コミュニケーションが大切 社員とも顧客とも

 医薬品・医薬部外品・化粧品を製造・販売するユースキン製薬。ハンドクリーム「ユースキンA」は、発売から58年になるロングセラー商品だ。その誕生秘話や、会社の歩みについて、代表取締役社長の野渡和義さんに聞いた。

──主力商品の「ユースキンA」が誕生した経緯は。

野渡和義氏 野渡和義氏

 「ユースキンA」は、私の父が営んでいた薬局を訪れた一人の主婦の声をきっかけに誕生しました。当時は石油系油脂のハンドクリームが主流でしたが、手荒れに悩むその主婦は、「べとつかずにもっと手あれに効くものがないものか……」と嘆いたそうです。そこで父は、化学・薬学の専門家である綿谷益次郎氏の協力を得て、べとつかない親水性のクリームにビタミンB2や血行促進成分カンフルを加えた医薬品クリームを開発し、「あなたの肌」を意味する「ユースキン」と名付け、1957年に発売を開始しました。当社の主力商品は、今もこの「ユースキンA」です。

──野渡さんがユースキン製薬に入社したきっかけは。

 もともと父の会社に入るつもりはありませんでした。昔は自宅の1階が薬局で、両親や社員たちが忙しくしている様子を見ていたので、自分はもう少し違う働き方がしたいと思い、最初はハウスメーカーに就職しました。ところが、営業成績がちっとも上がらない。商品に愛着が持てなかったからだと思います。営業会議で責められ、ストレスを抱えました。それを察した父が「うちに来い」と言ってくれて、転職を決意しました。

 入社してから8年間は、栃木や群馬のような、冬場乾燥し、手工業がさかんな地域をはじめ、全国の薬局を営業車で一軒一軒回りました。ユースキン製薬の商品は身近なものでしたが、営業に出てみてリピート購入率の高さや顧客の反響から、その高い商品力を実感しました。

──1988年に社長に就任されました。

 経営状況が最も厳しい時期の社長就任でした。というのも、1983年にいち早く妊娠検査薬を輸入し、薬局での市販に挑んだものの、医師の反発に気を使う行政からの「指導」に対して、法律違反ではないと薬局を説得してようやく販売にこぎつけた途端、それまで様子を見ていた大手・中小の業者が一斉に参入。そのあおりで大量の在庫を抱えました。あわや倒産かという危機を何とかしのいだタイミングで父から社長交代を言い渡されました。

 就任後は輸入製品の取り扱いをやめて自社製品一本で勝負し、2年半で損失を取り戻しました。痛い目にあいましたが、自社製品で十分に勝負できることに気づけたのは、大きな収穫だったと思います。

   

──「ユースキンS」シリーズも誕生しました。

 就任3年目に、アレルギー体質を改善する効果があると論文で発表された「しその葉エキス」を配合した製品の開発に取り組みました。当時私の末っ子がアトピー性皮膚炎で、同じ悩みを抱える人がたくさんいると実感していたのです。試行錯誤の末、低刺激保湿クリーム「ユースキンS」が完成し、販売を開始しました。現在はローションやせっけんなどシリーズ商品も充実し、ファンもついています。

──ハンドマッサージを体験してもらう「ハンドマッサージキャラバン」や、オリジナル格言を募集して選考会にユーザーを招くなど、ユーザーとの交流の場を積極的に作っています。

 もともとがユーザーの声から生まれた製品で、熱心なリピーターも非常に多く、お客様とのコミュニケーションは何より重視しています。多い時には1日100通ほどのアンケートはがきが寄せられるので、私も社員もすべてに目を通し、製品やサービスの改善につなげています。

──ロングセラーの秘けつは。

 マスコミ宣伝が出来なかったので長い時間かかった、というタイプのロングセラーですけど(笑い)。ともかく、売る人間が商品にほれ込んでいること。これに尽きると思います。良い商品だと信じているから広めたいという気持ちになり、その思いが相手に伝わる。小さな自営薬局からスタートし、少しずつ置いてくれるお店が増え、点から面に広がったのは、売る人の熱意があったからだと思います。

──今後の取り組みについて。

 ユースキンシリーズの売り上げ増が続き、これまで稼働してきた横浜工場では手狭になってきたので、工場機能を富山に移転し、生産量の倍増を目指します。富山は地震などの災害が少なく、医薬品メーカーが多いため、薬品向けの樹脂容器や包装材料を得意とするメーカーが集積していますので、移転先としては申し分ありません。2016年にはフル稼働の予定です。

──昨年、口腔(こうくう)ケア市場に参入しました。

 数年前に、「産学連携」に力を入れている地元・川崎市が主催するビジネスマッチング商談会で、日本医科大が、抗菌作用のある緑茶成分を使った苦くないうがい液の開発パートナーを探していることを知り、共同で開発を進めました。病院や介護の現場で活躍する可能性のある商品で、今後、販路を開拓していきたいと考えています。

──社員育成について、どのように考えていますか。

   

 私の経営信条は、社員が能力を発揮しやすい環境を作ることです。「成果を上げろ」とけしかけるような経営手法は好みません。社内コミュニケーションを重視し、社長であっても気軽に話しかけてもらえるような雰囲気づくりを心がけています。オフィスや社員食堂の空間づくりもそうですし、書道クラブや論語塾など、互いに成長できるような文化活動にも力を入れています。

──愛読書は。

 日本各地の歴史や文化を司馬遼太郎さんが独自の視点でつづる『街道をゆく』は、営業で地方を回っている時に読み、心の張り合いにしていました。地形の描写に無駄がなく同じ場所に立って読み返すのは楽しみでした。近年は中国の古典を勉強しているので、『ドラッカーと論語』、『漢文力』などが心に残っています。

野渡和義(のわたり・かずよし)

ユースキン製薬 代表取締役社長

1949年神奈川県生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。73年ユースキン製薬入社。営業・商品企画畑を歩んだのち、常務取締役を経て88年から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、野渡和義さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.69(2015年1月26日付朝刊 東京本社版)