「住友」の精神を再確認 コア事業、新規事業でさらなる躍進を

 昨年10月に東海ゴム工業から社名を変更した住友理工。路面やエンジンからの振動を制御する自動車用防振ゴムは世界シェアトップ、自動車用ホースは国内シェアトップを誇る。こうしたコア事業の強化に加え、新市場・新分野への参入を世界的に進めている。代表取締役社長の西村義明さんに聞いた。

 

──社名変更の意義と、今後目指していくビジネスモデルについて聞かせてください。

西村義明氏 西村義明氏

 世界の経営環境はめまぐるしく変化しており、リーマン・ショックのようなこともありました。あの時は当社も打撃を受け、グループ連結売上高は3,100億円から2,300億円まで落ち込む結果となりました。これを教訓に、揺るがない事業基盤の構築とポートフォリオの拡充を図るため、2011年に中期経営計画「2015年 VISION」を策定したわけです。当社の継続的な成長を目指す上で、「2020年にどうありたいか」という会社の姿を設定し、その実現に向けて2015年までに何をするべきかを示したものです。

 「2015年 VISION」の策定にあたっては、まず、2020年代初頭に連結売上高1兆円を達成することを目標に掲げ、「自動車」「情報通信」「インフラ」「住環境」「医療・介護・健康」「資源・環境・エネルギー」の6分野を成長市場と位置づけました。

 「2015年 VISION」の推進においては世界に通用するブランドが原動力となると考え、昨年10月に社名を東海ゴム工業から住友理工に改称しました。世界に知られたブランドである「住友」と、創業以来培ってきた高分子材料技術に代表される「理化学・工学」との意味を込めた新商号のもと、自動車部品事業の持続的成長と、新市場・新分野への参入を目指していきます。

──社名変更後、ブランド力を実感していますか。

 やはり「住友」のブランド力を感じます。特に海外の展示会などでは、来客数の大幅増として如実に現れています。社名を変更した今、社員一同、「信用・信頼を大切にする」「社会の変化に迅速・的確に対応し、既存の事業に安住することなく、常に事業の興廃を図る積極進取の精神を大切にする」「浮利、すなわち一時的な目先の利益や道義にもとる不当な利益を追求しない」という住友の事業精神を再確認し、さらなる成長の礎を築いていこうと気を引き締めています。

   

──中核の自動車事業の今後の展望は。

 全世界での日系自動車メーカーへの製品供給体制を確立し、それに加えて、海外自動車メーカーへの参入や、新興国での拡販を推進していきます。2013年には、イタリア、ドイツ、ブラジル、タイの自動車部品メーカーのM&Aを実施し、世界5極(日本、中国・韓国、アジア、欧州・アフリカ、米州)での開発・供給体制を構築しました。当社にとっては大きな節目であり、1929年の創業、1988年の海外初進出に続く「第3の創業」と呼んでいます。

 また、トヨタの「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」や、フォルクスワーゲンの「MQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)」など、自動車業界の最前線では、モジュール化(標準化した部品の組み合わせで製品を設計すること)や部品共通化が進んでいます。そうした流れをしっかりと捉え、全世界で高品質で最適な価格の自動車部品を開発・供給する「グローバル・メガ・サプライヤー」を目指していきます。

 グローバル・メガ・サプライヤーを目指す上では、リコールがあれば波及規模が大きいため、品質には常に留意しなければなりません。従来、当社のビジネスはB to Bが基本でしたが、「B to B to C」という広範囲の目配りを怠らず、部品メーカーとしての自負を持って、最高品質の製品を供給していきます。

──話題の燃料電池車、トヨタ「MIRAI」にも住友理工の部品が使われています。

 当社は2000年代前半から燃料電池車用の製品開発を開始し、08年からトヨタと共同開発を進め、「MIRAI」の燃料電池スタックに水素や酸素を供給し安定的に発電するのに欠かせないゴム製シール部材「セル用ガスケット」を開発しました。燃料電池車は2020年代に向けて市場規模の拡大が期待されており、当社の強みである高分子材料技術を駆使し、対応していくつもりです。今後も、当社は人と環境にやさしいクルマ社会の実現に向け、尽力していきたいと考えています。

──現在売上高比率20%の非自動車分野を2020年代初頭までに50%まで引き上げるという目標を掲げています。期待している分野は。

 例えば、ゴムに導電性機能を付加した体圧検知センサーは、医療・介護・健康の分野で期待されている商品です。車いすやベッドに敷くと利用者の方の体圧が適切かどうかパソコンなどの画面上で確認できるため、着座や就寝時の床ずれ防止に役立ちます。また、理化学研究所とともに開発を進めた介助支援ロボットは、このセンサーが腕に装着され、ベッドに寝ている人の体をアームを使って抱え上げ、車いすに優しく移すことができます。

 高齢化は日本だけの話ではなく、中国など海外でも課題となっており、医療・介護・健康の分野には大きな可能性があります。また、新技術による社会貢献的な活動は、SRI(社会的責任投資)にもつながっていくと思います。

 住環境分野で期待されているのは、住宅、オフィス、鉄道などの窓ガラスに貼る遮断熱フィルムです。年間2~3割の空調コスト削減が見込め、CO2の排出削減にもつながると期待されています。また、地震の際に住宅の揺れを抑える制震ダンパーも成長分野と見ています。

 こうした新規参入分野においても、B to B to Cのマーケティングをしっかり行い、10年、20年かけて育てていきたいと思います。今年は「2020年 VISION」を策定するので、注力事業を絞り込み、具体的な目標を示すつもりです。

──経営信条は。

 「決断」と「実行」です。決断のためには、大局観と現場感覚に裏打ちされた見識が、実行のためには、胆力と人望が必要だと思います。そうしたことをひっくるめて、「目は高く、心は広く、頭下げ、いつもニコニコ厳しい社長」を我がモットーとしています。

 また、多くの学び、経験、努力がなければ、決断力と実行力を磨くことはできません。社員たちともその思いを共有したいと考え、岐阜県各務原市に「鵜沼三学館」という研修センターを作りました。「鵜沼三学館」の「三学」は、佐藤一斎が『言志晩録』で、「少(わか)くして学べば、則(すなわ)ち壮にして為(な)すことあり 壮にして学べば、則ち老いて衰えず 老いて学べば、則ち死して朽ちず」と、生涯学び続ける意義を説いた「三学戒」にちなんでいます。「鵜沼三学館」には図書室も設置し、日本語の本だけでなく、海外からのスタッフや来客のため、外国語の本も置いています。

──俳句が趣味だとうかがいました。

   

 俳句には10代の頃から親しんでいます。中学2年生の時に、『中学時代』という月刊誌に俳句を投稿したところ、佳作に入賞したんです。「夕焼けや 川岸低く 赤とんぼ」と、季語が二つ入ってしまっている俳句なんですが(笑)、景品に万年筆をもらいました。大学卒業後、住友電気工業に入社し、入社7年目にアフリカのナイジェリアに勤務した際には100首近く作り、小冊子にまとめました。いずれは今まで詠んだ俳句を一冊にまとめたいなと思っています。

──愛読書は。

 思い出深いのは、浪人時代に読んだ『日本の歴史』です。本書を通じて物の見方が広がりました。仕事の参考になったのは、『住友の大番頭 伊庭貞剛』、『会計基準の針路』、『トヨタ対VW 2020年の覇者をめざす最強企業』など。趣味の俳句に欠かせないのは、季語が一覧できる『俳句歳時記』で、春版、夏版、秋版、冬版、新年版の5冊あり、それぞれ季節ごとに携行して俳句を詠む時の参考にしています。

西村義明(にしむら・よしあき)

住友理工 代表取締役社長

1948年京都府生まれ。72年京都大学経済学部卒。同年住友電気工業入社。2003年常務取締役、07年代表取締役専務取締役を経て08年6月東海ゴム工業(現・住友理工)代表取締役執行役員副社長。09年6月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、西村義明さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.70(2015年2月23日付朝刊 東京本社版)