全社員が環境のノウハウを共有し最適なコミュニケーションを得意先に提案

 電通は2007年10月、アカウント・プランニング計画局に「ECOプロジェクト事務局」を新設。社内の様々なセクションで動いているエコ・プロジェクトをゆるやかに統括し、さらに推進することを目指している。事務局長の中尾潤シニア・プロジェクト・マネージャーにうかがった。

広告ビジネスにエコの視点を

中尾 潤氏 中尾 潤氏

── 御社の環境への取り組みは。

 当社の環境ビジネスに関する取り組みは、1992年のリオデジャネイロの「環境サミット」の頃に専門組織としてではなく、社内プロジェクトを作ったのがその始まりです。その後「ソーシャル・プロジェクト」という位置づけで、2000年に「プロジェクト・プロデュース局」という組織を作り、環境に関するノウハウや経験を持った人材が、自発的に研究プロジェクトを組んだり、本を出版したりする環境を整えています。現在では、NPO法人富士山測候所を活用する会の「世界エコ・サイエンス・ネットワーク会議」や、建築家・安藤忠雄氏が主要メンバーとなっている、東京港のゴミの埋め立て地を緑豊かな森に変える「海の森」プロジェクトのサポートなども行っています。

──「ECOプロジェクト事務局」新設の背景は。

 これまで「ECO」「環境」という名前を冠した特別な部門はなく、しいて言えば「ソーシャル・コミュニケーション」を担うセクションが環境関係のマーケティングを先導してきました。環境が一大イシューとなる中、コミュニケーションの可能性を広げるべく立ち上げたのが「ECOプロジェクト事務局」です。環境はもはや、現業を通じたCSRとして、また通常のマーケティングとして取り組むべきものとなってきています。社内全体にその意識を浸透させるため、人材を一つの部署に集めるのではなく、機能を一元化した事務局を介して横の連携をはかりました。社員がそれぞれの部署で環境に関する最新の情報を円滑に入手し、クライアントに提案できる体制が整ったといえます。

──事務局の課題は。

 最大の課題は社内啓発で、社内を動かすには社外に活動内容を発表するのが一番効果的と考えています。具体的には、ワークショップやセミナーを開催。昨年は「電通コミュニケーション・ワークショップ」を実施し、日本の伝統的な暮らしや価値観にヒントを見つけ、環境行動を促す“ECOジャパンスタイル”を提唱しました。この理念を込めた本『エコトバ』も刊行しました。活動に対する企業の問い合わせも増えています。

── 企業のニーズをどのようにとらえていますか。

 環境といっても具体的に何をやったらいいのか悩んでしまう企業が少なくありません。環境対策は、従来のライフスタイルや経済の枠組みの中で実践していけること、今の暮らしを変えないと推進できないこと、2通りがあると思います。いずれにしても、活動が目に見えて評価されるシステムを整備していくことで、環境行動を加速させることができると考えています。例えばCO2の削減は数値化できるので、企業の経済活動に組み込みやすく、対外的なアピールポイントにもなります。水と食糧の問題、環境にからんだ貧困の問題などCO2以外の領域にも積極的に取り組みたいと思っています。

環境への取り組みの「見える化」を

── 今後どのような提案ができると思われますか。

 環境やCSRへの取り組みについては、これまで「自分からしゃべらない方がいい」という考え方も多かったのではないかと思います。しかしこれからは、環境も「アクションとコミュニケーション」の両輪で考えていかなければなりません。そのときに重要になってくるのが「環境負荷の見える化」です。

 環境コミュニケーションの競争が激しさを増す中、差別化をはかるために「どれだけ、それが環境負荷を抑え、環境に貢献しているのか」が今後問われてくると思います。当社では昨年より、イベントにおける「環境負荷計算」の研究を大学の専門家とともに行っています。

 また、昨年12月に実施した「電通・環境意識と行動に関する調査」でわかったのですが、消費者は「ヒートアイランド」「京都議定書」「洞爺湖サミット」「排出権取引」といったマスコミによく登場する環境用語はよく知っているのですが、実際のアクションに結びつく、「地産地消」「グリーン購入」「カーボンオフセット」「フードマイレージ」といった環境用語はあまり知られていません。今後ますますアクションに結びつくコミュニケーションが求められるのではと感じています。

── 公的な活動もされています。

 今年、環境省が募集したCO2削減のための「エコポイントモデル事業」に応募しました。「スポーツイベントに、エコポイントを導入し、消費者の環境行動を推進。その体験を家庭に持ち帰ってもらう」という環境啓発型事業モデルです。

 今後は、環境省の「1人一日1KgCO2削減」キャンペーンの定着、名古屋における「COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)」の誘致活動、名古屋大学と共同で進めている「エコ・ラボ」、北海道・道民会議、神戸環境大臣会議といったイベントも控えています。

── 今後の抱負は。

 消費者の環境意識の高まりは、新聞を始めメディアの報道の力がとても大きかったと思います。環境問題は、パラダイムが変わる転換期があります。環境に「いいこと」が「あたり前のこと」に変わる転換期を予期しながら、得意先に有意義な提言をしていきたいと思っています。

電通による編集・監修の環境関連の本

『エコトバ』
電通ECOプロジェクト=編
中乃波木=写真(小学館)
『環境プレイヤーズ・ハンドブック2005』
電通エコ・コミュニケーション・ネットワーク 編著(ダイヤモンド社)
『地球温暖化サバイバルハンドブック』
デヴィッド・デ・ロスチャイルド〔著〕
dentsu eco program/LIVE EARTH JAPAN〔日本語版監修〕(ランダムハウス講談社)