金融リテラシーの向上と日本経済の発展に貢献していきたい

 ファイナンシャル・プランニングの普及啓発と、FP(ファイナンシャル・プランナー)の養成・認証などを行うNPO法人、日本FP協会。個人会員数は約19万4000人(2015年6月1日現在)。上級資格「CFP®」の認定者は約2万人、それに次ぐ資格「AFP」の認定者は約15万5000人。「貿易立国から金融立国へ」「貯蓄から投資へ」という流れを陰で支える協会のリーダー・白根壽晴さんに聞いた。

 

──日本FP協会の活動概要と、その目的について聞かせてください。

白根壽晴氏 白根壽晴氏

 日本FP協会は、ファイナンシャル・プランニングの普及啓発と、社会の変革に備えて個人資産を効率的かつ安定的に管理する役割を担うFPを養成・認証しています。私たちの使命は、国民の金融リテラシーの向上に貢献し、社会全体の利益増進に寄与すること。そのためには、日本の経済が様々な問題に直面していることを、国民一人ひとりに自覚してもらう必要があります。

 輸入に頼る我が国の貿易赤字は常態化しており、原油安の影響でやや持ち直しているものの、円安の中で原油価格が上がれば大打撃です。財政再建や社会保障制度の再構築にあたっては、さらなる消費税増税が考えられます。OECD加盟国の平均消費税率は19%で、OECDの事務総長は、日本もせめて15%程度にと安倍晋三首相に提言しています。人口減少による余剰不動産の増加、それにともなう住宅やマンションの資産価値の低下も考えられます。日本のGDPの60%は個人消費で、人口減少が個人消費の減少、ひいては日本の経済力低下に直結することは明らかです。

 このような現状を自覚すれば、「国や地方自治体には頼れない、自分でなんとかしなくては」ということになるはずです。日本FP協会では、待ったなしの現状を訴えることで、ライフプランやマネープランに真剣に取り組む機運を高め、プランニングを応援していきたいと考えています。

──日本FP協会が認定する資格AFP・CFP®の特徴は。

 AFPは、FPとして必要かつ十分な知識をもち、アドバイスや提案できるFPです。CFP®は、世界24カ国・地域で導入されている資格で、認定は一国一組織により行われ、日本では弊会が認定しています。AFP・CFP®の資格は2年ごとの更新制で、高い倫理観と専門家としての知識と実務能力の向上が求められます。

──2013年に中長期事業戦略を発表されました。

 中長期事業戦略では、以下の5つの事業戦略を進めていきます。
(1)CFP®・AFPブランド向上による他のFP資格等との差別化徹底
(2)実務能力向上のための専門性の高い研修体系の整備及びビジネスインフラの拡充
(3)地域特性に相応しい支部活動を通じた地域独自のFP普及推進
(4)国と地方の広範な行政機関や金融経済教育団体、日本FP学会との組織的な連携強化
(5)新たな戦略的パートナーを加えた幅広い法人賛助会員との関係強化

 例えば(1)においては、広報活動の強化、無料電話相談、セミナーや相談会の拡充などに取り組んでいます。

 (4)においては、各省庁と協力しています。具体的には、病院の入通院者や有料老人ホームの入居者のお金に関する相談を受ける「金融コンシェルジュ」の設置(金融庁)、FPが就学支援アドバイザーとして奨学金などに関する相談を受ける活動(文部科学省)、今年4月から始まった生活困窮者自立支援制度に基づき生活困窮者の自立支援に関する相談を受ける活動(厚生労働省)などを進めています。

──FPを学ぶ意義について。

 これからの時代はFPの知識が必須だと思います。国家資格の3級FP技能士という資格もあるので、金融学習のきっかけにしてみるのもいいでしょう。就職活動中の学生なら、2級FP技能士かAFPの資格があると有利だと思います。金融のプロであれば、少なくともAFP、できれば上級資格であるCFP®の資格を取得してほしい。そうした意識を浸透させるべく、地域の金融機関などにも積極的に働きかけています。

──白根さんがFPになった経緯についてお聞かせください。

 私は以前、資本財のメーカーに勤めていました。しかし、職務が身近に感じられず、生活に密接な職業を選んで税理士の資格を取り、会計事務所を開きました。やがて、個人や法人の税収を上げること自体に関心を深め、国民の生活向上や国の経済発展に寄与するFPという職業に注目しました。私がCFP®の資格を取得した1993年当時は、マネーマネジメントやアセットマネジメントといった資産形成や資産運用に特化した仕事に比べてファイナンシャル・プランニングの認知は低く、ボランティアとして日本FP協会の活動に参加し、ファイナンシャル・プランニングの普及啓発に努めてきました。日本FP協会は87年の創立以来、着実に会員数を増やし、AFPやCFP®の資格を持つ企業経営者も現れています。理解者が増える中で、さらに活動を充実させていきたいと思っています。

──日本FP協会設立以来初めての実務家出身の理事長として心がけていることは。

 実務支援という明確なビジョンを示すことが大事だと考え、FPに求められる実務能力を整理した「コンピテンシーマップ」の作成や、実務実践型研修プログラムの創設を進めました。独立開業しているFPのみならず、企業内FPにも活用してもらっています。

──日本の将来に果たす日本FP協会の役割についてどのように考えますか。

 日本の個人が保有する金融資産は約1700兆円です。国民全体が金融リテラシーを高め、その1%でも今より有利に、例えば2%のインフレ率+1%として年利3%程度の運用ができれば、国の税収約54兆円に匹敵する51兆円が個人金融資産に積まれます。そのぶんが消費に流れ、再投資に流れれば大変な経済効果です。しかも、五輪の経済効果のようにいずれ終わってしまうものではなく、リスクと上手につき合い、身の丈にあった堅実運用をしている限り、効果に終わりはありません。「貿易立国から金融立国へ」「貯蓄から投資へ」という社会変革の中で、日本FP協会が果たせる役割はますます大きくなっていると思います。

──愛読書は。

 司馬遼太郎さんの作品群です。『街道をゆく』シリーズも全巻読みました。座右の書は、D・カーネギーの『人を動かす』と『道は開ける』。最初に就職したメーカーを辞める際に上司が餞別(せんべつ)としてくれた本です。人間関係の極意や、悩んだ時の心の持ち方が書かれた2冊の内容は、人と接するFPの仕事をしていく上でとても役に立っています。

白根壽晴(しらね・としはる)

NPO法人 日本FP協会 理事長

1954年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。住友電気工業を経て、83年税理士登録。93年第1回CFP®資格審査試験でCFP®資格を取得。97年エフピーインテリジェンス設立。同社を経営する傍ら、日本FP協会の行う金融経済教育などの活動に従事。2012年7月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、白根壽晴氏が登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.74(2015年6月25日付朝刊 東京本社版)