海外企業や日本のベンチャー企業を誘致し、新事業の創出を支援

 国内外でビル事業や住宅事業を展開し、海外企業やベンチャーのビジネス支援などにも力を入れる三菱地所。今後の展望について、取締役社長の杉山博孝氏に聞いた。

──グローバル成長企業向けのビジネス支援を積極的に展開していますね。

杉山博孝氏 杉山博孝氏

 当社は2007年に竣工(しゅんこう)した新丸の内ビルディングに、新事業の創造拠点「EGG JAPAN(日本創生ビレッジ)」を開設しました。当社の企業ネットワークを生かし、イベント等でビジネスパートナーの紹介、弁護士・会計士や法務の専門家の紹介などを行っています。おかげさまで大変好評で、直近1年間でも参画企業は増加しており現在は44社。多数の勢いのある海外企業が、日本進出の足掛かりにされています。

 来年7月には、千代田区大手町で開発を進めている「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」において、「グローバルビジネスハブ東京」がオープンします。またこのプロジェクトでは、温泉を掘削し皆様に気軽に使って頂くとともに、災害時には復興に携わる方に開放していく予定です。大手町エリアでは、再開発事業にともない、国際交流拠点や国際医療サービスを提供する医療機関の整備、サービスアパートメントの誘致といった、グローバルビジネス拠点に必要な機能の導入を順次おこなっています。この「グローバルビジネスハブ東京」では、海外成長企業や日本のベンチャー企業を誘致し、新事業の創出と拡大を支援していきます。

──東京駅に隣接する常盤橋街区の再開発プロジェクトについても聞かせてください。

 本事業は、東京駅前のビジネス中心地に位置し、開発街区内の下水ポンプ場、変電所といったインフラ機能を維持しながら、10年を超える事業期間をかけて、段階的に複数のビル開発を進めます。2027年に竣工(しゅんこう)予定のビルは地上61階、地下5階建てで、国内で最も高くなる予定です。シンガポールのマリーナベイ・サンズのように、東京の新しいシンボルとなるよう、「この都市に来たら、ここは必見」というような魅力ある場所にしたいと考えています。常盤橋街区の開発面積は3ヘクタールに及び、広さと高さを合わせ、一つの街の機能を果たすことになるでしょう。日々変わりゆく時代のニーズに応じながら、アトラクティブな街づくりを進めていきたいと思います。

──海外におけるビル開発や住宅開発も増えていますね。

 現在、営業利益に占める海外事業の比率は1割程度ですが、2割程度に引き上げる展望を持っています。参入から数十年の歴史を重ね、ローカルプレーヤーとして認知されているニューヨークやロンドンをはじめ、今後は、中国や東南アジア各地で住宅開発や都市開発を発展させていけたらと考えています。その際は、ハードだけでなく、ビル運営やネットワークづくりなど、ソフトのノウハウも大きな強みになると考えています。

──丸の内以外の国内事業についてはいかがですか。

 都市はコンパクトシティ化が進んでおり、その傾向はますます強まるでしょう。また、高齢化が進んでいますが、今の高齢者はとてもアクティブで、文化的な刺激を求める人が多い。そうしたニーズに応えるため、当社の持つノウハウを生かし、商業施設事業や住宅事業を含めて貢献できることが多くあると考えています。

──ご自身の仕事において大事にしていることは。

 ディベロッパーの仕事の肝は、人と人との関係づくりです。オフィスビル事業などは、B to Bの仕事だと思われがちですが、実際はB to Cの意識が不可欠。オフィスで過ごす方々のニーズを身近に感じられるディベロッパーでなければならないと思っています。

──人材育成のポイントは。

 当社は、社員は企業にとっての重要な経営資源であるとの認識のもと、「人材」ではなく「人財」と捉え、求める人財像を「人間力」「不動産力」「仕事推進力」「経営力」「グローバル対応力」の五つの力を備えた人物であると定義しています。私は、五つの中で最も大切なのは、「人間力」だと考えています。人間力は、座学で身につくものではありません。当社では、入社後10年の間に三つの部署を経験するジョブローテーションを実施しています。配属先はグループ会社も含み、職場も案件の規模も異なるので、幅広い経験を積むことができます。そうした中で、五つの力を備えてほしいと思っています。

──リーダー哲学は。

 トップダウンではなく、聞く耳を持ち続けたい。いい人財が最大限に力を発揮し、個々の力の集合がさらなる力を生むような組織づくりに腐心しています。

──愛読書は。

 学生時代は、堀辰雄、立原道造、福永武彦などに傾倒しました。室生犀星が堀や立原について書いた『我が愛する詩人の伝記』も愛読書です。推理小説や歴史小説も好きです。

杉山博孝(すぎやま・ひろたか)

三菱地所 取締役社長

1949年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒。74年三菱地所入社。経理部、宅地開発部、人事部、総務部、企画管理本部などを経て、2007年取締役常務執行役員。10年専務執行役員。11年4月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、杉山博孝氏が登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.80(2015年12月27日付朝刊 東京本社版)