずは工場のあるタイで約百ヘクタールの巨大な植林を始めることになりました。これもお客様を巻き込んだ活動として実施していきます。

 生活者は環境に対して企業が何をやっているかに関心を持つだけではなく、自分も何かをしたいと気持ちが芽生えつつあります。その気持ちに応えて、お客様と一緒に行動ができる形でのCSRが求められていると思います。(藤田氏)

── CSRの活動を、コミュニケーションとして発信していくことは重要でしょうか。

 我々の消費者意識調査では、「環境の取り組みが進んでいると、その企業の技術力も進んでいる」といった意識の相関性が高いという結果が出ています。また同時に、取り組みをきちんと伝えなければ、「やっていない」と消費者に判断されてしまう状況も生まれています。発信のない企業は、技術力への評価が低くなってしまう。特に、環境教育を受けて育った若い世代にとっては、やってない企業はありえないという感覚です。

 ただ、間違ってはいけないのは、ではその商品を買うかといえば、環境だけではモノは動かないということです。頭でっかちにならず、消費者が参加するメリットをきちんとつくってあげるということも、我々に求められている課題でしょう。(夏目氏)

── クリエーティブから見た、今後のコミュニケーションの課題は。

 最近のCSRでは、NPOなど市民レベルのネットワークをいかに企業が生かすかが重要になっています。そのときに、プロの前提と、一般的な社会の理解にはまだ乖離(かいり)があることを注意しなくてはなりません。例えば、企業はよく「○○を○%削減」と訴求しますが、一般の人はそれがもつ意味を理解できていません。

 その解決として、「分からないけれど、楽しそうだから参加してしまう」といった即行動に結びつけるコミュニケーションの仕方もあります。もうひとつは、「分かってもらうためには、もっと丁寧な説明をしよう」といった、大きな変化を将来に見据えたコミュニケーションもあるでしょう。まじめと楽しさのバランスは定量的には測れないものであり、個々のクリエーティブの洗練がさらに求められています。(藤田氏)

図:CSRコミュニケーション開発ステップ〔ADK ACD〕