クリエーティブの現場から見てスポーツコンテンツにはどんな魅力があるのか? 電通第1クリエーティブディレクション局シニア・クリエーティブ・ディレクターの福岡英典氏にお話をうかがった。
選手の生き様と企業姿勢重ねる
── クリエーターの立場から、スポーツコンテンツ、スポーツ選手を起用したコミュニケーションの魅力についてお聞かせください。
日本人はスポーツに人間ドラマを求める傾向が強いため、企業姿勢をうまく重ね合わせることで、消費者の心に届く表現が生まれやすい。それがスポーツコンテンツの魅力だと思います。スポーツ選手への共感が、そのまま企業への共感につながる可能性が高い。一般的にスポーツ選手を起用したキャンペーンは好感度が上がるというデータもあります。有名スポーツ選手の起用には高額のギャランティーがかかりますが、リターンは大いに期待できます。企業も投資価値を感じていると思います。オリンピック系のスポーツ選手は実は官公庁などのコミュニケーションにもよく使われますが、国民的な支持がバックグラウンドにあるという強みがあるからです。そういう意味では、スポーツやスポーツ選手はキラーコンテンツになる可能性が非常に高いと言っていいでしょう。
── クリエーティブを手がける際に心掛けていることは。
ビジュアルは、チャレンジ精神があふれている表情や、勝負をかける瞬間の表情をえぐりたい。キャッチコピーもよりドラマチックなものが書けたらと思います。しかし最も重要なのは、クリエーティブと企業とをどうやってリンクさせていくか。スポーツ選手をただ起用して終わりでは、もはやクライアントは納得しません。商品広告ならどうやって商品の認知や販促に結び付けていくか、企業広告ならばどういう企業メッセージとリンクさせていくか、そのための表現を考え抜きます。
以前は、プロ野球ならジャイアンツの選手以外は起用しづらい風潮がありました。しかし、プロ野球の元気がないといわれる今、実は巨人戦テレビ中継の視聴率が落ちただけで、地方の球団はむしろ観客動員数を伸ばしています。とすれば、エリア単位で考えるなら、地元の選手を起用することは、むしろ魅力的です。ファン心理としては、その選手の生き様に共感できれば、所属するチームがどこであろうと、何のスポーツ選手であろうとあまり関係がありません。ゴルフに関心がなくても石川遼選手の活躍は気になる、というファンも多いはず。スポーツコンテンツや起用するスポーツ選手を取り巻く状況は、時代とともに変化していると言えますね。
スポーツ面から夕刊活性化を
── スポーツコンテンツを使った企業コミュニケーションの動向は。
メジャースポーツに看板を出す、といったことはやり尽くされた感があり、最近は草の根的にスポーツを支援しようという、地に足のついたキャンペーンを展開する企業が増えているようです。たとえば、子どもたちにスポーツ教室を開いたり、大会の場を提供したりするといった継続性のある取り組みです。子どもたちへの支援で、親の共感を得られるし、将来的に5年後、10年後にリターンも期待できます。たとえリターンがなくても、地域貢献にもつながるというメリットもあり、CSRの一貫で着手する企業も少なくないようです。
── スポーツコミュニケーションにおいて、新聞社、新聞広告に期待される役割や可能性は。
新聞社が核になって提案すれば、大きな社会的ムーブメントを起こすことができるのではないでしょうか。たとえば、野球を北京五輪以降も正式種目に復活させようというメッセージを新聞社主導で発信し、共感できるクライアントを連合させる。そんなキャンペーンも可能だし、ぜひ実現してほしいと思います。オリンピックのときにしか盛り上がらないスポーツや、日の光がなかなか当たらないマイナースポーツを支援するような提案もできるでしょう。
新聞広告の可能性としては、夕刊スポーツ面に注目しています。時差の関係でメジャーリーグの結果は夕刊に掲載されています。これをうまく活用したスペースの使い方や表現があるのでは、と。メジャーリーグで活躍する日本人選手を起用した広告を、試合のある日には掲載し、そこに試合結果とリンクしたメッセージを発信できれば、ファンは必ず注目すると思います。当然、利用しようという企業も増えるでしょう。新聞社にとっても、夕刊の活性化につながります。そのためには、紙面も新聞社の体制も、よりフレキシブルに対応する必要があると考えます。
地域に密着し、子どもたちのスポーツ支援をする企業が増えたと触れましたが、これらの活動とも新聞という媒体は親和性が高いととらえています。こうした動きがさらに広まれば、スポーツコミュニケーションにおける新聞および新聞広告は、さらに存在感を増していく、と期待しています。