7月1日、電通は営業局内にあったパブリックマネジメント・ソリューション室をパブリックアカウントマネジメント局に改編。官民が連係し広範なステークホルダーを巻き込む広報提案や、国や自治体に求められるアカウンタビリティーの強化など、パブリックセクターをクライアントとするビジネスの体制を拡充した。同局局次長の中島順氏にお話をうかがった。
経営体として行政が評価される
── パブリックアカウントマネジメント局発足の背景は。
橋本行革から小泉構造改革に至る流れの中で、官公庁の組織構造は徐々に変化してきました。同時に、戦後日本を牽引(けんいん)した官主導型の国家構造自体も、官から民へと、そのパワーの源泉に変化が生じてきたと思います。
電通では2004年に中央省庁のみならず、そこから派生している関連団体や民営化組織などを含むパブリックセクターをクライアントとするパブリックマネジメント・ソリューション室を設置しました。行政だけに頼ったパブリックインタレスト(公益)の拡大に限界が見えてきている今日、オフィシャルなセクターと、企業やNPOなどのプライベートセクターとの連係がより重要になっています。そこにも我々のビジネスチャンスを見いだしていくというのが、今回の組織改編の背景です。
── 広告会社に求められていることは。
重要なキーワードは「行政経営」です。三重県の北川正恭元知事や長野県の田中康夫前知事が取り組まれたような行政の透明化が、国レベルでも取り組まれはじめました。行政経営には行政評価が必要であり、その大きな軸がアカウンタビリティー(説明責任)とアグリーメント(合意形成)。つまり情報を開示した上で、国民の合意をいかに形成できるかという評価指標です。そこに我々がアプローチできる、大きなチャンスがあります。
セクターがかかえるコミュニケーション上の課題が多様化し、納税者でもある国民の目も厳しくなっています。政策や制度を周知するだけでなく、国民の共感や合意を得るコミュニケーションをいかに実現するかが我々の課題です。
日本ブランドの価値を高める
── 具体的なコミュニケーションのテーマをご紹介ください。
例えば日本国株式会社というものがあるとすれば、ジャパンブランド形成というのが大きなテーマです。経営体としての国・自治体ということでは、コンペティターとの関係、日本でいえば対アジア、対欧米といった視点を持ちながらブランド価値を高めていくことが重要です。我々がお手伝いしているものでは、官民の関係者が一体となって推進している「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が好例ですし、農工商連係の中で各地が進めている地域ブランドの開発も、ますます重要となるテーマです。
それから日本国株式会社を構成する企業や人材、両者の価値を上げていくことも重要です。例えば若者の人間力を高め、彼らの自立を支援する国民運動として厚生労働省が推進している「若チャレ!」は、企業、地域社会、行政・教育機関など各界を巻き込んだ新しい取り組みになっています。
さらにパブリックインタレストを追求していくと、合意形成の領域とは別の、国民に具体的な行動を起こしてもらうようなコミュニケーションが必要となります。環境省が取り組んでいる地球温暖化防止の施策や、農林水産省が今年度から本格的に取り組む食糧自給率向上のための取り組みには、国民のアクションが不可欠なのは明白でしょう。
新聞広告にも右脳的要素を
── 新聞広告を使った最近の事例をご紹介いただけますか。
03年から推進している「CO2削減/ライトダウンキャンペーン」の一環として、環境省が今年のキャンペーン初日である6月21日の朝日新聞に夜8時からのライトダウンを呼びかける突き出し広告を掲載しました。
また翌日の編集面では、東京タワーをはじめ各地の参加施設で行われたライトダウン運動「ブラックイルミネーション2008」の模様が紹介されています。結果として、広告と編集がうまく連係し、新聞が持つ呼びかけの機能と、社会的なテーマがニュースとして報道されるという特徴が、うまく生かされたと思います。
それと新聞社の個性が生かされた例としては、Jリーグが協力している法務省の人権啓発活動「子どもの人権プログラム」の紙面企画があります。百年構想パートナーとしてJリーグと理念を共有する朝日新聞ならではの企画だと思います。
──パブリックコミュニケーションにおける新聞広告の役割と可能性についてご意見は。
公共機関からの情報発信は、多様な属性の国民に対してワンツーワンでできるものではなく、大きなボリュームのマスを相手にしなくてはいけません。マスメディアの果たす役割は今後も大きいと思います。
特に、新聞広告はジャーナリスティックな視点とうまく融合することで、エネルギー問題や環境問題など国民的な合意形成が必要なテーマにおいて、建設的なメッセージを発信できると考えます。もともと新聞はシンポジウムの採録など「堅い企画」に向く点が公共機関の情報発信に向いていました。今後は理屈で説明するのと同時に、右脳の部分で問題を「自分事」として感じてもらう、社会と個人を巻き込むコミュニケーションにも可能性を広げていく挑戦をしていければと思います。
朝日新聞社主催「2008年地球環境シンポジウム」の採録紙面下に掲載