メディア観のシームレス化と“顔”を重視する若者たち

 「次世代」が夢や希望を持って幸せに生きるために、若者を取り巻く社会について調査・研究しているサントリー次世代研究所が、『若者メディアライフスタイル調査』の第一弾「若者たちを取り巻くメディアライフスタイルの実態とその将来像」を10月に発刊した。若者のメディア利用の実態や意識、新聞のとらえ方について、研究員の宍戸奈津子さんにうかがった。

テキストメディア回帰行間のぬくもり見直す

宍戸奈津子氏 宍戸奈津子氏

――調査の背景を教えてください。

 現在は、メディア環境の急速な変化により、若者のメディアライフスタイルが大人には見えにくく、理解しづらくなっています。今回、若者の実態を調査することで、メディアを取り巻く課題を明らかにしたいと考えました。

――この調査の特徴は。

 大人側の視点で仮説を立てるのではなく、事前に若者同士のワークショップを開き、若者の言葉を使ってメディアやコミュニケーションの課題を見つけてもらいました。その後、首都圏、近畿圏、その他エリアの18~25歳の大学生計600人を対象に、インターネット調査を行いました。

――そこから見えてきたことは。

 一般的に若者の“活字離れ”が言われていますが、「1年前に比べて、本を読む頻度が増えた」と答えた人は約3割(29.8%)。これはパソコン(39.0%)に次ぐもので、携帯電話(26.7%)より多い数字です。

 最近では、ケータイ小説が書籍化され、ベストセラーになるなど、ネットをきっかけにアナログ的な行間のぬくもりが見直されているようです。「本」と「雑誌・マンガ」、「本」と「新聞」などテキストメディア同士の接触頻度の相関がテレビやラジオに比べて高いという結果も出ました。活字を好む若者が、確かに存在していることがわかりました。

社会人になったときに読むと思う「新聞」

サントリー次世代研究所『若者メディアライフスタイル調査』より サントリー次世代研究所『若者メディアライフスタイル調査』より

 若者独自のメディア観があるのではと予想していたのですが、驚くような結果がなかったことが一番の驚きでした。「社会人になったときに使用していると思うメディア」に86%が「新聞」と答えています。現在、mixiに代表されるSNSを男性56%、女性69%が利用していますが「社会人になったとき利用している」と思う人は全体の約3割強、利用者でも5割を切っています。社会人になったら新聞を読むもの、というイメージを抱き、学生モードとの切り替えスイッチを持っていることがうかがえます。

――パーソナルメディアは。

 こちらは、明らかに世代による違いがありますね。大学生の生活に、携帯電話、メール、SNSがしっかり入りこんでいます。

 特徴的なのは、パーソナルメディアとマスメディアを組み合わせて利用していること。例えば、学生たちは1対1では個人的な話より、マスメディアからの話題や情報を重視しています。「最近1カ月で印象的だった話」では約3割が「友人や家族」を情報源にあげ、そのうち53%が社会問題や芸能ニュースの話題と答えています。

 現実の友だち付き合いでは“自分”や“自分の話”を出さない。「空気を読むのが大切」と答えた学生は約95%でした。若者の気遣いが垣間見える結果です。

――今後、若者に対するメディアの可能性は。

 若者は多様なメディアを幅広く使い、シームレスにとらえています。情報を取り入れる判断は、自分にとっての興味や価値。ブログでは、書き手の背景や人柄に賛同できるか、親しみを感じるかで情報を取捨選択しています。一部では「情報0円」と言われる時代の中、彼らには広告のような「無料の情報は信頼できない」という先入観がないのです。つまり、若者はどんなプロセスを経た情報でも、アウトプットの状態を見て同じ情報の一つとして自然に受け入れる素地があります。

――これから新聞に求められることは何でしょうか。

 メディアとしてとらえています。ただその信頼は漠然としています。情報を主にアウトプットの状態で判断するということは、プロセスに対する想像力が欠けているということです。しかし、新聞が、何に裏打ちされた取材をし、どのようなチェックを経て発行されているかは、若者に限らず、一般的な立場では見えにくいことも事実です。製作のプロセス、書き手や新聞自体の“顔”が見える情報発信といった工夫もひとつの方策かもしれません。

『若者メディアスタイル調査』の報告書

宍戸奈津子(ししど・なつこ)

サントリー次世代研究所研究員

1996年サントリー入社。情報システム事業部在籍中に情報学修士を取得。2004年10月より不易流行研究所(現次世代研究所)にて、若者の情報行動について調査をすすめる