ワンナイトクルーズから世界一周まで 多彩なプランで顧客層を厚く

 日本最大のクルーズ客船「飛鳥Ⅱ」の運航を行う郵船クルーズ。近年のクルーズ人気に乗って客数は堅実に伸びており、好調を維持している。昨年4月から代表取締役社長を務める服部浩さんに、経営方針などについて聞いた。

──昨年4月に代表取締役に就任しました。当時の心境について聞かせてください。

服部 浩さん 服部 浩さん

 就任のあいさつでは、「原点に戻ろう」と社員たちに語りかけました。自分たちの仕事の方向性や内容が正しいかどうか、一度立ち止まって原点を振り返ってみようと。郵船クルーズは、横浜に本社を構えます。私の前職は、親会社・日本郵船の物流担当でしたが、会社員として最初の配属地が横浜だったんです。自分自身も原点に立ち返って気を引き締めていこうという心境でした。

 当社の企業理念は、「日本郵船グループの一員として、安全で高品質のクルーズ商品を提供することにより、社会の発展及び豊かな生活と文化の向上に貢献すること」です。さらに、「企業理念に基づき誠実に行動する」「船舶の安全運航に努める」「地球環境保全に努める」「社員の人格、及び個性を尊重し、良好な職場環境に努める」といった企業行動憲章を掲げます。こうした原点を、改めて社員たちと共有しました。

──クルーズ客船の運営において重視していることは。

 クルーズ客船というのは特異なビジネスで、海運業、ホテル業、旅行業を兼ねた業態です。私は日本郵船で38年にわたり物流ビジネスを担当してきました。ですが、その経験だけでは足りません。幸いなことに、当社には初代「飛鳥」就航の立ち上げプロジェクトに関わった優秀なスタッフが、陸上にも海上にもいます。彼らの力を借りながら自分なりに経営課題を探る中で、確信できたことがあります。物流ビジネスも客船ビジネスも、大事な原理原則は変わらないということです。

 第1に運航の安全。第2に品質の管理・改善。第3に作業の効率化。第4に利益。この4つの優先順位が入れ替わることはありません。利益を優先して安全をないがしろにすれば、重大事故につながりかねません。

 客船ビジネスでは、物流ビジネスの原理原則に、「おもてなし」という要素が加わります。改めて順序立てると、第1に運航の「安全」。第2に「おもてなし」。第3に「品質やサービスの管理・改善」。第4に作業の「効率化」。第5に「利益」。特に「おもてなし」は、他社と大きく差別化できる分野だと考えています。

──社員育成において留意していることは。

 現場主義の徹底です。我々は、できる限り船に出向き、時には航海中の船に乗り込み、お客様やクルーの声に耳を傾け、現場で何が起きているのか、自身の目で確かめ、サービスの向上に努めるようにしています。

──近年、欧米系のクルーズ客船が日本に参入し、安価なクルーズプランも人気を集めています。

 当社のプランは海外のクルーズ客船よりも価格設定は高いですが、最高級のサービスを提供するために、価格競争に迎合するつもりはありません。飛鳥Ⅱでは、一歩船内に入った瞬間から日常を忘れてお過ごしいただけるよう、クルーや客室のきめ細やかなホスピタリティー、食の充実、バラエティーに富む一流のエンターテインメントなどをご用意しています。あらゆる点で他船とは一線を画していると自負しています。

──リピーターも多いそうですね。新規顧客の獲得も大事だと思いますが、その対策について聞かせてください。

   

 クルーズによっては8割がリピーターで占められることもあります。その一方で、ワンナイトクルーズや一週間以内のショートクルーズでは、初めて乗船されるお客様が多いです。常にサービスの改善に努めることでリピーターのお客様に満足していただくとともに、気軽に参加できる企画を次々と繰り出し、新しいお客様を獲得していきたいと考えています。人気は花火クルーズや夏祭りのクルーズで、毎年ご好評をいただいています。

 また、昨年は現役の力士による船内トークショーや大相撲入門講座、ちゃんこのふるまいなどが楽しめる「大相撲クルーズ」を初企画し、大好評を博しました。スケジューリングがうまくできれば、ぜひ第2弾も開催したいと思っています。こうしたユニークな企画を通じて、クルーズに興味がなかった方にもアピールし、次の乗船につなげていけたらと思っています。

──愛読書は。

 座右の書は、『トヨタ生産方式─脱規模の経営を目指して─』です。「ムダ・ムラ・ムリをなくして効率化を進めよ」「5回“なぜ”を繰り返し、真因を突き止めよ」「現場に出向き事実を確認する“現地現物主義”を徹底せよ」。製造業の現場で生まれた「トヨタ生産方式」の思想は、物流業においても、そして現在携わる客船の仕事においても重要だと考えています。

服部 浩(はっとり・ひろし)

郵船クルーズ 代表取締役社長

1953年東京生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。76年日本郵船入社。IT戦略グループ長、NYK LINE(AUSTRALIA)PRY.会長、中国総代表、NYK LINE (CHINA) CO, LTD.董事長、日本郵船取締役・常務経営委員、NYK GROUP EUROPE LTD. 社長を歴任。2014年から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、服部 浩さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.72(2015年4月23日付朝刊 東京本社版)