「VISION 2020」を発表。2020年までにクラウドでナンバーワンを目指す

 今年創業30周年を迎えた日本オラクルが、「2020年までに日本市場においてNo.1 クラウドカンパニーになる」という目標を掲げ、新たなビジネスモデルへの転換を図っている。取締役 代表執行役社長 兼CEOの杉原博茂氏に聞いた。

──昨年4月に社長に就任。「VISION 2020」を掲げました。ここに込めた思いと、目標を2020年に設定した理由について、聞かせてください。

杉原博茂氏 杉原博茂氏

 「VISION 2020」には、二つの主な指針があります。一つは、2020年までに日本市場においてNo.1 クラウドカンパニーになること。アメリカでは「2020vision」という言葉が「視界良好」という意味で使われますが、まさに未来への視界をクリアするためのビジョンです。東京五輪の年に重なったのは偶然で、クラウドビジネスへの転換をはかる土台作りに3年、その土台をもとにクラウドカンパニーとして確固たる存在になるための仕上げに3年間を要すると考え、2020年にゴールを設定しました。

 もう一つの指針は、「the most admired company in the industry」。すなわち、IT業界で最も称賛される企業になること。日本オラクルでは、一つの指標として「Mission85」を掲げています。世界的に称賛される企業に共通しているのは、従業員の85%以上が自分の会社を家族、親戚、または友人にすすめたいと考える企業です。そのためには、日本オラクルが常に成長し、常にイノベーティブであること。さらに、社員一人ひとりが自己実現できる職場であることが重要だと思っています。

──クラウドビジネスに注力する背景は。

 日本オラクルは、データベースのソフトでは日本で4割以上のシェアがあり、業績は好調です。オラクル創業者でCTO兼会長のラリー・エリソン、CEOのマーク・ハードからは、「業績好調の中でクラウドへの変革を目指すというのは、最も難しいミッションだ」と言われました。そこに挑戦するのは、ビジネス環境が激変する中、旧来のビジネスモデルから脱却し、新たなビジネスモデルへの転換を図ることが不可欠だと考えるからです。

 クラウドのメリットは多様です。サーバーの導入や管理にかかっていたコストが削減できるので、そのぶんをイノベーションに振り向けることができる。これまで大企業しか持てなかったITリソースを、中小企業も手にできる。日本で活用していたシステムを、海外でもすぐに使える。こうした特長を持つクラウドが、未来への躍進のカギを握ると考えています。

──クラウド市場でのシェア拡大における戦略は。

 日本オラクルは今年6月、「The Power of Cloud by Oracle」、略して「POCO」を発表しました。重点項目は主に四つです。
(1)SaaS・PaaS・IaaS の事業の拡大(※)
(2)システム事業の拡大
(3)営業強化
(4)地域拠点の拡充

(※)
SaaS…Software as a Service=インターネット経由で必要な業務アプリケーション機能を必要なぶんだけ利用できるサービス
PaaS…Platform as a Service=インターネット経由でソフトウェアを構築・稼働させるためのプラットホームを提供するサービス
IaaS…Infractructure as a Service=インターネット経由でコンピューターシステムを構築・稼働させるための基盤〈仮想マシンやネットワークなどのインフラ〉を提供するサービス

 これらの取り組みをわかりやすい言葉にすると、「クラウドで何ができるかを明確にし、クラウドをより親しみやすく敷居の低いものにしていく」ということです。例えば(4)は、今後の大きな課題で、当社の売り上げの7割は首都圏に集中しており、地域ビジネスに十分に入り込めていません。全国7支社を整備してサービスの拡充をはかり、地域企業のイノベーションやグローバル展開をサポートしていきたいと考えています。

──日本オラクルのクラウドの強みとは。

 オンプレミス(ユーザーである企業が自社内に情報システムの設備を整え、管理・運用すること)の資産を守りながらクラウドに移行できることです。また、自社内のシステムとクラウドと連携させたハイブリッド環境を構築することも可能です。変化の激しい時代においては、失敗することより、何もやらないことを恐れたほうがいい。とはいえ、大きな失敗はやはり避けたい。リスクを最小限に抑え、新しいことにトライできる手段、それがクラウドです。

 もう一つの当社の強みは、オラクルがサポートしているJava(インターネットや携帯電話、企業の情報システムなどで使うアプリケーションで標準的に実装されているプログラム言語)です。IoT(モノのインターネット)の世界においては、自動車、クレジットカード、テレビ、ゲーム、スマホ、冷蔵庫など、ありとあらゆるモノがJavaを介してつながる。こうした新しい流れにおいても、当社のテクノロジーが大きな役割を果たしていけると思います。

──リーダー哲学は。

 まず、良き市民であることが大前提だと思います。そして、お客様の課題解決のためなら、地の果てまで行く。そんな情熱を持ったリーダーでありたいと思います。

──愛読書は。

 司馬遼太郎さんの作品が好きで、一つを挙げるなら、『項羽と劉邦』。「絶対にあきらめない」という強い気持ちと、周囲の助言に耳を傾ける勇気を学びました。その他、本田宗一郎さんの『得手に帆あげて』、織田信長の生涯を描いた『下天は夢か』、IBMの創業者親子とIBMの歴史をつづった『IBMの息子』、『英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方』などが、心に残っています。

杉原博茂(すぎはら・ひろしげ)

日本オラクル 取締役 代表執行役社長 兼CEO

1960 年大阪府生まれ。1982年フォーバル入社。89年フォーバルアメリカインクに出向。93年インターテル入社。2001年EMCジャパン入社。09年シスコシステムズ合同会社入社。10年日本ヒューレット・パッカード入社。13年オラクル・コーポレーション入社。14年4月日本オラクル代表執行役社長 兼CEOに就任。同年8月から現職。

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