アイテム売りから豊かな生活イメージの提案へ

 買い物客の気分を大きく左右する店頭メディア。購買行動につなげるためのメーカーの取り組み、流通の新たな動きについて、インストア・マーケティングを始めプロモーション活動の全般を支援する日本POP広告協会専務理事の坂井田稲之氏にうかがった。

お店に応じて売り言葉を変える

坂井田稲之氏 坂井田稲之氏

── 消費者の現状について。

 消費者の好みの多様化だけでなく、経済面での構造変革が進む中で、巨大な中流市場は消滅し、「格差市場」への分化が始まっています。一部の富裕層を除くと所得が減少傾向にある中で、こだわりの強い商品分野にはお金をかける一方、それ以外の分野では節約するといった消費行動が目立ち始めています。例えば、多く出回り始めた「プレミアム品」や有機野菜などが売れているのは、必ずしも高所得者が買っているわけではなく、その商品分野への思い入れの強い人が買っているのです。そんなとき売り手に求められるのは、何を売るかではなく、どの層に向けてどんな価値をアピールするかの発想ではないでしょうか。

── 競争に勝つためメーカーが取り組むべきことは。

 顧客層に合わせて価値をアピールするには、どこを切っても同じメッセージではなく、売り場にあわせ訴求点を変え、同じ売り場でも店内メディアの顔つきを変える努力が必要だと思います。例えば、近接するスーパーAとスーパーBで同じブランドを売り込む場合、同じ売り方では顧客の取り合いになります。両店の特徴にあわせて売り言葉を変え、それぞれ別の顧客層を獲得する。難しいのはブランドの世界観をいかに一貫させていくかで、メーカーの悩みもそこにあります。別の見方をすれば、メーカーと流通の間に立って“言い換え”を担うプロモーションにビジネスチャンスがあると思います。

── POP広告の役割とは。

 マス広告は、好感度を高めるためのいわば種まき。刈り取り役を担うのがPOP広告です。売り場では、損得という判断基準が前面に出てきます。そのとき、“買い損”のリスクを一掃する品質情報が効いてきます。同時に、メーカーが築き上げたブランドイメージを、単なるマス広告の焼き直しではなく、売り場に合わせて表現することで“指名買い”につなげることもできると思います。

── 流通とメーカーのニーズのギャップについて。

 メーカーは自社のブランドが売坂井田稲之氏れれば流通側も儲(もうか)ると考えがちです。しかし、小売業は、単品ではなく売り場単位の売り上げで管理しています。つまり、ブランドスイッチではなく売り場の客数が増えて初めて利益となるわけです。大手メーカーの中には、流通と定期的に売り場強化の会議を開いてアイデア出しをしているところもありますが、そうした動きはますます増えると思います。

豊かな生活イメージを売り場で表現

── 流通側の課題は。

 今日の消費者は、限られた所得の中でいかに自分のこだわりを確保するかを迫られており、流通側には限られた所得を意識した豊かな生活イメージの提案が求められています。

 豊かな生活というのは単純に価格の高さに起因するものではありません。「エコ」や「デザイン」、「知性」など、消費者にこだわりを感じてもらえる価値は数多くあります。個々の売り場は、消費者が感じるこだわりを細分化し、それに基づき商品を分類したうえで、どんな暮らし方や生活信条を支援するのかを鮮明にする必要があるのではないでしょうか。ますます、小売業はメーカーの販売代理人ではなく、消費者の購買代理人としてのプレゼンテーション力が問われてくると思います。

── 店頭プレゼンテーションといえば、店員の感想をPOP広告に反映した書店の取り組みがあります。

 書店の取り組みは購買喚起につながっていると思います。留意しなければならないのは、読者の興味を商品群として見せられるかどうかです。「この本が好きな人はこの本も好きに違いない」と見越して隣同士に並べる。そうした配慮が必要なのは書店に限りません。イギリスの最大手スーパー「テスコ」は、消費者の嗜好(しこう)を、例えば「エコ」「ダイエット」「デザイン」「プレミアム」といったようなカテゴリーに分けて売り場を構成し、成功しています。単品アイテムを売るのではなく一つの「価値基準」で商品群にくくることで売り場の魅力は高まります。

── 流通はどのような情報発信をしていくべきでしょう。

 従来は、ストア・ステータスをアピールする傾向にありましたが、今後はいかに多様な「生活イメージ」「豊かな人生論」を掲げられるかではないでしょうか。どんなライフスタイルにあった店なのか、何を重視する人のための店かを、品ぞろえ、売り場の構成、POP対策すべてで表現していくことが大事だと思います。

── 新聞広告に期待する役割は。

 可能性を感じるのは、新聞メディアの目線で商品群をくくる連合広告です。以前、オール電化をテーマに東京電力とティファールが同じ日に広告を展開したり、最近では、朝日新聞が時代小説にスポットをあてた広告特集を展開し、書店フェアと連動させた企画もありましたが、こうした価値基準の情報発信は売り場の活性化に寄与する取り組みだと思います。

 新聞は、価値や意味の伝達手段として優れており、いろんなジャンルの商品から、特定の価値観でくくった商品群を一度に見せることができます。ブランドを横断して「豊かな生活イメージ」の提案ができるわけです。

 ブランドをまたいだ企画は広告会社では提案しにくく、だからこそ新聞メディアがリーダーシップを取ってやっていくと新しいものができるのではないでしょうか。

2007年 2/7 朝刊
オール電化企画
「新聞メディアの目線で商品群をくくる連合広告に可能性を感じます。オール電化をテーマに東京電力とティファールが同じ日に新聞広告で展開したこの広告は、売り場の活性化に寄与する取り組みだと思います」